運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第64節 新改良

 再びフィレイアのオペレーティングにて……
「敵に発見されるけど、ちょっと近づく準備をしておくわね――」
 これから彼女がしようとすることに全員が息をのんでいた……。
「降下転送を感知……帝国軍、エルクザートに降下した模様です……」
 別のオペレータがそう言うと、ララミィが訊いた。
「その”バルザンド帝国”と言うたか、何者なのじゃ?」
 カルディアスが答えた。
「我々銀河連邦との関係で言えば敵対する組織ですね。 彼らの目的はこの宇宙すべてを支配すること、そのためには手段を選ばないという連中です――」
 なるほど……ララミィは考えた。
「何処にでも悪いやつはいるもんじゃのう、 まるでタオスピレアの連中のようじゃ……」
 さらにララミィは考えた。
「むぅ……そのようなやつらに”トリュオン”を渡すわけにはいかんな――」
 カルディアスは訊いた。
「その、”トリュオン”というのはどういったものなんですか?」
 ララミィは首を振った。
「具体的なところはわらわも知らぬのじゃ。 確かなことで言えば我らの住まう地……そなたたちの言うエルクザートに突如として現れたこと、 そして、それはものすごいパワーを秘めた物体であること……それぐらいじゃな」
 突如として? カルディアスは訊いた。
「そうじゃ、ある日いきなり――ということじゃ。 それが書かれた壁画もあったがの、朽ちてしまって見せられんかったのが残念じゃ…… もっとも、今はそのテラ・フォーミングとやらで何もかもが消えてしまったようじゃがの……」
 彼女は寂しそうに言った。
「だけど、連中にはエルクザートを殺したツケをここで払ってもらうわよ……」
 と、フィレイナ……何をやっているのか。
「ディメンジョン・ワープのシステムを改良しているのよ。 移動の際の軌道……”ムービング・スペース”とでも呼べばいいかしら、 それを艦前方に展開するところまでは一緒だけど、 今回のシステムはその場に大量のエネルギー質量を入れこんで超絶極太レーザーを疑似展開しようって言うものを作ってんのよ。」
 だから! なんでそんなやべーものが作れるんだよあんた! 悩みは尽きない……。
「この艦はあくまで探査艦…… 戦闘用の武器は最低限にしか備えていないから今回の敵のような戦闘艦には真正面から挑んでもまず勝てないわね。 だからこうなったら技術で勝負よ……こっちで持ちうる探査艦としてのすべての技術を用いてあいつに挑むのよ……」
 なんとも並々ならぬ決意である。ただ――
「それでも向こうは戦闘艦、一度発見されたらなすすべもないぞ!? 大丈夫なのか!?  それに、接近しなければいけないのか!?  ディメンジョン・ワープを見る限りだと射程の面ではクリアーしているような気がするのだが……」
 フィレイナは首を振った。
「むしろディメンジョン・ワープは射程を伸ばすために使用しているものと思ったほうがいいわね。 それによって一気にエネルギーを瞬時に発生させてぶち当てるのが実現しようとしていること…… ディメンジョン・ワープのシステムをまるまる使うことになるから、 回避行動でワープが必要な際にはそっちは使えず、代わりに従来の”グラビティ・ワープ”を使うことになるわね。」
 まだいくらでもやりようがあるということか。
「しかもこっちは曲がりなりにも探査艦、 もし、ワープ先を探知されてカーチェイスになった場合でも持久力はこっちのほうが上よ。」
 確かに、向こうは相手を撃墜することが目的の艦であるため兵器の装備は豪華だが、 燃料は長期滞在向けの探査艦よりも息切れが早いのが一般的である。 無論、スピードについては相手を撃墜することが目的の戦闘艦のほうが上だが、 相手がワープしながら移動するのであれば追跡自体が難しく、結局持久力がものを言うのだ。
「それに……ディメンジョン・ワープ・システムによる今回の攻撃手段…… 名付けて”ディメンジョン・バスター”の射程は送りたいエネルギーの質量と設置すべきエネルギーの配置…… 両方を考えると正確な計算が要求される、それにはこちらの陽子砲の標準射程と一度に出力可能なエネルギー量、それから――」
 長い長い長い! わかったわかった! もうずっと語ってるなあんた!  とにかく、正確に相手にぶち当てるには射程は限られるということだな!

 ということで……再びブリッジ内が赤いアラートに包まれた――
「敵艦の索敵範囲内に侵入しました」
「OK. フロント・シールド展開。出力は21%でお願いね。」
「えっ、21%ですって!? 堪えられませんよ!?」
「わかってるわよ、陽子砲が直撃したら終わりよ。 その場合は右舷・左舷のエンジンを吹かせることを考えているから大丈夫よ。 それと、サイド・シールドは48%でお願いね。」
 その会話内容からカルディアスは顎に手を当てて考えた。
「目の前の守りは甘いが脇の守りを固める……なるほど、艦載機の注意を前方のみに向けさせるということか……」
 そして――
「敵艦載機、こちらに向かってきています! どうしますか!?」
「無視して。狙いはあくまでメインの艦、それがなくなれば艦載機なんて余裕だから……」
 すると、フィレイナはおもむろに……
「うん? なんだ、どうしたんだ!? ディメンジョン・ワープを展開しないんじゃないのか!?」
 と、さっき言ったこと違うことをしていることにカルディアスは気が付いた……が――
「話しかけないで! いいこと思いついた! みんな! 私の言う通りにやってくれる!?」
 えっ……オペレータたちは困惑していると、カルディアスが――
「……彼女の言う通りにしてくれ、どうやらそれがよさそうだ――」
 と、指示をした。
「敵艦載機! 射程圏内に入りました!」
「フロント・シールドの出力も48%に!」
「えっ!? ……わっ、わかりました!」
「行くわよ、ここからが勝負――」
 な、何が始まるんだ……!?