ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第2章 妖艶なヴィラネシア

第14節 弔い

 ある日、その日は前代未聞といえるほどの災難な日であった。
 それはドスボンが亡くなったというニュース、トライトのハンター全員に指令が下った。
 ドスボンとはトライトのハンターズ・ギルドのマスターで、政財界の重鎮でもあった。 しかし、それが殺害されたということがすぐに判明したため、 ドスボンの死の真相を突き止めるというミッションがトライトのハンターズ・ギルドのハンター全員に下されたのである。
 それについて、再び大臣ルームで――
「これでやつがくたばったか。 できることなら自殺を装っての行為を期待していたのだが――」
「勘弁しろ、ターゲットは例によって影武者の多いドスボン、 機会はそうそうない――殺れただけでも十分だ」
「うむ、わかっておる、この際だからそれで良しとしよう、お前はよくやってくれたようだな」
「そんなことより、約束通り残りの報酬をいただこうか」
 大臣は報酬を渡した。
「さて、そこで次の指令についてだが――」
「なんだ? 次は誰を殺ればいい?」
「ふむ、さすがに、ドスボンの死をもってすればおとなしくなったかと思えば――今日もまた、 あのハンター風情と共に活動をし、ハンターごっこを楽しんでいると来たもんだ。 姫はまるで人が変わったかのようだ」
「確かに誘拐した時と比べると、まるで違う人物な印象を受けるな。案外、違う人間だったりしないのかよ?  そもそもあの女は最後、だいぶ衰弱しちまっててまともに動けなかったような気がするが」
「だが生きておる。違う人間かもしれないとは言え、見た目はどうあがいても姫、その事実だけは変わらん。 ただでさえ厄介な存在であるというに、さらに話をややこしくしてくれたものだな」
「何だよ、俺のせいだってのか?」
「……まあよい、今更その話をぶり返すつもりもないが――今度こそ、やってくれるな?」
「前も言った通りだが、高くつくぜ―― 例え王族でないとしても、標的は見た目も待遇も王族並と来ている、わかっているよな?」
「もちろんだ、それ相応の報酬は出す――が、生憎、今お前に出した分が高くついたものでな、 前金はあまり用意できないが――さっき渡した半分だけだそう」
「何言ってやがる、そんなんじゃダメだ。他を当たるんだな」
「フッ、わかっておる。だから成功報酬として、その20倍の額を出すことにしたのだ」
「20倍? マジか?」
「こんなことで冗談は言わん。直ぐには用意できないが、あの女を殺すまでには用意しておこう」
「よし、それならいいだろう――」
 暗殺者は直ぐに出て行った。そして、大臣は部屋の奥へ――

「またあの者にやらせることにしたようだな」
「はい、我が主。 とはいえ、やつはもはや用済み、プロは確かな仕事をするのですが、それに見合った対価を求めすぎるのが欠点ですな」
 すると、他方から横やりが。
「テザンド、いつものことだがキサマのやり方は金がかかり過ぎるのが問題だな」
「何だ、来ていたのか、ズイーク。 仕方がなかろう、それが人の業というもの、私はただそれを満たしてやっただけのことだ――」
「確かにそれもそうだな。 しかし、あの者が言っていた通り、姫が違う人間かもしれないというのが気がかりだが――姫でなかったらどうする気だ?」
「いずれにせよ、姫の名を語り、本物と見紛うことなき容姿をしている限りはたとえ何者であろうと抹殺する。 とにかく、問題なのは本物かどうかではない、公の場に姫という存在があるかないか、それだけなのだ。 あれがいるだけで一部の界隈には非常に顔が利く、それだけで問題なのだ。 そして、当然、我らが野望を阻止せんとするものであれば、当然ながら今のうちに芽を摘んでおくべきだと――違うか?」
「なるほど、抜かりはないな。ところで、例の害虫(聖獣)を駆除するというのは?」
「ククッ、ズイークよ、そう急くな――いずれわかる時がくる……」

 ドスボンの弔い合戦が始まり、いろいろとあわただしくなってきた。 まず、当然ながらライズは姫を護衛する任を解かれ、戻ってくるようにと指令が出された。
 そして、姫はお城のほうのお達しで、危険だからお城でおとなしくしているよう言われたが、 彼女は簡単に抜け出し、今はやっぱり彼と一緒に行動していた。
「ドスボンさんの死をきっかけに、おつきのガードであるハンターを撤収させ、私から遠ざける。 姫には危ないからお城から出ないようにと言ってさらにハンターから遠ざける。 で、私がお城で孤立しているわけだから、いつでも私を殺せるわね。 要はそういうことよ、ドスボンさんを殺したのも間違いなく大臣の仕業よ」
 彼女の発言はあまりに的を射ていた。 でも、確かにドスボンが殺害されたということだけでもテザンド犯人説は一番しっくりくる感じである、 これまでのことを考えても。
「でも、犯人が大臣だと目ぼしがついていても、この状況じゃあ手が出しづらいわね……」
 それもそうだ、実行犯が別にいると考えると、そこから大臣までどうたどり着くか――なかなか厳しいところである。

 そういったことで、2人はギルドを離れた。 ギルドにいるとドスボンの弔い合戦がマスト、 いずれにしてもフェリンが危険に晒される状況になるためそれだけは避けたいし、 何より、他に打つ手がないのだ。
 しかし、それでもまだ道は残されていた、 こういう他に何もない時こそメレア姫の望みを叶えることにすべきなのだ。 とはいえ、それでもまだ問題があった。
「ワイアンド様ってどこにいるんだ?」
 そう、彼の所在がわかっていないのである。 だからメレア姫の望みを叶えたくてもそうそうかなえられるものではない、時間が必要なのである。
「もとは確かにヴァルナジア出身の賢者様だけど、賢者様になるために”ヴァナスティア”で修行を積まれたそうよ?」
 フェリンはそう言った、ヴァナスティアと言えばははるか北西の地。 手がかりがほぼないため、とりあえずは行ってみるしかなさそうである。 そもそも賢者というのはだいたい相場が決まっていて、 その辺をほっつき歩いて――いや、それはさすがに言葉を選んだほうがいいだろうか。 各地を渡り歩き、人々を導いているか、 もしくはヴァナスティアなどの巡礼地で修行を積んでいるなどといったことをしていることがほとんどらしい。 ということは、実はヴァナスティアへ行けば会えるんじゃないのか? ライズはそう思っていた。