運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第55節 遺跡と秘宝

 そして、問題の”トリシロン遺跡”についてだが、ララミィは重い口をいよいよ開いた。
「そもそもこの集落一体を”トリシロン集落”と呼んでおる。 みなが探している遺跡は恐らくもう少し奥に行ったところにあるものじゃろうな――」
 なるほど、自分たちの縄張りということもあって不用意に案内したくなかったというわけか。 そこへフローナル、例の”空のカギ”を彼女に見せた。
「なるほど、”空のカギ”か…… 何処からどう見ても”獣の爪”にしか見えぬが……」
 そう言いつつ、彼女はおもむろに手をかざすと……
「なんともすごいパワーを秘めた代物じゃの、 ”カギ”というからには扉という名の”境界”を打ち破る力があるのじゃろうな――」
 そう言いつつ、彼女は考えた。
「ん? どうかしたか?」
 フローナルは訊いた。
「そうじゃな……カギと言えば”トリュオン”と呼ばれるものがあるな――」
 トリュオン?
「古の時代、我ら”デーモン・カリス”の前身である”カルティラ”と呼ばれる種族―― 当時、とてつもない力を秘めていたそれを巡って争いが起きていたと言われておる」
 それによって多くの国は滅亡――力をめぐって起きた戦いはあまりにも残酷なものだった。
「じゃから我らは当時の争いの戒めとして力だけに頼るような行動を極力避けて生きるようになったのじゃ。 もちろん、自らの力を誇示することも……大きな角を持つ者は民の規範となるような行いをすることを心がけるようになったのじゃな」
 なんとも素晴らしい種族である。それに比べてタオスピレアの人々は……
「そして、争いの火種となる”トリュオン”も地中深くに沈めた――」
 だけど、その”トリュオン”とカギの関連性は?
「”トリュオン”はまさに空間との”境界”を打ち破る力を持っている物体だと伝えられておる。 それだけ大いなる力を秘めた物体じゃから、我らの中でも一部の者しかその所在を知りえぬのじゃ」
 扱いはトップシークレットというわけか。

 その夜……一行は集落で休むこととなった。
「俺……いつからこうなったんだっけ……」
 フローナルは悩んでいた、彼はララミィをしっかりと抱きしめており、 彼の後ろからはフィレイナが抱きしめていた。 そして、ララミィの後ろにもシェリアとディルナがぴったりとくっついていた―― ハーレムかよ。
「俺、何者なんだろう――」
 フローナルは悩んでいた。いいじゃねえかリア充め。

 そしてその朝――
「さあ、フローナルよ、あーんするのじゃ♪」
 やっぱり古風な言い回しをするララミィ、 古風というよりメフィリアよろしく女王陛下口調という感じである。 抱っこの魔法同様に逆らえない……
「どうじゃ? わらわの間接キスの味、とっても美味じゃろう♥」
 もはや完全に異性……男の心を奪う気満々の身体をしている彼女ゆえか、 フローナルはその味に心を奪われようとしていた……なんておいしいんだ……。
「ふむふむ……確かに、これは私たちにはない特徴ですね!」
 と、なんと、シェリアはそのフォークを口に含んで確かめていた!
「どうですか? フローナルさん……私の場合はそんなことないですよね?」
 と、彼女はなんと、そのフォークに食べ物を差してフローナルに差し出した!  いや、それは――
「おお! それも面白い試みじゃのう! さあ、フローナルよ、食うのじゃ!」
 と……フローナルは食わせられた……
「あははっ! シェリアよ、お主もやるのう!  フローナルが口をつけ、そして再びそれをフローナルに口にさせるとは!」
 そう言われてシェリアは両手でほほを押さえて言った。
「あら! やだ! 私ってばそんなことを!  フローナルさん、私なんかでよければいつでもお待ちしていますから!」
 そう言われてフローナルは悩んでいた、この女もわざとらしい……だって、プリズム族だぞ?  女豹とは言わないまでも、このおとなしそうな顔して一通りのことはやるんだ……。 そしてこの彼女のポテンシャル、彼女が意図せずともガッツリと男心を捕らえてしまうのである…… プリズム女、侮ることなかれである。
 その点において唯一侮っていいのはフィレイアぐらいのものだが、 彼女の場合はまた別の次元で侮ったらダメな女である……こっちは下手したら死が見えるからだ。
「そういえばフィレイナ姉様とディルナの姿が見えんが……どうしたんじゃ?」
 ララミィはフローナルに引き続きあーんさせながら言うと、シェリアが答えた。
「ちょっとやりたいことがあるというので席を外していますね」
 そうか、ララミィは納得しつつ、 フローナルが口に入れたフォークを自分の口の中に!
「えっ……!?」
 フローナルが驚いているとララミィは妖しい顔で答えた。
「わらわはリリス・ロリスティじゃ。 身体は夢魔と呼ばれる種族を基礎にしておるでな、 つまりはわらわの美貌の虜であるお主をエサにして自らの力の糧にするのじゃ。 言ってもお主は完全に取り込むことができんでいるため中途半端なものじゃが―― それでもお主ほどの男はそうはいない……全方位イケメンゆえにたったこれだけでも極上のエサ…… ありがたく頂戴しておるのじゃ……ウフフフフッ――」
 怖っ! フローナルの背筋が凍った。するとシェリアも――
「なるほど! そこは共通していますね!  私たちの場合は力を行使すればするほど力が増していくっていうシンプルなスタイルをとるんです!  もちろん、対象を思えば思うほどその力が強くなるんです!」
「ほほう、思いの力こそが原動力か!」
「そうなんです! 思いを込めればそれだけ強くなります!  基本的に力は血に含まれていますが、力を発揮するほど力もどんどん血に含まれるらしいんです!」
「それは確かにシンプルじゃのう!  そうか、血か――我らはデーモン・カリス、成長の過程で他者の血によって自らの力とすることもできる…… 地元では癒しの精霊とも呼ばれるお主の力も試してみたいもんじゃ♪」
「癒しの精霊になってみたいのです?」
「癒しの存在はわらわの憧れでもあるのじゃ♪」
 なんか、ややこしい話しているんだけど、勘弁してくんないかな……フローナルは悩んでいた。
「わらわが癒しの精霊となった暁にはまずはお主を幸せにしてやる、楽しみにしておるのじゃぞ♪  ……と言いたいところじゃが、それにはそれ相応の血が必要じゃからのう…… 残念じゃったな、フローナルよ♪」
 いや、それでいいんだよ! フローナルは切に、切に切に切に願っていた……。