運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第54節 それでもやっぱりこの女 -知ってた

 とまあ、フローナルの夢魔とのやり取りについてはすべてを完全に語ったわけではないが、 とにかく、そんな夢魔の話など信じるものか! という疑惑も残っている。 それこそフローナルはララミィの虜となりまさに彼女の言いなり、 嘘デタラメを言って陥れようとしている……というのが関の山、女性に話をする上では概ねそれが相場である。
 だが、この女はまるで違う――
「えぇー!? こんななのに男の子に生まれてきたですってぇー!? 私、絶対に信じないんですけどー!?」
 と、なんと! フィレイナはララミィをしっかり抱っこして滅茶苦茶愛でていた…… 流石は可愛い子には目がないお姉さん――
「うわぁ……お姉様はとってもふんわりしていて暖かくってまるでお母様みたいな素敵な人じゃ!」
「うふふっ、お母様ですって?  いいじゃないのよ、望むところよ、こーんなカワイイ子のお母様だなんてマジ光栄じゃないのよ。 さあ、私の可愛いララミィや……こっちにいらっしゃいな――」
 これはっ! ララミィはもはや完全にフィレイナに落ちていった……可愛い顔をしたまま完全スリープである。 そんな彼女にシェリアとディルナも群がり、とにかくめでていた。
 もはや夢魔もたじたじ!  ララミィ・ラヴリンは完全にフィレイナに心を奪われていた……やっぱりこの女が一番危険だ!  ……はい、大変よく存じ上げております。
「とっても可愛いです♪」
「ララミィちゃん♪」
 その様子を見てフローナルはため息をついていた。
「あーあ、悪魔の女だかなんだか知らないけど…… ”悪しき血を継ぎし民”ってネタはどっから来たんだろうな」
 まったくもってフローナルの言うとおりである。 流石はイケメン補正、妙な魔力を食らってこそいるが、彼女に完全に心を食われてはいない様子。 それで女の子にイチャイチャされたり誘惑されたりして最高かよ。
「悪魔的に可愛い、って事でしょ?」
「賛成です!」
「むしろ小悪魔しちゃーうぞ♪ うふふっ――」
 随分小悪魔されました――フローナルは悩んでいた、なんだか知らんがとにかく嫌な予感しかしない――。

 と、いうことで――場を改めて。
「みなにはすっかりとお世話になってしまったようじゃのう――」
 5人は輪になって座っており、ララミィは申し訳なさそうに話を始めた――ん? 5人?  はて、誰か忘れている気が――
「いいのよいいの、あなたカワイイんだからお姉さんそれだけで許しちゃう♪」
 フィレイナは調子よさそうに言うと、ララミィは嬉しそうに言った。
「嬉しい……みなもフローナル兄様と一緒でこのような角があっても煙たがらないのじゃな!」
 ディルナが言った。
「うん! 私にも角の生えた友達がいるんだ!  私のところでは”魔族”って呼ばれている種族なんだけどね!」
 角の生えた友達……彼女は感動していた。
「我らとも仲良くなれるのか!?」
 ララミィはさらに嬉しそうに言うと、シェリアが答えた。
「もちろんです♪ よろしくお願いしますね、ララミィさん♪」
「よ、よろしくお願いするのじゃ! シェリアお姉様!」
 その場はなんとも和やかな会話だった。めでたしめでたし。

 フィレイナは話題を変えた。
「タオスピレアの連中からは迫害されているのね――」
 ララミィは頷いた。
「昔からそうじゃ……わらわの父上の代でラオディクという領主が支配していたころからじゃな。 とはいえ、ラオディクは次第に我らと打ち解けようと考えておった…… これ以上は無益な殺生はしたくない……ゆえにラオディクは互いに干渉しないという約束を取り付けようとしていたようじゃ。 そんなあまりに熱心なラオディクを見て、 当時の我らはむしろあやつとの友好関係を築き上げようと、方向性が変わっていったのじゃが――」
 ラオディクの死……
「我らとの友好をよくは思わないダルザークとエルバトス…… ラオディクの配下たちはラオディクの留守を狙い、 直ちにラオディクを反逆者として捕らえようと行動に出ていたのじゃ。 今ラオディクの屋敷にいる連中も、ほとんどはその当時の連中じゃな」
 なんだって!? フィレイナは呆然としていた。
「くっそ、あのやらせ団長め……妙に話が旨いと思ったらしてやられたわ――」
 ララミィは頷いた。
「そうじゃ、あんな町じゃからな、見た目のけばさゆえに人によってだいぶ好みが分かれるじゃろう。 そんな中で唯一まともに見える旧ラオディク邸の一角…… なんだかんだ言うてもあそこにいる者もダルザークとエルバトスとはつながっておる、同じ穴のムジナじゃな――」
 あいつらムカツク……フィレイナは腹の中が煮えくり返っていた……ヤバイ……
「ら、ララミィさん! お姉様が爆発しそうです!」
 シェリアは慌ててそう言うと、ララミィはフィレイナに――
「お、お姉様……! わらわを抱いてたもれ!」
 と、目を潤ませつつ少々甘えたような声でフィレイナに訴えかけると――
「もう♪ なーに? ララミィったら♪ ったく、しょうがない子ねぇ♪」
 フィレイナはララミィを抱きかかえると同時に不機嫌が一気に吹き飛んだ!
「わぁい♪ お姉さま♪」
「うふふっ、ラーラミィ♪」
 こっ、この女……使える! フローナルはその様子を見て驚愕していた。確かに使える。

 その一方、ラオディク邸にて……団員がディルファーと話をしていた。
「報告しろ」
「はっ! あの女共ですが、どうやら悪魔の討伐には失敗している模様です――」
 すると――
「失敗だと!? ふん、所詮は女……そもそも期待するのが間違っていたということだな」
「左様でございます!」
 そして、ディルファーは考えると――
「まあいい、止むを得んな。 ダルザーク様とエルバトス様に伝えろ、あの連中は悪魔共の毒牙にかかった、 つまりあの連中も悪魔の仲間だとな――」
「はっ! 承知いたしました!」
 そして団員が去ると、ディルファーは――
「ふん……それにしても役に立たぬ女共だ、あそこまでの女はそうそう見たことがない――」
 と、彼女らが先ほどくつろいでいたところを眺めながらそう言った、 そこには食べ物や飲み物を出してもてなしをしたつもりだったが、 フィレイナはどれ一つとして一切手をつけなかった。 それもあってか、シェリアもディルナも同じく手をつけなかった。 何かが仕掛けられている可能性がありそうだ、純粋に信用しきっていないということかもしれないが。