ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第1章 ヴァルナジアのお姫様

第5節 本物の姫

 女は気が付くと、岩の上で寝そべっていた、ここは――? あの崖から飛び降りて生きているだなんて――
「ようやく気が付いたようだな、お姫様!」
 えっ、お姫様!? 誰が? 私が? 女は困惑していた。
「まさか助けたのがお姫様だったなんてな、陸に上がって改めて顔を確認した時は正直驚いたよ」
 やだ、こんなイケメンにお姫様って呼ばれるだなんて、私、どうしよう――女は照れていた。
「あんまりこういうのには慣れていないかもしれないけれども、少し我慢してくれよ。 あ、我慢してくれよっていうのは不適切か、ええっと――」
 ん? 何? どういうこと? 女はなんだかよくわからなかった。
「まあ、何はともあれ、姫様がご無事で何より。 服装のほうがアレだけど、まあ、そこは――なんとかしないとな」
 服装は――露出度高めで、到底姫様と呼ばれるのにはふさわしくなかった。 大きなバストの形成する深い谷間を望める、 谷間開きの濃い目のピンクのオフショルなトップスと薄いピンクのレース地のフレアーなミニスカート、 どちらかというと姫様というよりギャルでしょ、だからどう反応したらいいのかわからなかった。
「さてと、とりあえずちょっと様子でも見てくるか――」
 そう言うと、イケメンは近くの洞窟のほうへと向かい、内部を探索し始めた、すると――
「えっ、なんだ!? どういうことだ!?」
 えっ、どうしたっていうのよ? 異変を感じた女はイケメンのもとへと駆け寄っていった、その光景は――

「どっ、どういうことだよ!? 姫様が2人!?」
 そう言うイケメンの言う通りの光景、つまりもう一人の女がその場で衰弱していたのだった。 それになんと、その女はギャルの女と顔が瓜二つだった。
 そして、衰弱しているほうの女は貴族のようなドレス姿をしていた――ということは、こちらが恐らく本物のお姫様だろう。
「お姫様! お気を確かに!」
 するとお姫様は、か細い声で何かを訴えていた。
「わ、わたくしは、もうダメです――せめて、せめて、お父様のお姿を、この目で――」
「姫様! もういいです、しゃべってはいけません!」
「いいのです、私はもう、どのみち助かりません。 ですので、あなた方にすべてを託します、大臣にお気を付けください、 すべては大臣の企み、あいつを信用してはなりません――」
 大臣がクセモノ?
「あいつは私を貶めました。あいつにとって私は邪魔者なのです。 でも、あいつの横暴を許してはなりません―― ぜひ、ワイアンド様をお尋ねください、彼なら協力してくれるはずです。 私によく似たあなた、あなたにすべてを託します、 勝手なお願いかもしれませんが、わたくしの代わりに――」
 本物のお姫様は言いたいことだけ言ってそのままこと切れてしまった。

 イケメンと女の2人は、焚火を囲って話をしていた。
「大臣がクセモノ――なんだよな。メレア姫の無念、晴らしたいよな――」
 イケメンは力なくそう言った。ギャルの女としても、メレア姫の力になってあげたい気はしていた。それってつまり――
「私の代わりにって言ってたけど、それってつまり、私がメレア姫に成り済まして何かしてほしいってこと?」
「多分な。メレア姫のことだから何かあるのだと思うけれども、 少なくとも、大臣的には喜ばしくないということは間違いないだろうな」
 そうでしょうね。でも、私なんかが姫様の代わりが務まるのだろうか、女は疑問だった。 しかし、お姫様と呼ばれて持て囃されるのは大歓迎ではあった。
「でも、王族としての生活はあんまり自由が利かないから覚悟は必要だろ?」
 それは女も困った、そういう生活はあんまり好きではなかったのだ。
「とはいえ、メレア姫のご尊顔は公になっていないからな、 不自由と言っても周りはメレア姫の顔もわかるわけじゃないんだ、 そこまで注目されるわけではないんだからその分には安心しなよ」
 女の心配はそこではなかった。
「でも、内通者は大臣なんでしょ? 外に出なくたっていくらでも狙われる可能性はあるよ」
「そう言われてみればそれもそうだな。 ただ、メレア姫があえてキミが代わりにといったぐらいだから、 大臣が犯人だと気が付かなかったフリをしても大丈夫なのかもしれないな」
 つまり、あえて我関せずな顔を貫き通せば狙われることもないということだろうか。
「でも、それでも安心なんてできないわよ!  だから私がメレア姫をやるというのなら、あなたにも付き合ってもらうことにするけど、いいわよね!」
 そうは言いながら、お姫様と持て囃されながら生活することについて、女は非常に心躍っていた。

 それにしても、どうしてあんな岩むき出しのところへ飛び降りて無事なんだろうか、女は不思議だった。
「ああ、実は一か所だけ深いところがあってね、そこがエンシア坊唯一の着水ポイントなんだよ」
 イケメンは少々得意げに答えた、そういうことだったのか。 そして、イケメンは態度を改めて言った。
「それはそうと、俺の名はライズ、よろしくな!」
 女は「へえ、いい名前ね」と返した。
「えっと、私は――フェリンよ、よろしくね!」
「へぇ、いい名前だね!」
 そう言われて女は喜んでいた。

 今後の心配は尽きないけれども、今はなんとかメレア姫が託した通りに行くことにしよう。 洞窟の中で一晩明かし、崖をなんとかよじ登ると、そこは街道だった。 しばらくは何もない風景の広がるだだっ広い平原の街道、東を向けば地平線が途中から切れ、水平線が広がっていて、 西を向けば草原の街道の途中に大きな町とお城が見える、トライトの町とヴァルナジアのお城である。
 そして、それとは別に北のほうには森林が広がっていた。
「森を目指すぞ。こんなに見晴らしのいい街道を歩いていたら、あの洞窟の連中とかに見つかる可能性が高いから、 少し遠回りにはなるけれども、この際我慢するしかないな」
 確かにそれしかなさそうだった。