「言うておるに、お前はわらわのフィアンセじゃ♪
ゆえに我が美貌に直に触れることが許されておるのじゃ♪
さすればお前はわらわを伴侶として生涯を共にすることができる――
さあ、わらわをキズモノにするがよいぞ――どうじゃ、嬉しかろう……」
そっ、それは……う……うれ……し……
「さあ、今宵は宴じゃ♥
お前の理性を粉々に破壊し、本能を呼び覚ませばお前はケダモノとなるのじゃ♥
その暁には我が美貌の虜として永遠の時を刻むがよいぞ♥
そう、お前のすべてはここにある……それはこのわらわという存在……しっかりと味わうのじゃ♥」
うっ……これは……もはや抗うことが……
「おっ、俺は……」
すると、フローナルはその手で彼女を――
「そうじゃ……それでよいのじゃ……ウフフフフッ……アーッハッハッハッハッハッハ!」
絶体絶命の大ピンチ!
が、しかし……
「あははっ! お兄さまー♪」
え……!? フローナルは驚いていた、確かに彼女の身体は密着しているが、誘惑魔法の気配はない……
皮肉にも、この程度の密着であればいつもフィレイナとシェリアに引っ付かれている彼、
男であるがゆえにそれなりの反応をすることこそあれど、アルドラスのようなあからさま感のある反応にはならなかった。
「うふふっ♪ どうじゃ? わらわの誘惑魔法、すごいじゃろう♪」
確かにすごい、これは結構引き込まれるやつだ……しかし、どうして止めたんだ?
いや、むしろそっちのほうがありがたいのだが……フローナルは訊いた。
「それは……流石のわらわも想い人を抱いておる男には手を出しづらいからのう……」
なんだこのプリズム族! 本当にあの種族まんまじゃねえか! フローナルは悩んで……ん? 自分に想い人?
「それもずいぶんと愛しているものとみた!
なのにその者との仲を破壊するというのはどうも好かん。
となると、わらわの力程度ではお主を心の底から満足させるには至らぬのじゃ――」
と、なんとも優しい眼差しで話をし始める彼女。
「しかしそのような者がいるとは、その者がとっても羨ましいものじゃな♥
じゃからそのような男の心……少々奪ってみたくなってしもうたのじゃ」
そっ、そうか……よくはわからないが想い人がいるがゆえに危機から免れられた、そう言うことにしようか。
というより、自分にはそんなものはないハズだがどういうことだろう……フローナルは悩んでいた。
「それにしてもお主、本当にイイ男じゃな! 素敵じゃ! お兄様と呼ばせてもらいたいものじゃ!」
相変わらず無茶苦茶気に入られている様子……フローナルは悩んでいたが、
「そっ、それは……まあ……この際だからいいか別に――」
ノーと言ったら面倒そうだ、そう悟ったフローナル、また妹が増えたのか……。
「そうか! ならばこれはどうかのう……
フローナルお兄様♥ 私のこと、抱っこしてくださる?」
え……それは……急にぶりっ子――
「否……これはいいことを思いついたぞ♪
お兄様にはわらわを抱っこしたくなる誘惑の魔法をかけてやろう♪」
な、なにっ!?
「さあフローナルお兄様♥ わらわを抱っこするのじゃ♥」
フローナルはたまらず彼女を抱っこしたくなり、そのままお姫様抱っこを――
「きゃあ嬉し♥ まるでお姫様になった気分じゃ♥」
やりたい放題だな……フローナルは悩んでいた。
「うふふっ、嬉しいぞ♥ わらわに兄上ができるとは素敵なことよのう♥
よし、ならば……ねえね、お兄様、も一回抱っこして♥」
くっ、またか――フローナルは抱っこした……
「ねえお兄様♥ もっと愛でるように抱いてくださる?
なでなでしてくれたら嬉しいな♥」
おっ、おい! 抱っこしたくなるだけの魔法じゃないのか!
フローナルは悩んでいた、もはや完全に彼女の言いなりになっているじゃんか……。
「くっそ……手のかかる妹だな――」
彼は悩みつつそう言うが、ララミィはとんでもないことを言った……
「ふふっ、残念じゃがハズレじゃ。正解は手のかかる”弟”じゃ♥」
ん……なっ!? 弟って、まさか男!?
ララミィは包み隠さず話をした。
「同族ならみな知ってることじゃ。
わらわはデーモン・カリスを統べる無敵の王”ゼルベード=アスロディス”の一人息子なのじゃ。
わらわがみなを束ねているのもそういった経緯じゃな」
しかしその一人息子は大きくなるにつれて異変が起きたのだった、それは――
「リリス・ロリスティか……」
ララミィは頷いた。
「というよりリリス・ミスティじゃな。
リリス・ミスティは女だけの種族じゃが、
男のはずのわらわの身体が何故かリリス・ミスティのようになってゆく、
無敵の王の一人息子があらぬ方向に行ってしまいよる……
みなはそれでとても不安になったじゃろうな――」
しかし、それでもゼルベード=アスロディスの死去により、結局王の座は幼い彼のものに。
当時は幼名を名乗っていた彼だが、
最終的にデーモン・カリスの一族として身体が成熟し、一人前となった暁には改名することになるのだが、
彼の場合はリリス・ロリスティ……リリス・ミスティとまではいかなかった。
しかも角も威厳を示すにしてはとにかく小さすぎる……そんな者が次代の王に!?
同族たちが不安に思う中、彼は悟った――
「そうなのじゃ、わらわはリリス・ロリスティのララミィ・ラヴリン=アスロディスなのじゃ。
言うたように、
オスをたぶらかすためのイタイケさと夢を見させるためのか弱さと妖艶なボディを併せ持つことで他種族を貶める、
それこそがわらわ……リリス・ミスティでさえ成しえない要素を持つことでがっつりとハートを落とすのがわらわという存在なのじゃ♥」
それにより、彼……否、彼女は女帝として即位したのである。
フローナルはとあることを思い出した、その日はフローナルは悩んでいた。
「なんで俺が……」
「いいじゃねえかよ色男! 美女を抱けるなんて最高じゃねえかよ! ヒューヒュー!」
それは、宇宙産業の広告塔として女性アイドルグループを起用したことによるイベントだった。
フローナルのそのビジュアルゆえに広報担当も彼を使用することも考えていた。
だが、広告塔にアイドルというのも大概だが、
「美女っつったってなぁ……俺達の所を担当するやつは男だろ?」
というのがフローナルの言い分である……エターニスの精霊ゆえに価値観は少々遅れ気味である。
男なんてストレートに言わんでも……それでも一応女性アイドルだぞ。
「男だからいいんじゃねえか!
あんなに可愛くて美人なのに男だからなにしたっていいんだぞ!?
夢が膨らむじゃねえか! ついでに本当に”ついているのか”確認してこいよ!
頼めば確認させてくれんだぞ! もちろん、確認したものは”イリュージョン”だ!
いいなぁ、羨ましいなぁ……」
いいわけないだろ……フローナルは呆れていた、
ってか、ついでにヤバイこと言ってるぞこいつ……。
だが、イベントでは仕方なしに予定通りに進行させるしかなかった――。
あの当時あいつが言っていたこと、
今なら少なくとも気持ちはわからんでもなかった、”なにしたっていい”あたりの話は……あの変態め――。
「なるほどな、ララミィが男として生まれた理由もまさに需要と供給の関係にあったってことだな――」
フローナルは言うとララミィは嬉しそうに答えた。
「そうじゃ! じゃが、わらわはどうも女性化が進行しすぎていて無性生物みたいなような状態になっておるようじゃ。
だからお兄様には”ついている”けどわらわには”ついていない”のじゃ!」
そんなことは言わなくてもいい……フローナルは悩んでいた。そこ、そんなに重要か……?
いや、需要と供給――重要なのか。
「そしてもちろん”女の子についているもの”だってこの通りじゃ♥ さっきも感じたであろう♥」
それはいい! 今でも嫌でも視界に入っている! フローナルは悩んでいた。
「なにっ!? もしかして”ついていない”ことを確かめてみたいとな?
ふむふむ、そしてもっと感じてみたい、と……
ウフフッ、もちろんじゃ、愛しのお・に・い・さ・ま♥」
そんなことしなくたっていいって!
フローナルは彼女を確かめ、そして抱っこして感じていた……くっそ、この術は……って、お前羨ましいやつだな。
「こうしてララミィ・ラヴリンはフローナル様の妹(オンナ)になったのじゃ♥」
「なーんかヤバイことになっちまったな、別の意味で……」
いいじゃねえか。結婚しちまえよ。ダメ?