運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第4章 未来をつなぐ者たち

第100節 ソード・マスター・カリナ

 カリナはリフェーラ同様にフェレストレイアの女戦士として職務を全うしている。 だが、その性格は打って変わってとにかく冷静そのもの、 リアンナよりも冷めた印象であり、最初はとっつきにくそうな感じでしかないのだが――
「あっ! カリナ様!」
「カリナ様!」
 その場にいる女性たちがなんだか嬉しそうに言うと、カリナもまたにっこりしながら言った。
「精が出るわね。」
 と、その場所には何やら居合斬りに使うような巻き藁がずらっと並んでいる台が。 中でも、とある台には女性がなにやら”ゲーム”に挑戦しており――
「ああっ……やっぱり、難しいわぁ――」
 そのゲームはアリフローラも把握していた、 フィレイナとリアンナが手がけた”居合・オブ・ザ・デッド”と呼ばれるゲームである。 普通に居合斬りとして剣で巻き藁をバッサバッサと斬るという修練の場としても機能しているのだが、 この”居合・オブ・ザ・デッド”はただ設置されている巻き藁を叩き切るのとは一味違い――
「スコアは?」
 カリナは挑戦していた女性に訊いた。
「あ! カリナ様! スコアは――」
 このゲームは規定時間内に次々と台から現れる巻き藁をいくつ叩き切れるかを競うトライアル・スコア・アタック・モードと、 一定時間しか出現していない巻き藁をモグラたたきの要領で叩き切るのだが、 切れなかった時点で即終了というサドンデス・スコア・アタック・モードの2種類のゲーム・モードが楽しめる施設が用意されている。 この巻き藁はエーテルによって生成されるのを使うため、無尽蔵にどこからでもランダムに出てくるのが特徴である。
「へえ、トライアルの”ルナティック・モード”で36万点を叩き出したのね、やるじゃない。」
 というが、相手の女性は――
「そんな……ルナティックで53万点を軽く叩きだすカリナ様には叶いません――」
 53万点……それにはアリフローラも驚いていた、 各プレイモードにはさらに難易度が設定されており、イージーやノーマル、ハードといったそれのほかに、 ナイトメアや鬼、そしてルナティックといったやばそうなネーミングの難易度モードがあるのだが、 難易度が高いほど巻き藁が出現してから引っ込むまでの時間、巻き藁の生存時間が短くなっており、 生存時間の短い藁ほどスコアも高かったり難易度が高いほど出現する藁も多かったりでスコアも伸びるようになっているなど、 ゲーム性としても完成度が高いのが特徴なのだが―― アリフローラもルナティックで36万点を出すのがせいぜいである……これでも結構達人クラスの腕前の域ではあるのだが、 それを53万って――ちなみにリフェーラはルナティックで12万点がせいぜいと、こういうのは専門ではないようだ。
「カリナ様! 見せてくださいな!」
 と、今度はカリナ様コールが。
「ええ、久しぶりに楽しませてもらうわね。」
 すると……
「カリナ様! 先日のアップデートで”超絶鬼カオス・ルナティック・モード”が楽しめるようになったんですよ!」
 その難易度モードは……アリフローラも18万点出すのがやっとのモードだった。 だが――
「へえ、面白そうねソレ。だったら挑戦してみようかしら。」
 というと、他の女性たちはワクワクしていた。 すると、カリナは近くに備え付けてあった機械を弄ると――
「トライアル・スコア・アタックの超絶鬼カオス・ルナティックね。 さて、始めようかしら――」
 そして、彼女はゲーム台の真ん中に進み、左の腰に帯刀している剣の柄に右手を差し伸べてじっとしていると――
「3! 2! 1! Go!」
 台から放たれる声の後にゲーム開始! 次々と台から無数の巻き藁が放たれる! と……
「えっ――」
 もはや勢いと迫力のある剣閃による芸術、次々と現れる巻き藁は彼女によって瞬時に叩き切られ、 前側の台はもちろん、横の台に出ようが後ろの台に出ようがすぐさま斬り飛ばされていった!
「す、すごい……」
 まさに剣の舞姫! 寸分狂いもなく出てくる藁を正確にもれなく斬り飛ばしていた!
「カリナ様は旧ダーセル連邦で最強と謳われた剣豪”エドムジア”を打ち破っているほどのお方ですからね!  もはやどれほど難易度を上げようと歯が立たないということですね!」
 それはすごい……まさに剣聖(ソード・マスター)様である。 そして……最後に笛の音のような音が発せられてゲームは終了した。
「……終わりね。さて、どんなかしら?」
 だが……その結果に女性たちは操作盤のパネルを見て驚愕していた。
「どうしたの?」
 カリナはそれを覗くと――
「あらあらあら、最高難易度でパーフェクト・ゲーム達成しちゃったのね、少し本気を出しすぎたかしら?」
 なんと! 現れた藁はすべて漏れなく全滅させてしまった……つまりパーフェクト、 どう考えてもやばすぎるこの人……。
「へえ、144万点ですって、7桁目の表示は初めて見たわね。」
 いつでも淡々とした態度、確かに、他所から見るととっつきにくく、 一見すると感情が乏しくて何考えているかわからなそうな印象がありそうなのもよくわかるお人である。

 少しするとリアンナが現れ、カリナの頭を軽く叩いた。
「こら! あんたが簡単に制してしまうからやっと渾身の超絶難易度モード追加したのに、 いきなりパーフェクト出さなくたっていいでしょ!?」
 確かに……その気持ちはわからんでもないアリフローラだった。
「だって……簡単だったんだもん。それにまだサドンデスもあるし――」
 ちょっと不貞腐れ気味に言うカリナ……なんかカワイイ。リアンナは言い返した。
「トライアルでパーフェクト出すぐらいならサドンデスの結果なんてやらんでもわかるでしょ! ったく!」
 それもそうだ、アリフローラもそう思った……ゲームの性質的に。
「……ごめんなさい――」
 カリナはしゅんとしていた。しかしそれにしても何とも仲の良い姉妹である。