運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第4章 未来をつなぐ者たち

第81節 フェレストレイアの女神様

 フェレストレイア星、フェレストレイア宮殿にて…………フェルメリアは悩んでいた。 目の前にはフローナルが病室のベッドのようなところで横たわっている……。
「忘れるなよフェルメリア!  お前ならアイドルだろうが勇者だろうが女王様だろうが聖女神だろうが闇女神だろうがなんだってできるはずだ!  だから……絶対に生きろ! 例え俺の身に何が起きても、例えお前が何者になろうとも、俺は常にお前の下僕だ!  必要ならいつでも俺を跪かせろ! お前の手足にしろ! そしてお前が何者なのか確認させてほしい!  それはお前が……お前こそが”フェルメリア”という最高の女だからだ!」
 フローナルから言われたこと、以前にも似たようなことを言われたことがあった彼女…… そんな彼を目の前に彼女はずっと悩んでいた。
「フェルメリアよ、お主……」
 と、ララミィがそこに入ってきて言った。
「あれじゃろ、もしかして――フローナルに恋をしておるな?」
 そっ、それは――フェルメリアは悩んでいた。
「図星じゃな、やはりな――」
 だが、しかし――
「それを言ったらララミィさんのほうこそ……フローナルさんに恋しているんじゃないですか?」
 そっ、それは――ララミィは冷静に話した。
「ふっ、わらわの負けじゃのう……フローナルの心は完全にお主に傾いているようじゃ、 じゃからわらわは身を引くしかあるまいな――」
 だが……フェルメリアは首を振った。
「そうだったらいいな……フローナルさんの心が私に傾いていたら……どれだけ嬉しかったことか……」
 えっ……ララミィは訊いた。
「違うのか?」
 フェルメリアは再び首を振った。
「わかりません、私は”フェリシア”ですから――」
 ララミィは頷いた。
「聞いたぞ、なんとも羨ましい特性じゃな。 じゃが、お主ほどのすっきりとしたピュアな心の持ち主だからこそ持てる特性とわらわは思う。 じゃから、その能力を使えば――」
 フェルメリアはさらに首を振った。
「そんなのダメです――やっぱり、フローナルさんにはフローナルさんの想い人さんをずっとお慕いいただきたいんです――」
 この女は……だからフェリシアなんだなとララミィは考えた。 いや、それを言ったらあなたこそ……彼女は案外気が付いていない。
「ふむ、つまりはフローナルの想い人は別にいるということか…… なんとも複雑な心を持っている男じゃのう――」
「はい、だからこそ、フローナルさんには幸せになってほしいんです―― 複雑な心を持っているのに、あんなに優しくしてくれるフローナルさんだからこそ――」
 彼女は祈るように言った。そして、2人のその光景を部屋の外からアグメイアがじっと見つめていた。
「フローナル……複雑な心――彼の想い人はどちらでもない、他にいるのね――」

 少し前……宮殿のバルコニーの上で話し合っているフェルメリアたち。
 プリズム族の間では男児に生まれた子供を女児へと育て、 子宮を移植する手術を以て結果的に女児へと性別変更するということが行われているのである。 無論その風習はフェレストレイアでも残っており、そのためにドナーの子宮は大切に保管されている。 つまり、フェルメリアは先代のフェレストレイア女王のそれを供えられたことで完全に性別変更する運びとなったのだが、 もともと女神様扱いされるほどの存在ゆえ、 ”身に宿るものはそれに相応しい姿へと変えてしまう”と言われるプリズム族の言い伝えの通りの現象は起こらなかった…… 起こる必要がなかったというのが正式だろう。念のためだが、この”内に宿るもの”というのは紛れもなく子宮のことである。 さらに念のためだが子宮移植でこのようなことが起きるのはプリズム族ないしフェレストレイア人の者を用いた場合のみである。 それだけ彼女らの子宮は強力だということである、そもそも彼女らの妖の香を作り出している血もこれを経由しているからこその賜物であるのだ。
「そうか、じゃあ今は完全に女の子になっちゃったのね。」
 フィレイナは訊くとフェルメリアは頷いた。
「そうなんです。 本当はよくないんでしょうけどバルザンド帝国のおかげで私はこのような身になりました……」
 フィレイナは頷いた。
「皮肉にも、ね。でも……別にいいんじゃない?」
「そんなわけありません! 誰かの臓器が勝手に使われているんです!  私は嬉しいですけど、勝手に使われる側の身になると――」
 するとそこへアグメイアが現れた。
「いいのよ、あなたみたいな方に使ってもらえれば、きっと先代のフェレストレイア女王も喜ぶわ」
 えっ……フェルメリアは驚いていた。
「フェレストレイア女王様の!?」
 アグメイアは頷いた。
「私の一つ上の姉になるかしら、 フェレストレイアから持ち出されているのは彼女のものだけ……つまり、使われたのは彼女のものってわけね」
 そうなの!? フェルメリアは申しわけなさそうにしていた。
「私がそんな、女王様のものを使わせていただけるなんて……」
 だが、アグメイアは逆に――
「いいえ、逆に私たちのほうこそ光栄ね、だって、あなたほどの人に使っていただけるのですもの、 あなた……”闇女神フェリシア”なんでしょ?」
 そっ、それは――フェルメリアは謙遜していた。
「世の男を無条件で虜にする女……ウフフッ、フェレストレイアの女としてはとっても羨ましい要素ね♪  もう最高じゃないの♪ それほどのお方に私たちの臓器を使っていただけるのよ?  言ってしまえば、もう、私たちの神様みたいなものよね!」
 そっ、そんな――フェルメリアは無茶苦茶顔を真っ赤にしながら照れていた。
「ははぁー! 女神フェルメリア様ぁー!  どうぞ、どうぞこのフィレイアめの美貌などすぐにでも回収してやってください!  私は女神フェルメリア様の美貌の生贄!  この女としての美など、女神フェルメリア様に捧げるためにあるようなものですわ!」
 さらにフィレイナの悪ノリ……フェルメリアはもはやトマトかリンゴかってぐらい真っ赤になっていた。
「ほぉらもう♥ フェルメリアったら無っちゃ苦っちゃカワユイんだからぁん♥ もう♥」
 もうやべー愛おしーって感じが全身からにじみ出ているフィレイナ。 それに対してまさにその期待に意図せずに応えるような感じのリアクションをするフェルメリア。
「やーもー、ホントアレよね、もう世の男どころか女さえをも虜にする女神様よね♪  おねーさんもう、フェルメリア女神様のためだったら抱っこだろうと誘拐だろうと犯罪行為だろうとなんだってしてあげるわ♪  もちろん、女神様の御前で跪き、女神様の手足としてご奉仕させていただいたり、 女神様が望むほどの男を目の前に突き出したり、その下僕どもを管理・飼育・適性保存に改造と、 もちろん要らなくなったやつから廃棄処分まで担当させていただいたって構わないわ♪」
「待って! 廃棄処分する前に再処理よ!  フェルメリア女神様のおさがりは女神様にお仕えするこの私たちが持てあますことなくいただくのよ!」
 フェレストレイアの女……発言内容からたくましさまでそのすべてが恐るべし! フェルメリアは冷や汗と苦笑いしていた……。