ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第1章 ヴァルナジアのお姫様

第6節 偽者の姫

 あれから約半日後、森の中ではイベントなど起こることもなく、2人はトライトの町へとたどり着いた。 まずは何はなくともライズの家へと到着し、各々で久しぶりのお風呂を満喫した。
 そして、その足でそのままお城へと到着、あそこで亡くなったメレア姫の意志通り―― 服装はこの際どうでもいいとして、メレア姫に成り済ましたフェリンは大層なもてなしを受けていた。
 しかし、その傍らでライズが彼女をしっかりとガードしていることになっていた、 これはフェリンとの取り決めだった、こんなところで1人でお姫様のフリしているのもつらいところがあるので、 事情を知る人間が1人一緒にいてほしいということである。確かに1人では心細すぎる。

「なんだって!? それは本当か!?」
 とはいえ、このまま黙ってことを運び続けるのもかなり厳しいことが予想される。 そのため、ライズはドレス姿となって落ち着いたフェリンと一緒に、 ファザットには会議室を完全に密室にして、ことの一部始終をすべて話した。
「そんなウソ言うぐらいなら普通ならこのまま黙っているよ。 で、大臣のテザンドも表向きはいい顔をしているが、内心は多分すごく焦っているハズだ」
 しかし、ファザットは別のことも気にしていたのだ。
「……事情は分かった、メレア姫の意思がそうであるというのなら、俺としてももちろん協力しよう。 だが、そういう話になると、ヴァルナジアはもうおしまいということになりそうだ」
 どういうことだろうか。
「実は、まだこれも公には出していない情報なんだが、陛下は既に3週間前に崩御されている」
 なんだって!?

 王は3週間も前にすでに他界している――タイミング的には姫が誘拐された少し後のことらしい。
「姫が誘拐された後だからな、公に話が出るとしたら誘拐と崩御の話題が同時に出ることは避けられんだろう。 そうしたらヴァルナジアはパニックになる、大臣の真相が本当ならこの国はとんでもないことが起こる――」
 実権は大臣がほとんど握ってしまっている、となると大臣の思うがままにこの国は進んでしまうことだろう。 というのも、ヴァルナジアに王位があるのは、亡き王を除けばメレア姫しかおらず、 彼女もいないとなるとこの国を担う者はいなくなる……事は深刻なのである。
「姫誘拐の犯人とくれば猶の事、すべてが王国転覆を狙った大臣のものとなってしまうだろう、 それを察知したメレア姫、成り済ましでもいいから生きている自分さえいれば大臣の策はそう簡単にはいかないだろう、 国民のことを思えばこそか――姫は賢明な判断をしたな」
 ファザットはそう言った。
「それにしても、あなたは本当にメレア姫ではないのか?」
 ファザットが疑うほどフェリンはメレア姫そっくりだったようだ。それよりもライズには聞きたいことがあった。
「そういえばメレア姫が亡くなる直前に言っていたんだけど、ワイアンド様って何者だ?」

 ワイアンド様とは、ファザットによるとかつてこの国に存在していた重鎮の一人だったそうだ。
「ワイアンド様はただの大臣ではない、あの方は”賢者様”だ。 つまり、この国に限らず各国において重要なお方だった」
 そんな人がこの国にいたのか。この国に”存在していた”ということは、今はどこに?
「今はこの国にはいないのか?」
 ライズは訊いた。
「ああ、残念ながらいない。 というより、そもそもワイアンド様は7年前に王国転覆を謀った者として、 陛下の命により国外追放されたのだ」
 まさに今のテザンドが企んでいそうなことと同じではないのか。
「ただ、王のその決断をよそに、メレア姫様はあの方はそんなことを企てるような方ではないと異議を唱えたのだ」
 ワイアンドは人望も厚く、特にメレア姫は頼りにしていたらしい。ただ――
「そう、思えば――テザンドとワイアンドは意見の食い違いにより、たびたび口論になり衝突していた、 だから、今考えると陛下への口添えもテザンドの入れ知恵だったのではと思っている」
 すべてはテザンドの謀略なのだろうか。 そのことを知ってか知らずか、メレア姫は大臣を最初から警戒していた可能性もあるということだな。

 ファザットの協力のもと、メレア姫は奪還したということで、この件については落ち着いた。 但しこれは一時的な措置、これからこの国はどうなってしまうのか、そして大臣テザンドの陰謀の件―― まだこの件については終わったわけではないのだ。
 そして、それまで不在にしていた大臣テザンドが、少し慌てた様子でシェリ……いや、メレア姫の部屋へとやってきた。
「姫様の身に何かがあったらと非常に心配しておりましたが、 使いの者より、特に何ともなくご無事であると伺ったものですからこうして急いで駆け付けてきました。 本当に、ご無事で何よりです」
 ファザットとはテザンドに対する取り決めもしており、下手に刺激しないことで話をつけた、 それで万が一のことでもあったらことが大きくなるだけでなんの収穫も得られなくなるからである。 あえて泳がせておいたほうがフェリンへの危険度も低くなるし、 とりあえずテザンドに関しては様子見ということで決めたのだった、 特に――
「あら大臣、ご機嫌麗しゅう。私はこの通り、無事ですよ」
 当てつけである。お前が何かしたかもしれないけど私は平気ですよという意味合いだ。
「さようでございますね。しかしどうしたことでしょうか、少し雰囲気がおかわりになったものと拝見いたしますが――」
 やばい……ライズはその発言に対して焦りを感じていた、ニセモノとバレてしまったら――
「それは当然のことでしょう。 私はこれまで誘拐されていたのです、自らの身に起きた災難によって自らの身の振り方も変わるというものです。 それとも、それはあってはならないということですか?」
 逆にメレアに扮したフェリンはとても落ち着いた面持ちでそう言い返していた。
「あ、いえいえ、そんなことはございません。むしろ納得いたしました。 いずれにせよ、すべては私共の不徳の致すところ、姫様が誘拐されるような状況を作り出してしまったことが原因でございます。 今後はこのようなことがないよう確実な警備をいたしますゆえ、ぜひお許しをいただきたく存じます」
 大臣はメレアに向かって一礼していた。
「ところで、一つお訊ねしたいことがございまして、この方はどういった者なのでしょうか?」
 それは、ライズのことだった。
「この方はトライトのハンターよ。 自分の危険も顧みず、私を助けてくださった――とても親切ですごく頼りになる方なのよ。 だから、私兵として雇うことにしたのよ」
 すると、テザンドが難色を示した。
「そんな、ハンターを自分の兵士にするなどと――兵士だったら他にもいますし、わざわざ外部の者を使わずとも――」
「いいではないですか。 彼も快く引き受けてくださったことだし、それに私のために身を投げ出してまで助けてくださったものですから、 私は安心して彼に命を預けられますね」
 そう、テザンドはこいつの存在によってメレア姫になおのこと手を出しにくくなる―― という狙いもあり、あえてテザンドを泳がせておくことにしたわけである。

 あの後、大臣は去っていった。俺はそこまで信用あるのだろうかとライズは首をかしげていた。 ほかの下々の者が去ると、ライズはそんな話をしだした。
「うふふっ、もちろんよ。 だって、あんなシチュエーションで抱きかかえられて、 そして自殺の名勝に飛び込んでまで助けてくれるだなんて、何をどうしたってグッときちゃうでしょ♪」
 それは信用というよりもそれ以上の何かって感じにも見えた。 あの時はライズも感情が高ぶっていたからあんなことをしたんだけれども……
「ふふっ、本当に感謝しているわ、そのおかげでお姫様にもなれたんだし、 私としてはこれ以上はもう、何も言うことなしよ、素敵なナイト様♪」
 ライズはある意味、大変なことをしてしまったんだと少し後悔していた、しかし今更後戻りはできない。