運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

Not Starting for Memory-Auth

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 フローナルは気が付いた、だが……身体が言うことを利かない――。
「なんだここは――何も見えない、動くこともできない、本当に、世界はなくなっちまったのか……!?」
 するとそこへ――
「やあロイド君! 気が付いたようだね!」
 ロイドだと!?  フローナルはそいつの存在に気が付いた、だが声が聞こえるわけではない、 何者かがそういう意思を自分にぶつけてきているような気がしたのだ。
「そう、キミはロイド君なんだよ、この世界に再び降臨することになった、ね」
 何のために――フローナルは思った。
「それはもちろん、アーカネルの時代と同じく、この世界をなんとかするためさ」
 なんだって!? というか、どうしてそんな大昔のやつが今になって――
「そりゃあそうさ、彼はアーカネルの時代で大活躍した後に精霊界に昇ったのさ。 それから上に昇りに昇り詰めた結果、キミはこの世にあだなす外敵を倒さんとばかりに破壊の剣をふるっては次々と駆逐していったんだ。 そして精霊界最古参であり、精霊界の中では最も影響力を持ってしまったことでキミは第1級精霊となった。 ただし、キミはそれでもなお外敵を駆逐していくために――」
 外敵ってなんだ――というか、なんで自分が考えているだけのことがこいつに伝わっているんだ、フローナルはそう思うと――
「あれ? ちょっと前に自分で言っていただろう?  思念体の世界は思念だけで相手と意思の疎通ができるって……」
 何っ!? まさか、そう言うことか!? すると――
「なな!? なんだ!?」
 フローナルは突如として妙な空間に飛び出してきた、それは――
「ようこそ、ここは人によってはブルスクということでトラウマになっている場所の上さ」
 確かに、周囲は青一色――しかし、こういう空間では何物も存在できないハズなのでは…… フローナルはなぜかそれを肌で感じていた。 それに、目の前には妙な男がいる、目測156cmほどしかない赤毛の妙な男が――
「そうか、お前がスクライト=ティルフレイジアだな――」
 フローナルがそう言うが、彼は否定した。
「残念、完全に間違いとは言わないまでも、そいつはどうやらハズレのようだ」
 フローナルはため息をついていた。
「いいからそう言うことにしておけ、あくまでそいつの記憶が反映された姿だって言いたいんだろ?」
 スクライトは得意げな態度で答えた。
「なぁんだ、そいつがわかっているんだったらいいだろう」
 それにしても腑に落ちないことが一つ、それは――
「おい、世界は消えちまったんだろ? なのにどうして俺達はこうして存在しているんだ?  物質世界はもとより、そもそも思念体として存在することもあり得ないことだろ?」
 すると、スクライトはとあるものを指さして言った。
「こいつさ、キミたちがこいつをなんとか見つけてくれたおかげで我々という存在の概念を創造主の超越した存在として成立させているのさ」
 それはまさかのトリュオンだった、トリュオンは激しく輝いており、2人にその光を激しく照らし出していた。
「なるほど、そのためのトリュオンだったのか。 ところで――世界が消え去る前に妙なヤツに出くわしたんだが、あれは何だ?  それに、世界が消え去る際の激震とか……尋常じゃない揺れのような気がするんだが――答えてくれるよな?」
 スクライトは考えた。
「残念だが、解を持っているのは前者だけだね。 あいつは自ら語った通りの世界を脅かす者…… 例のクリストファー、いや、アーカネル時代に戦った”邪悪なる者”と同じく世界に潜在的に存在している絶対悪そのものさ」
 すると……フローナルは考えた。
「そういや、それから10億年後ぐらいにも災悪とやらがいたって話も聞いたことがあったが、そいつもそうか?」
 スクライトは考えた。
「多分、そうだろうね。 言うなれば”世界の三悪”と言うべきところだろう、 アーカネルで戦ったのが”封じられた邪悪”、アークデイルで戦ったのが”禁じられた災悪”、 そして……今回出くわしたそいつが……」
 フローナルは考えた。
「思い出した、命名者はどっちもシルグランディア、つまり俺の”妹”だったな――」
「じゃあ、今回はその兄貴であるキミが名付けるといい――」
 フローナルは悩んでいた。
「そうだな、妹のセンスで言うなれば――”葬られた害悪”ってところか?  ヤツの活躍場を世界消滅という現象によって葬られたみたいな名前な」
「いいね、皮肉がたっぷりと利いているあたりが彼女らしさが出ているところだね。 しかも”害悪”ってところがそいつがみせたささやかな世界への脅威というところがいい感じだね」
 何がいいんだよ、フローナルは呆れていた。

 スクライトは言った。
「ちなみに……その尋常じゃない揺れのことについてなんだけど、それはむしろキミのほうがよく知っていることじゃないかな?」
 どういうことだ? フローナルは訊いた。
「ロイド君は外敵を破壊していたんだ、つまり問題は外にあるってこと。 ロイド君はこの世界の消滅の危機が外にあったから知ったことだったんだ。 無論、外と言っても我々はこの世界の外に出ることはかなわない、 つまり外敵を待ち伏せるために入口で待ち構えていたというのが正しい表現だろうね」
 要は世界の外に何かしらの事が起きたからこの世界は消滅したということか――フローナルは考えた。
「さて、こんなところでいつまでも話していたって仕方がない、 せっかくトリュオンを持ってきてくれたんだからね、我々は行動を起こさなければならない」
 と、スクライト――言われてみればそれもそうか、こいつはそのための”備え”をしたというぐらいだから。
「で、どうすればいい?」
 フローナルは訊いた。
「この先に祠を用意してある、だからまずはトリュオンを持ってそこに行ってくれないか?」
 言われた通りにしようとしたが――
「なあ、トリュオンからの力の放出量が尋常じゃないんだが、こんなんに触ろうというのは自殺行為じゃねえか?」
 それこそ、世界が消えてなくなっているのにこの2人の意識を保っているような物体だからその放出量はもはや異常ともいえるようなものだった。 すると――
「ロイド君、エルクザートで見た壁画の絵を覚えているかな?  審判の光、そしてそれ以外に何が描かれていた?」
 何かって? そう言えば――フローナルは思い出した。
「聖杯みたいなのがあったな、盃の中には光り輝くものがあって――」
 まさか! フローナルはとある考えがよぎった、それは――
「ロイド君、キミが探しているのはこれかな?」
 スクライトは指さした、そこにはグリフォン・ハンドが――
「ノディラスが言ってたな力を遮断する力があるって、つまりはこういうことか――」
 フローナルはトリュオンをグリフォン・ハンドに握らせていた、つまりはこれがあの壁画の真相ということか……。
「うん、どうやら私の目論見通りの光景になったようだ、ここまではね」
 ここまでは? フローナルは訊いた、どういうことだ?
「私が見えた光景はここまでってことだよ、とはいえ、この空間については流石に予期していなかった、 予測が外れたんじゃなくて、予測のできない空間そのものだったというわけだ。 つまり――ここから先は私でさえも未知の空間であり、未知の出来事が起きる空間となっている、 ここから先はキミに希望を託す事しかできないんだ、だから――いつものセリフで締めくくっておくれよ?」
 いつものセリフだと? フローナルは考えると、とあるワードが頭をよぎった、それは――
「ったく、毎度のことながら肝心な時に限って使えねえ能力だな!」
 スクライトは頷いた。
「ああ、まったくもってその通り、キミの言っていることは圧倒的に正しい。さあ、そうと決まったら早速頼むよ――」
 そう言いつつ、スクライトの思念はその場から消え去った――。
「だが、まさかここまで執念深いやつだとは思ってもみなかったな。 だから少しは見直してやるかな、半ミリ程度な――」
 半ミリ……それでもやっぱりティルフレイジアには少々厳しいフローナルだった。