運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第5章 世界の終わりに

第110節 終焉の日は近い

 ララミィの独白通りというか、アグメイアはあの後フローナルの部屋へと単身やってきていた。
「わざわざ危険を承知でやってきてくれたんだな」
 フローナルが訊くとアグメイアは答えた。
「ごめんなさい、どうしてもいてもたってもいられなくって。 それに……この世界は滅ぼうとしているのだから同じことよ」
 フローナルは考えた。
「なんだろうな、こういうことって以前にもあった気がするな」
 アグメイアは頷いた。
「ええ、私もそう思うわね、なんていうか――」
 すると、フローナルはおもむろにアグメイアを――
「えっ――」
「お前がいたからこそ今の俺があるんだ。 だから今度はお前を置いていかない、絶対だ――」
 彼女を抱きしめ、そう言った――なぜそのようなことを言ったのかはわからなかった。 それに対し、アグメイアは涙していた。
「いいのよ、これが私の役目なのだから――」

 次の日、フローナルは呼び出されるとフェルメリアと共にやってきた。
「そういや、フェルドゥーナに魔物が大量に現れたとか何とかいう話だったがそれからどうなったんだって?」
 フローナルはそう訊いた。
「それが……斃しては斃しては新たな魔物が現れ続け、とにかく現場は泥沼化しているのだそうだ。 2人とも、参考として、エターニスの精霊の考え方でいえばこれはどういったのが原因と考えられる?」
 フェルメリアが言った。
「そ、そんな……もう世界の修復は不可能なところまで来ているのですね――」
 どういうことだ!? カルディアスは訊くとフローナルが答えた。
「この世のすべての生命のバランスを司る母なる大樹”ユグドラ”。 つまり、この世界の生命はすべてユグドラが管理しているんだ。 しかし、時としてこの世界のパワーバランスが崩れることもある、今の異常事態のようにな。 そうなると、この世界にあり続ける以上はユグドラのほうにも影響はどうしても出てきてしまう。 そこでユグドラは生命のバランスを維持し続けるために自律的にコントロールしようととあることをする、 それというのがつまり――」
 カルディアスは頷いた。
「魔物を生み出すことでバランスを取る―― そう言えば魔物というのは”世界循環性排他的クリーチャー”という名前が正式だったか?  それの意味するところはつまり――」
 フローナルは頷いた。
「どこぞの大昔の精霊が命名した呼び名か、その手の意味不明名称は得てして精霊が持ち込んだ名前から端を発するからな。 察しの通り、ユグドラが生み出した老廃物で、やがてはその命は絶たれて再びユグドラの元へと正常な生命として生まれ変わる―― ゆえに”世界循環性排他的クリーチャー”ということだな」
 ということはつまり――カルディアスは考えた。
「魔物が永遠と生み出される状況というのはつまり、 世界のパワーバランスが乱れに乱れていることを表しているということか!?」
 フローナルは頷いた。
「まさしくその通り。 そのような状況になると、フェルメリアも言ったように世界の修復は限りなく不可能な状況に陥ってしまう。 それこそもしかしたら、今回の世界の消滅のあおりを受けた滅びの予兆というべきものなのかもしれないな」
「確かに、お姉様ならこう考えるかも、 何かが壊れるって言うのならそれには必ず原因があり、その過程があるって。 つまり――世界滅亡の過程によって世界のパワーバランスが崩れることは必至ってことなんだ――」
 ディルナがそう言った、なんてことだ……カルディアスは悩んでいた。
「ま、待て! 今の話、世界全部の生命がユグドラとやらに管理されていると言っておったな!  我らデーモン・カリス、はてはエルクザートの民すべてもそうだというのか!?」
 ララミィはそう訊くとフェルメリアが答えた。
「はい、そもそもこの世界には元々大樹ユグドラしか存在していないハズなんです。 ですが、それだけでは私たちも、世界を管理する精霊たちも居住するところがないので、 居住するスペースを作り出して私たちが生きているだけに過ぎません。 そして、居住スペースを大樹ユグドラの近くにした者たちが世界を管理する精霊たち、 そして私たちはその表面に居住スペースを設けた者、 一方のララミィさんたちは単にユグドラから離れた場所にいるだけということに過ぎないんですよ」
 そうだったのか、何とも密接な――
「表面に居住スペースを設けた者? ”表面”とは?」
 カルディアスは訊くとフローナルが答えた。
「この世界はもともと精神世界なんでな、厳密には違うんだろうが平たく言えば実体のない思念体だけの空間ってことだな。 それというのはつまり人間の形を成すガワもなければそもそも形という概念すらない存在しかいない世界なんだが、 一応そんな世界でも何かを思考するだけで周囲と疎通ができるだけの世界だったんだな。 だが、思念体だけの空間というのは距離という概念がなく、それを考えようとすると物理的な考え方がどうしても必要になってくる。 そこで考えられたのが物理世界という考え方で、世界を管理する精霊たちはそこで居住しているんだ、 精霊界というところでな」
 さらにフェルメリアが続けた。
「ですが精霊界は精神世界を直接物理世界にしたものということもあり、とても不安定です。 それこそ、世界を管理する者でなければまともに住まうことができません。 そこで、その世界を基礎に作られたのがこの世界…… 精霊界の不安定要素を排してさらに世界の構成要素を切り詰めた結果に出来上がったのが私たちの住まうこの世界なんです」
 ゆえに精霊界はこの世界の裏面であり、こちらの世界は文字通りの表面ということか。
「世界の構成について語ることになっちまったが、要は世界崩壊は避けられない可能性が高いということだな」