運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第4章 未来をつなぐ者たち

第75節 闇女神フェルメリア様の苦悩

 フローナルは語る――。
 フェルメリアのことは最初から気にはなっていた、だが、彼女が好きかどうかというものじゃない。 そう――彼女は”闇女神フェリシア”……”闇女神フェリシア”という存在は男が無条件でひきつけられるものを持っているのだ――。
 フェリシアという女性はその昔、自らの生い立ちを呪うばかりにプリズム族のその力を使ってこの世界を自らの美貌で支配する”闇女神”となった。 フェルメリアにもその兆候が少なからず出ている、闇女神の兆候が……。 だが――フェルメリアは自分の生い立ちを呪っているようではない……それが闇女神フェリシアとの違いだ。
 この世界は”上書き”をしている。 40億年前に”闇女神フェリシア”によってこの世界が闇に落とされたが、 ”闇女神フェリシア”が討伐されし時、精霊界は”闇女神フェリシア”という”闇女神フェリシア”のすべてを抹殺しようと考えた…… 精霊界は彼女によってこの世界が闇に落とされた事実を抹消したいんだ、 世界を管理すべき側である精霊界最大の汚点であり不祥事ともいえる出来事だからだ。 それにはまず、時間軸の改変……まずは世界が闇に落とされたこと自体をなかったことにして別の事実で上書きしているのだ。
 そしてもちろん、”闇女神フェリシア”に連なるであろう存在を粛清……この世界から完全に抹消した。 だが、その”闇女神フェリシア”に連なりつつも、生きながらにして反省し続ける者という”磔戒”の精神を持つ”聖獣フェリシア”を置き、 ”闇女神フェリシア”という存在が生まれ出ないように徹底させている…… ”闇女神フェリシア”が生まれ出るはずの因子を最初から”聖獣フェリシア”という存在にしてしまうことで ”闇女神フェリシア”の芽をつぶそうというのが目論み――ここまでが”闇女神フェリシア”に対して精霊界が行った事だ。

 しかし……俺にはわかる、この世界は悲鳴を上げている。 そもそも”闇女神フェリシア”を生み出した原因を作り出したのは精霊界だ。 元々のフェリシアは本当に普通の女性として生まれるはずだったが、 精霊界の”闇に連なる者を倒すため”という大義名分の名のもとに行った施策は彼女の心を苦しめる結果となり、 コンプレックスの塊となった彼女はその闇に連なる者の誘惑に耳を傾けることとなり、その結果彼女は闇落ちしてしまったのだ。
 彼女が闇の誘惑に屈したことが原因……精霊界はそう言い張っているが、俺はそうは思わない―― どう考えても大義名分の名のもとに行った施策さえなければ彼女は闇に落ちることはない…… それが下々の精霊たちの間では一般論となっていることだ。
 つまり、精霊界が自ら招いた大惨事をフェリシアにそのツケを払わせているということにしか見えないのだ、なんとも酷い話である。 だからこそ、世界は悲鳴を上げているのだ、やつらのやり方は悪だ、やつらを許してはいけない、と……。
 そうしてフェルドゥーナの世に現れたのがフェルメリア……精霊界に直に物申すため、 再びこの世界を闇に閉ざそうと第二の闇女神フェリシアとなるべき存在の”闇女神フェルメリア”が現れたのだ。 これは絶対にあとで世界に牙を向き始める……ハズである。
 だが、どうだろうか? 俺としては案外それもアリなんじゃないかと思っている、何故か?  だって……彼女は生い立ちを呪っていないのだ。 フェリシアは呪っていたがために行動に出たがフェルメリアはそうではない。 それが表すかのように、彼女は普通に女の子として楽しんでいる……自由に生きていてのびのびとしているのだ。 だからたとえ”闇女神フェルメリア”が何やらをしようと、闇の帳が降りても世界まで闇に落ちることはない。 だからこれはむしろ彼女の好きにさせるべきことだろう……そう思っている。
 ……え? 俺が彼女の色香にかかっているからじゃないかって? ああ、不覚にもそれも理由の一つにある。 そう、彼女は”闇女神フェルメリア”……男である俺は彼女の下僕として生きるのが宿命なのだ。 だから彼女がそうするというのであれば男はそれに従わなければならないのは世の理…… 抗うという選択肢なんてはなっから与えられていないのである。
 そう……”闇女神フェルメリア”の虜であるすべての男は盲目的に彼女に従い続けるのがこの世の定めなのだ……。
 しかし、それでももしも彼女が道に迷いそうになったらどうするか?
「フローナルさん……私、どうしたらいいんでしょうか? 私……女性にもなりきれてないしもちろん男なんかでもない…… なのに”闇女神フェリシア”に近しい存在が、ただ周りに流されて生きているだけの人生を歩んでいてもいいんでしょうか?  本当は私だって、私だって自分の意思で何かしたいと思っています!  だけど……私にそんなことができるだなんて到底思えなくって……だから私、自分が怖いんです――」
 ……その答えは簡単なことだ。