運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第4章 未来をつなぐ者たち

第102節 未来と終焉

 フィレイナとアリフローラが出会ってから300年ほどが経った。 なんだかんだで男ができ、子供までできたリフェーラとリアンナは引退し、 フェレストレイアの一地方へと住を移してから既に100年以上が経っており、 そちらで大活躍しているという話も聞こえてくるようだ。 ユーリシアは早期から男ができて引退している。 政に関しては得意ではないので、恐らく慎ましい生活でもしているのだろう。 なお、ユーリシア以外は子供ができたから引退したわけではない、 子供ができた頃にはそこそこに歳を重ねていたため、子供ができたから辞めたのはただのきっかけに過ぎない。
 一方でカリナも子供までできたことでこちらも戦士を引退してからだいぶ経っていた。 そしてこの当時の彼女は新生メフィリア女王の養育係としての任についていた―― そう、アグメイアである。
 子供ができても現場一線を貫いているのはフィレイナぐらいのもの、 当時は戦闘隊長として適任な者がいなかったようで、それでフィレイナは職務を継続していたのである。
 だが――フィレイナはフェレストレイアの女戦士のリーダーである戦闘隊長としての座を退くこととなった。
「どうして!? どうしてなの!?」
 アリフローラはフィレイナにその理由を問いただすと、彼女は何やら機械をいじくりながら答えた。
「向いてないからよ。 そもそも私が戦闘隊長をしていたのってのは他に適任がいなかったから。 適任が現れればすぐにでも交代するつもりでいたから今がまさにその時って思って決断したのよ。 御覧の通り、私はシルグランディア……戦うよりもものを作ってなんかしているほうが性にあうからね、 だからこれでいいのよ。」
 するとアリフローラが――
「だからって女戦士を辞めるのは許さないわよ!」
 えっ……フィレイナは狼狽えていた。
「あなたたちシルグランディア一家とならうまくやれる!  そう思っていたのにあなたまで辞めるだなんて――!」
 彼女は涙を流していた。そんな彼女に対してフィレイナは――
「ちょ、ちょっと、アリフローラ……泣かなくたっていいじゃない――」
 彼女の身を優しく包み込んだ。
「大丈夫よ大丈夫、せっかく戦士として培ってきた腕、辞めるつもりはないからそこは安心して。 ものを作るうえでは実戦経験は重要な要素、だから戦士を辞めるわけには行かないわ。 だからこれからもよろしくね、アリフローラ戦闘隊長♪」
「フィレイナ――」
 この女の友情は分厚かった。

 そんなこんなで切磋琢磨しつつフィレイナとアリフローラはフェレストレイアを守る女戦士として成立していった。
「えい! はい! やあっ!」
 フィレイナに挑んでいた女性、アグメイアである。
「あら女王様! すごい太刀筋ですね、 流石はフェレストレイア一のソード・マスターと称されるカリナ様に鍛えられただけのことはございますね!」
「カリナはあなたの娘でしょ――」
 はたから見ているアリフローラは呆れながら言った。
「あら! 言われてみればそうだったわね。でも女王様、まだまだ甘いですわよ!」
 フィレイナの決め手の一撃――アグメイアはフィレイナに負けた――当然と言えば当然だが。
「負けちゃった……。フィレイナ様! お相手、ありがとうございます!」
「ええ、女王様! 私のほうこそありがとうございました!」

 だが――終焉はすぐにでも訪れることとなる――。 それはさらにあれから約30年後のトラジアータからの一報だった。
「なんだっていうのよ!? 急に取引中止って!? 同盟を白紙にするってどういうこと!?」
 フィレイナをはじめ、何人かの臣下たちがトラジアータと話をしていた。
「白紙というよりは改めるということだな。 とはいえ、その文言内容はほぼまっさらに――白紙も同義ということになるのだが――」
 どういうこと? メフィリアは訊いた。
「内容を見るからに、まるで宇宙に出るのを辞めますとでも言いたそうな感じにしか取れないんだけど?」
 そのまさかだった――どうして!?
「フェルドゥーナがこのあたりの宙域に大量のブツを流していた――その話はしたことがあったな?  実はそれを解析したところ、とんでもない事実がわかったのだ。 そちらの宙域にティルフレイジアという星があったが……」
 フィレイナは頷いた。
「あのお寒い惑星、3年前に降下許可を出したわね。 うちでは存在をシークレットにせよっていうお達しがあったから秘匿していたけど、 ティルフレイジアを名指しする者は拒まず――行って何か発見があったの?」
 相手は頷いた。
「行ってみるといい――さすれば我らの行動理由を知ることができよう。 無論そこでの出来事について信じたわけではないのだが、 この3年の間にトラジアータでは既に予兆と言える行動が起きていてな―― そういった要因も含め、今後トラジアータは宇宙事業から撤退する方針に決めたのだ」
 そう、それは――世界の滅びの予兆、トラジアータは最期の時をトラジアータの地で過ごす決断をしたのだった。 そして、フェレストレイアの民たちも同じ決断をすることとなる。

 フェレストレイアは宇宙事業から撤退したとはいっても、 それでもアリフローラやフィレイナのように活動を続ける者はいる。
 しかし、アリフローラとフィレイナについては何とも無邪気なもので、 童心に帰ったかのような間柄で宇宙の旅をしていたのである。 皮肉にも、この時期こそが柵のない冒険……彼女らが夢見ていたのはこういうことだったのかもしれない。