フローナルは荒野へと繰り出した、精霊界の外である表面側の世界、いわゆる人間界である。
ここにはフェルドゥーナと呼ばれる世界が広がっていて人々が生活していたのだがそのような痕跡は何処にもなく、
ただひたすら暗黒の荒野が広がっているだけである。
さらにそれだけでなく、とにかく大地が捻じれており、
世界の消滅は回避できたようだがそれでも世界の破壊は免れられなかったようだ。
だが……今の精霊界の状況ではやがてこの世界が消滅するのも時間の問題――
その都度その都度大地に亀裂が走り、そしてまた大地が吹き飛んでは突如としてその大地が消えていく――
早く行動しないと手遅れになりそうだ。
辛うじて進み続けられる大地、とにかく、
以前のフェルドゥーナが存在していたら西へ西へと向かっているはずの方向へとフローナルは進んでいた。
時間もかかっているだろうがもはや時間という概念すら失われているこの世界、
一言で言えば”絶望”だけが支配する”絶望の地”といったところだろう、
とにかくその地を西へと突き進んでいた。
フローナルはその果てへとたどり着いた、思いのほか早く到着したなと思ったフローナルだが、
よくよく考えれば世界崩壊によってこの土地自体も縮小されているのかもしれない――そう考えた。
そして、その西の果てで彼が見たものは――
「ようやくついた、あれがクロノリア山だな――」
そう、本来ならこの大陸の隣の大陸にあるというその山を見たのだ。
だが、隣の大陸という通り、本来なら海の水があってしかるべきなのだが、
すべてが失われているこの絶望の地の中ではそれすらもなく、
眼下には何もない無へと続く奈落が広がっているのみ……
落ちたらもはや助かることはないだろうその虚無の空間のみが広がっているだけだった。
とはいえ、それがどういうわけか飛び石のような足場が隣の大陸へと続いており、
どうやら飛び越えられそうだ、普通に考えれば少々怖い光景だが。でも――
「シルグランディアお手製の最強の橋だからな、こんな破壊された世界でもこれが作れるのはあいつだけだ――」
そう、先ほどのシルグランディアの手がけた仕事なのでそこは安心していいということである。
そして、不安そうに見えてとても頑丈な橋を途中まで渡ったところ、いきなり地震が――
「うわっ! マズイ!」
なんと、そのままフローナルは虚無の空間へと真っ逆さま!
「っと……これぞまさしくシルグランディア・クオリティってわけだな」
そう、安心してほしい――下からどこからともなく岩が現れるとフローナルの身を拾い上げ、
そのまま西の大陸側へと運んでくれたのだった。
「いや、むしろ精霊シルグランディアの加護というべきところだろうか――
まあ、あの女のことだからどっちでもいいか。さて、仕切り直していくか!」
フローナルは再びクロノリア山へと向かうために進み始めた。
山は登山道があり、それに沿ってそのまま進んでいくと、やがて祠のようなものが見えてきた。
「ティルフレイジア秘蔵のものが隠されているというわけだな。
さて、何が出てくることやら――」
その中には――
「あいつはまさか!」
そこにいたのはなんと、赤々と燃え上がる破壊の悪魔が! そう――
「ウロボロス……まさか、こんなものが……!」
しかしその時、上から女性の声が――
「そいつはウロボロスというよりも破壊の化身と言ったところですね」
破壊の化身? フローナルは悩んでいた。
「そう、あなたは以前、破壊魔剣を振るっていましたよね?
あなたの精霊界としての力はまさに破壊の力、
破壊の力を以て世界に破壊をもたらす者を破壊すること――
つまり、あなたに必要な力はまさに破壊の力ということですね」
ということはつまり――
「俺が破壊の力を手にすれば力を取り戻せるってことか!」?
「そう言うことになりますね」
だそうだ。だが、それには一つ大きな問題が。
「こいつを見る限りだと、どうやら俺に扱えるかが難しい気がするんだが――」
ということである、それもそのはず――
「もちろんそれは承知の上です、あなたは破壊の力を扱う者であるはずなのにとある力が足りていません、
そう――破壊の炎……つまり、火の力を扱うための素質を備えていないのです」
ということである、確かに火といえば文明を作るうえでも必要な要素だが、
それと同時に文明を破壊する上でも火の存在は必要となる要素――扱えないでは本物の破壊神など名乗れない、
だからこれまでも確実に仕留められなかった敵も多かった、自分が抱える唯一の弱点だった。
「要は克服するしかねえってことか、今になって必要に迫られるとはな――」
フローナルは剣を抜いた。
「だったらやってやろうじゃねえか!
どうせこのまま世界が消滅するんだったら何もしないよりはマシだ!
さあ、この俺を煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」