本来であれば連邦法の定めを満たすべく自動制御が鉄則、
トラブル防止のためのささいな制御もすべて自動化しているからこそ艦が動くのであり、
それをこなさなければ艦を動かすことなどどだい不可能……
つまり、艦を動かすのに必要な操作を全部人の手でやるなどとは言語道断、普通はやれるようなことではないのである。
無論、手動でやるという手段が残されているということは不測の事態に備えてのものであるが、
現在の連邦法によって不測の事態ですらもリカバリープログラムによる自動化システムの働きで解決するため、
手動でコマンドを打つことは基本的になく、
たいていの場合は開発者が新システム開発のために試験的に手動でコマンドを投入すること程度に限られる。
だが、自動制御の仕様としてカルディアスの言うように、
通常なら一度チャージしたエネルギーは事故防止のために中断することなく使い切るという標準仕様のために、
チャージしたエネルギーをワープするのなら100でワープ、
さらにその次にバスターを使いたければもちろん100でバスターなのだが、
その100を使う場合に再びチャージ時間が必要となるところをチャージなしでバスターをやっているため、説明がつかないのである。
と、通常は自動制御が普通なのでそれ前提であればあの時のフィレイナのオペレーションについては誰しもが単なる神業という一言で説明がついてしまうのだが、
今回のディルナの解析によってあの時の行動が明るみになったことで、あの当時の神業については”単なる神業”ではなく、
もはや真の神による芸術的な所業という名の”真の神業”であることが判明したのである。
そう、フィレイナはあの時、特権コマンド……手動切り替えはこの通りリスクが伴うため通常は手動への切り替えなどできないはずだが、
特権コマンドというセキュリティで守られた権限の高いコマンドを投入することで手動への切り替えを実施したのである。
無論、手動と言ってもリスク分散のために全部が手動になるのではなくディメンジョン・システムの制御のみを手動しただけなのだが、
それでもシステムの一部を手動化、それもディメンジョン・ワープのシステムであるがゆえにその手動制御のリスクの高さはおして知るべし。
無論、他は自動のままとはいってもディメンジョン・システムが手動になっている分だけ他のシステムとの整合性をとる必要があり、
その分に関しても制御をこなさなければならない。
が……そこまで語れば言うに及ばずだが、フィレイナは必要な制御をすべて手動で投入したうえで、
手動でなければ実現不可能なワープ直後からのチャージなしでバスターを実行してしまったのだった。
もちろん、艦ごとに制御方法など仕様や実装が違うため、これは艦の仕様や実装を余程熟知していることが必須の操作であり、
もはや高難易度というよりはザ・神の所業か変態の類と言うレベルの話であることは容易に想像できることだろう。
「つまり、エネルギーを最大限にチャージしたのちにディメンジョン・システムの制御を手動に切り替えてからワープを実行、
その間に必要なオペレーションも含めてすべて手動コマンドで実行、
手動制御なのでチャージしたエネルギーを温存するためにワープ空間から強制離脱を実行し、
もちろんその間に必要なオペレーションも含めてすべて手動コマンドで実行――
特にここが一番大変で、ワープから強制離脱するというイレギュラーなことをしてしまったため、
それのエラー修正とワープ位置の誤差修正のために様々なコマンドを打ち込んで対処しているんです!
そして、最後にワープが完了したところでシステムの制御を自動に戻した後、バスターを実行したんですよ!
あの時の操作ログを見たんですけど各コマンドによる手動オペレーションの実行タイミングは本当に神業と言えるような仕事としか言いようがありません!」
しかもバスターを撃つ上ではワープから強制離脱したために艦の座標の誤差修正はどうしても急がれること、
バスターの標的に狙いを定める必要があるためどうしても必須となる作業なのである。
無論、ディメンジョン・システムを手動制御にしているので特に狙いもつけずにバスターを放つこともできるのだが、
流石にそこは兵器扱いとなるせいかリスクが大きいと判断したフィレイナはあえて放つ前に自動制御に戻している。
ただ、座標システムは自動制御のままなので座標誤差修正など放っておいてもそのうち直るのといえばその通りである。
しかし、自動制御による修正を待っていると自動制御のバスターをすぐさま打つことができないため、
フィレイナは座標誤差修正のためにそれすらをもコマンド実行して解決させている。
そのコマンドは自艦の位置として適当な座標を再セットするというものであるため、
その際の座標まで決めないといけないなど特に複雑なコマンドであるがゆえに間違った座標を入力してしまう可能性もあるなど、
とにかく人力でやるのは現実的ではないと言われているのだが、
すぐさまバスターを撃つためにとそれすらをも手動でミスオペなく正確に実行しているのである。
とにかく、話を聞いてカルディアスは改めてフィレイナが如何にすごいのかを知ることとなった。
「我々はそれだけのことができる人を失ったというのか……」
鬼才変人とはいうが、確かにその通りとしか言えない……むしろ神業というよりはもはや変態の極意である。