運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第5章 世界の終わりに

第111節 問題の規模

 消灯時間、カルディアスはブリッジで腕を組んで考えていた。 僅かな夜勤組クルーたちが船を一生懸命切り盛りしていた。
 そこへフローナルが現れ――
「よう、どうしたんだ?」
 カルディアスは訊いた。
「部屋に戻っていないって聞いたもんでな」
 なるほど、カルディアスは考えた。
「それにしてもさっきの話だが――」
 フローナルが訊こうとするとカルディアスは頷いた。
「どうすればいいって訊かなかったことか?」
 フローナルは言った。
「ああ。 だが――よくよく考えれば、こうなったらこうなったで普通なら世界を管理する精霊共が何とかしているハズだからな、 俺に訊いても仕方がない……ぐらいのことは考えるか」
 カルディアスは言った。
「そういうことだな。 もちろんその通り、お前にどうすればいいか訊こうと考えようとは思ったがな、 冷静に考えて我々の手におえることではないことを悟ったよ。 それに……本来なら世界の消滅の危機というのもそのレベルの話のはずなんだが――」
「だが、世界の消滅というのはそもそも精霊界でさえ手におえない話、 これまで経験したことがないから対処の仕方がわからないということらしい」
 フローナルは言うとカルディアスは訊いた。
「しかし、そうは言いながらも、そのために活動している精霊というのはいないのだろうか?」
 フローナルは考えた。
「ま、こういうときは決まって動き出す精霊がいるハズなんだけどな。 あんたも知っているハズだ、”アルマ=フラノエル”って精霊をな。 あの精霊に連なる精霊だったらことを起こしているのは確実なんだろうが――」
 カルディアスは頷いた。
「”ヴァナスティア教”の総本山、ヴァナスティアの聖堂に祀られている御神体だな?  あの方に連なる者がいるというのか?」
 フローナルは話を続けた。
「彼女の本文は運命を司る者、つまり”運命の精霊様”ってことだな。 ”ヴァナスティアの教え”には”セント・ローア”の時代ではアルマ=フラノエルに連なる精霊として”エルフェリア=フラノエル”が登場しているが、 その彼女は時の英雄たちと共に当時の魔を退けている」
 その話を聞いてカルディアスは悩んでいた。
「フローナルが言うとますます信憑性の高い出来事に聞こえるな……」
 そう言われてフローナルは考えた。
「エターニスの血のせいってことか? 案外そう言うものなのかもな。 そもそもその”教え”自体が精霊界が監視しているものだからな、 行き過ぎや暴動によるパワーバランス崩壊の元にならないようにって言う理由でな」
 なんとも神経質な世界の管理者だな。
「それで、そのフラノエル様に連なる者は今の世の中にいるのか?」
 カルディアスは言うとフローナルは悩んでいた。
「ああ、いるんだけどな、”アリフローラ”っていう女がな――」
 アリフローラって確か――
「そういえばフェレストレイアの女性にもいたな、 確かフィレイナさんの親友であり戦士でもあるという彼女、 結局、ランドグリスで遺体が発見され、確か”アリフローラ=フェイテル”……」
 すると……フローナルは恐る恐る言った。
「運命の精霊様の名前は”アリフローラ=フェイタリス”っていうんだ――」
 えっ、それってまさか――
「時代の言語の変遷にもよるが、フェイテルと書いてフェイタリスと読む場合もある、 つまりは同姓同名の可能性が高いということだな」
 なんだって!?
「だが、あくまで同姓同名であって同一人物とは限らんだろう?」
 だが、フローナルは――
「だと思うんだが対象はなんといっても”運命の精霊様”…… つまり同一人物である可能性は捨てきれないのが実際のところなんだよな――」
 だそうだ、”運命の精霊様”なだけにか。
「仮にだ、それが同一人物だとして”アリフローラ=フェイテル”が死んだら”運命の精霊様”はどうなるんだ?」
 フローナルは言った。
「生命は死んだらその魂はユグドラに還り、そしてまた新たな生命として生まれ変わりの時を待つこととなる。 だが、同一人物の場合はその魂は精霊界に秘匿されている運命の精霊様、 つまり”アリフローラ=フェイタリス”の元へと還り、彼女が復活するということだ。 というのも、世界を管理する精霊ってのはとにかく力が大きな存在でな、 それこそこの世界に降り立とうものなら途端に世界のパワーバランスが崩れてしまう…… だから世界に降り立つ際には”疑似転生”というものをして違う生命となって活動することになるわけだな」
 つまり、そもそもアリフローラ=フェイタリスは人間の世界に降りるためにアリフローラ=フェイテルに転生して活動していた可能性があるというわけか。
「だが、この疑似転生には大きなデメリットがあってな、 通常の転生のそれと同じでこっちの世界に降り立った時には赤ん坊からやり直さなくてはいけないってことだな」
 つまり、普通に子供が生まれるのと同じ現象……
「最近ではそんな制約なくして行き来できるような仕組みを考えているらしいが、 それはあくまで最近に生まれ出た精霊だけの特権でな、 アリフローラは古参組だから残念ながらそうもいかず、結局従来の方法でしか行き来できないんだそうだ」
 世界を管理する側も不便なものだ。
「うーん、まあ……そう言ったあたりを含め、現状のこの状況を見るに、そのあたりは望み薄ってところか……」
 カルディアスは考えつつがっかりしたように言った。
「でも、少なくとも精霊界の中にいても解決しないのは確実で、 こっちの世界で何とかしなければならないという可能性は高そうだってことだな」
 と、フローナル、確かに、そう言うことにはなりそうか。