運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第50節 悪しき血族

 屋敷の2階、フィレイナは町を見下ろしていた、なんだか意外と広い町だな、と――
「広いですかね、確かにそうかもしれません。 主にそのほとんどがラオディク様の手による領地拡大―― ですが、連中によって踏みにじられ、すべてはあいつらのものに……」
 ディルファーは憂いでいた。
「でもさ、ここまでの町というか国なのにさ、それでも戦士を集めているってなんなのかしらね、 戦争の準備でもしたいのかしら?」
 ディルファーは頷いた。
「それもあります。 ですが――その中でも一番の要因はおそらく”悪しき血を継ぎし民”でしょう」
 ”悪しき血を継ぎし民”? フィレイナは訊いた。
「その名の通り、悪しき血が流れる恐るべき民族、”悪魔”とも呼ばれます。 このあたりは昔から連中の縄張りで、邪悪のはびこる土地としても広く知られています。 無論、それだけの存在ですから時には侵略、時には蹂躙……我々も命の危険があります。 そこで立ち上がったのがラオディク様を初めとする魔法剣士や魔導士たちであり、 後にこの町の領主となったのです」
 ”悪しき血を継ぎし民”から自分たちの民を守るためにか――。
「ラオディク様たちの活躍により悪魔はだんだんと追いやられ、 今では西の森の中で息をひそめています。 ですが……時にはこの町にまで来て自分たちの土地を取り返さんとばかりに狙ってくる悪魔もいます。 そう――彼らは諦めていないのです、ですから―― 彼らを討伐するためというのが実際のところなのでしょう……」
 彼らを根絶するほどの力が今のこの町にはない、それは主にラオディク様ほどの求心力がないためである。 現にこの町での抵抗派閥ラオディク派がこうしているのもそれの現れ……わかりやすいものである。 ”悪しき血を継ぎし民”を斃さなければこの町に真の平和は訪れないということか。
「悪魔は様々な手で我々を貶めようとしてくることでしょう。 特に恐るべき力を用いて人々を狂わせるすべ……それには最も注意せねばなりません。 どうぞ、お気を付けください――」
 それは何とも穏やかではない話……シェリアは悩んでいた。

 一方のフローナルたちはアイシャの話を聞いていた、再び廃屋の中にて。
「我らは妖魔の民”デーモン・カリス”と呼ばれておった。 我らの民は高潔な民でな、弱きを助け強きを挫く!  そういった行いを地で行くような種族だったハズなのじゃ……」
 過去形なのが気になるが……
「今では完全に邪悪な存在として見られておる…… 迫害されておるのじゃ、”悪しき血を継ぎし民”と呼ばれてな――」
 えっ!? ”悪しき血を継ぎし民”!?
「じゃが、お主たちのその様子ではそんなものなど聞いたことがないという様子じゃな。 本当に何者なのじゃろうな――」
 彼女はそう言いつつ、ゆっくりとフードを脱ぎ去った―― するとなんと、彼女の頭にはまさに悪魔の角のようなものが!  だが、それはむしろ彼女の可愛らしい髪型の上にある種のサークレットのような頭飾りのような感じに乗っかっており、 しかも頭頂部はティアラを乗せて全体を整えているように見える……彼女の神秘性を保っている感じである。
「まさにこの角がデーモン・カリスの証といっても過言ではなかろう。 じゃが……ここの者たちは”悪しき血を継ぎし民”だと叫んでは迫害することを厭わんのじゃ」
 なんとも酷い話である。
「でもよ、フード1枚で隠せるんだったら世話ないよな、 むしろそれだけでよくも隠し通してきたもんだと思うけどな」
 アルドラスはそう訊くとアイシャは嬉しそうに言った。
「お主……イメージとは裏腹にいいところに目をつけるのう!  これはもしかしたら本当にチューをしてやらねばいけないかもしれんのう!」
 マジか……フローナルは頭を抱えていたが、アルドラスは無茶苦茶嬉しそうに照れていた。
「フード1枚で隠せるのはわらわ程度のものだからじゃな。 多くの者はわらわの持つ角よりも遥かに大きい者を持つものばかりじゃ。 というのもデーモン・カリスと一口には言うが、 実はデーモン・カリスは強きを目指すために様々な血を秘めた種族でのう、 それゆえに同じデーモン・カリスでも遺伝や意思によって個体ごとに姿かたちが異なるような進化をとげ、成長していくのじゃ」
 それはなんとも特異な性質を持つ種族だな――2人は考えた。
「わらわの場合は”リリス・ミスティ”と呼ばれるデーモン・カリスの一種じゃが、 実際にはその”リリス・ミスティ”の派生でな、”リリス・ロリスティ”と呼ばれておる」
 なんともド直球な名前の種族だな! まさに彼女を体現しているかのようである……。
「リリス・ロリスティは現状わらわしかおらんのじゃが、 この通り角もフード1枚で隠せるほど小さいのも特徴じゃ」
 隠せるというだけで通用するのはそもそも角が隠せないほど大きいのが多いデーモン・カリスだからこそということだった。
「言われてみればなるほどな。 でも、角を持つ種族って、やっぱりデカイほうが自慢できるんじゃねえか?  そこんところはどうなんだ!?」
 アルドラスは素朴な疑問をぶつけると――
「そちの言う通り、昔は大きい角も羨ましいと思うたこともあった。 じゃが、わらわはリリス・ロリスティじゃからのう、そのような大きなものは必要ないのじゃ……」
 といいつつ、アイシャはローブを脱ぎ捨てた……そこにはなんと、彼女の生まれたままのお姿が!
「そう、リリス・ロリスティであるわらわに重要なのは強きを示す角ではない…… このとおり、オスをたぶらかすためのイタイケさと夢を見させるためのか弱さに妖艶なボディこそが重要なのじゃ♥  ゆえにわらわの角は小さいに限るのじゃ♥」
 彼女は上目遣いで色っぽく誘うような態度でそう言った―― イメージは幼い女の子というよりは女子高生ぐらいのアイシャ…… まさにオスをたぶらかすためのイタイケさと夢を見させるためのか弱さと妖艶なボディ…… 背徳感が強くて可愛らしく、デーモンの名を冠する種族ゆえの揺れ動くバストとセクシーで妖艶さも併せ持つ……