ダルザークとエルバトスは屋敷内で話し合っていた。
「エルバトスよ……此度の使い手はなんとも優れた者たちのようだ。
して、どんな様子だ?
話によればなんとも器量良しであると聞く、それはそれは羨ましい限りだが――
既にものにしたのであろう?」
だが、エルバトスは悩んでいた。
「いや、あの跳ねっ返りを落とすのは無理だ。
どうすればあのような能力を発揮できるのか不思議でならん――」
え!? ダルザークは耳を疑っていた。
「お互いに手練れの魔法剣士たちを有しておるだろう、所詮はおなご……力づくでものを言わせるがよいだろう?」
エルバトスは首を振った。
「無論だ、こちらで持ちうる最高の使い手を差し向けてやった。
だが――あの女にはどうあがいてもかなわんかった、
そう、剣士”ダナスト”……あのものさえも魔法剣の魔法の文字すら浮かばぬようなとてつもない能力で圧倒してしまったのだ――」
なんだって!? ダルザークは耳を疑っていた。
「たかが女如き――まさか相手は魔法の力を使わずに最強の魔法剣士を打ち破ったとでも言うのか!?」
「あれはもはや別の生き物を見ているようだった……言ってしまえば異界の者、そうでなければ説明がつかんほどの使い手だ――」
ダルザークはさらに訊いた。
「どのようなことをされたのだ?」
エルバトスは再び首を振った。
「そうだな、的確な表現方法としては……もはや何が起きたのかさっぱりわからない――
この一言に尽きるだろうな――」
ダルザークは驚いているが、エルバトスは話を続けた。
「とにかく、意味が分からぬのだ……あの女が言ったら、何故かそれが本当に言った通りの状態になっているのだ――
それこそどう考えてもあり得ぬようなことを言ったとしても、それが本当に実現してしまう――
ゆえに何が起きているのかがさっぱりわからぬのだ――」
そんな――ダルザークは悩んでいた……が、
「いや、待てよ……? まさか”悪しき血を継ぎし民”ではなかろうな?」
そう訊くと、エルバトスは首を振った。
「もはや相手が強すぎるゆえにそれすらをも確認することが困難だ。
だが、その可能性はあるかもしれんな――」
ダルザークは首を振った。
「だとしたらそのような忌まわしき存在と手を組まずとも正解だったということだな」
そこへエルバトスは訊き返した。
「私の話はいい。それより、そっちはどうだ?」
ダルザークは頷いた。
「ああ、なんとか話は進んでいる。
今は保留中ということだが、明日には返事がもらえるだろう――」
エルバトスは頷いた。
「尾行をつけて、最後は無理やり力づくでも頷かせるつもりだな、抜かりはないな――」
だが、しかし――
「おお、噂をすればなんとやら、尾行の者からだ。
ククッ、取り押さえた後に”呪の血判”をかわせさえすれば如何なる者だろうと契約通りにしか動けなくなるのだ――」
と、水晶玉のようなものに手を当てると、尾行の者の姿が映し出された。
「ダルザーク様!」
「なんだ、取り押さえたか?
戻ったら血判を交わすことにする、だからそれまで準備しておくのだ――」
だが――
「大変申し訳ございません! 取り逃がしてしまいました!」
なんだって!? ダルザークは耳を疑っていた。
「貴様……もう一度言ってみよ……」
と、拳を握ると――
「だっ、ダルザーク様……! どうか、どうかおやめください……」
相手は非常に苦しそうな表情をしていた――
「貴様のような役立たずをこのわしが許しておくとでも思うたか!
ええい! 貴様らのような役立たずは用済みだ! まとめて死ねぇい!」
と、尾行にあたった者すべてを呪術で殺しにかかった! が――
「やめぬか! 憤っているのは主だけではない!
今回は悔しいが、我らをも凌駕する使い手に遭遇してしまった、想定以上の使い手だったのだ!
だから今回ばかりはあきらめ、また次を考えることにするのだ! いいな!?」
と、エルバトスは声を荒げて言うと、ダルザークは部下を殺すギリギリのところまで苦しめ続けると、
そのまま腹を立てて目の前のテーブルを殴りつけた――
「くっそぉ! おのれぇ! あの旅人風情がぁ!」
部下たちは苦しがりつつも、殺されずに済んでほっとしていた……。
フローナルたち3人は話を続けていた。
「お主たちは本当に不思議じゃのう――
まるでこの世界の者たちという感じが一切しないのじゃからな」
それはいいんだが――
「俺達のことばかり気にしているのはいいが、そういうあんたこそ何者だ?
俺らに付きまとう理由はなんなんだ?」
彼女は考えた。
「そうじゃな……有り体に言えば、
お主たちほどの使い手がダルザークやエルバトスとは手を組んでほしくない――ということを期待しているだけじゃ」
なるほど、フローナルは考えた。
「もし、俺達が手を組むことにしたら?」
さらにそう言うと彼女は首を振った。
「それはないな。
じゃが……もし手を組んだりしたら、この世界が終わることを覚悟せぬといかんじゃろうな」
そこまで!? アルドラスは訊いた。
「いやいやいや、俺達のこと、何だと思ってるんだよ?」
すると彼女は頷いた。
「この世界に生きるものじゃ。
だからこそ、この行き過ぎた魔法文明を自ら破壊することも可能なのじゃ、
この世に生きる者たちだからじゃな――」
なんとも他人事とは思えないその言い分――ここへ来て、2人は彼女に圧倒されるとは思いもしなかった。