運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第45節 不思議な少女

 町の名前はタオスピレア…… ダルザークとエルバトスという東西それぞれの二大領主による自治が続いているんだそうだ。
 町はどことなく絢爛豪華な装いのような派手な町、 まさに魔法の町という感じの装いではあるのだが、フローナルたちは少々気分を悪くしていた。
「なんていうか、趣味の悪い町ねぇ……」
 フィレイナははっきりと嫌そうに言った。 紫に金に青に赤……原色系の色で適当に塗った食っている感のするその街並みは、 もはや奇抜としか言いようがないような独特のものだった。
「あれ、みろよ! すげえ建物があるぞ!」
 アルドラスは指をさして言った、そこはまだ目的の屋敷ではないのだが――
「あからさまに金にものを言わせて作ったようなところね――」
 ディルナは呆れていた。

 その後、男女は二手に分かれてそれぞれで行動することにした。 フィレイナの言うように、何とも悪趣味な景観のまちと言わざるを得ない奇抜な色合いの街並みで、 フローナルもいよいよ参ってきた。
「フローナル、大丈夫か?」
「まあな……ったく、勘弁して欲しいもんだ――」
 すると、そんな時――
「おっと!」
 フローナルは慌ててその場から身を引いた、というのも――
「おお、すまぬな。そちは魔法剣士じゃろう? 申し訳ない――」
 と、もう少しでその女性に衝突するところだったのである。 女性は申し訳なさそうにそう言った―― しかも話し方が古風と、女王メフィリアにも通づるような言い回しだった、何かと縁がある……。 なお、一応コミュニケータの翻訳によりそう聞こえるということは確実にそのような言い回しをしているということなので、 コミュニケータがおかしくなったわけではない。 だが、その女性は明らかに背が小さく、印象としては女子高生と言ったところか。 顔元はフードで隠れていてよくは見えないがローブを羽織っており、 ローブ下はピンクの非常に短いスカートから2本の素足を出している…… アルドラスはそれを見逃さなかった、あのな……。 だが――この言い回しや雰囲気を察するに、もしかしたら高貴なお人かもしれない…… 未開惑星の住人ということもあり、第一印象だけでその人を決めるのはよくない―― 2人は慎重に話をすることにした。
「いや、いいんだ、俺のほうこそ余所見をしていたようで申し訳ないな――」
 すると、女性は口元をニヤッとさせて答えた。
「ほほほほほ……なんとも変わっておるのう。 この国では魔法剣士という存在は大変重宝がられる存在、 ゆえに国の宝という扱いゆえに胡坐をかいていてもいいもの、 それなのにお主はとても謙虚でしかもなんと素晴らしい色男じゃ!  これならむしろ衝突したほうがロマンスも生まれようというもの、 なんとも惜しいことをしたもんじゃ――」
 えぇ……フローナルは悩んでいた。 その一方でアルドラスはフローナルをさらに羨ましがっていた。
「そうか! さてはお主ら、よそ者じゃな!?」
 と、女性はズバリ指摘、フローナルは臆せず答えた。
「まあ、そんなところだな。 で、これからダルザークの屋敷とやらに行くんだが――」
 ダルザーク……女性は何やら考えている感じだった、なんだろう――フローナルは訊いた。
「ん? んん……本当に行くのか?」
 女性は念押ししてきた、どういうことだろうか、フローナルは訊いた。
「不都合か?」
 それに対して女性は考えながら言った。
「まあ、そうじゃな――あまり大きな声では言えぬが、あえて言うとじゃな―― ここの領主共はこのあたりの土地のすべてを我が物にせんと画策しておるのじゃ。 表向きは強い国を作るためとは聞こえはいいが―― その実このあたり一帯の現住民族を追いやりつつ、隣の国にまで手中に収めようというのが目的じゃ――」
 なるほど――フローナルは頷いた。
「欲にまみれた町か……。 原住民とは相容れないがゆえに潰してしまえってのが狙いか――」
 そんな――アルドラスは訊いた。
「でもよ、そんなことしないで共存する道ってないもんか?」
 だが、女性は言う。
「否、わらわの話に合わせんでもいいのだぞ?  わらわの話は想像に過ぎぬのでな、ただ思うたことを言うたまでじゃ――」
 だが、フローナルは首を振った。
「ここにこんな町がある、それがすべてを物語っているといってもいいだろう。 それに領主共は人を集めている――つまり、はなっから和解などするつもりもないということだな。 その理由は単純明快……連中は原住民を恐れているからだ。 原住民は独自の社会性を営んでおり、それに誇りを持っている。 だからよそ者を受け入れられないという考えも前提にあるわけだ――」
 そうだろうか、実際にも原住民を受け入れている文化もあるような――アルドラスは言うが……
「お前が見たことがあるのは得てして巨大な国家の中に既に埋もれてしまっている連中の姿だ。 特に某移民の国や、よその国を奪ってまで自国をでかくしていった某国なんかはその最たる例と言えるだろうな。 だが、どっちの国もどうだ? 完全に従順かと言われれば…… 片方はそれこそ開拓時代においては多数の血を流すことをも厭わないほどだったと言われている。 そしてもう片方は原住民が反発している状態がずっと続いているが国はそいつらを抑圧している―― つまり、いずれにせよ、どこかで血を流さなければ気が済まないってことなんだ……」
 そんな……アルドラスは落胆していた。
「だが、今のは大国の例だ。 話を戻すとそれが小国となると話は変わり、大国に対抗せんとして自分の意に反するものを極力抑え込もうとする。 無論、それは自らがそこまで大きくないが故のこと、不穏分子がいては今度はいつ自分がやられるか―― たまったもんじゃないだろうな。 だからもし、そんなものがあれば早いうちにその芽をつぶしておく…… ふん、何処に行っても嫌な世界だな――」
 フローナルは呆れていた。それに対し、女性は何とも嬉しそうに話をした。
「ふふっ、イケメンで腕が立つだけでなく、教養もあると来たか……素晴らしい逸材じゃのう。 お主の言っておることはわらわも同意見じゃ、まさかこのようなイケメンと話が合うとは嬉しいものよのう……」
 またか……フローナルは悩んでおり、アルドラスはますます羨ましく感じていた。
「まあ……あれだ、その……欲にまみれた町……俺の目からはそうにしか見えないってことだ。 だからこのままダルザークとやらに会いに行くのは正解なのだろうかって悩んでいるところなんだよな」
 フローナルはそう言うが、アルドラスは反発した。
「なんだよ! もう行くって決めたんだろ! さっさと行こうぜ!」
 この場が気に入らないという感じがにじみ出ていた。
「ど、どうしたんだよ……」
 フローナルは悩んでいた。
「どうしたもこうしたもあるか! さっさと行くぞ! ったく!」
 すると、
「どうしたのじゃ、そんなんではせっかくの色男が台無しじゃぞ?」
 女性にそう言われたが、何を今さらって感じに振舞おうとしたアルドラス、しかし――
「ほほほほほ、言われてみれば確かに、すっかりと時間を取らせてしまったの、申し訳ない。 じゃが、わらわとしてはそなたらのような色男と話し合えてとても嬉しかったぞ。 そうじゃの……今度会ったときはそちの話も聞いてみたいのう――」
 なっ!? それにはアルドラスも期待していた。
「おっ、俺!?」
「見るからに腕っぷしが強そうな男児じゃのう……」
 と、少々嬉しそうに言う彼女、アルドラスはあからさまに鼻の下を伸ばしながら照れていた――。 するとそこへ彼女はフローナルの耳元でそっと言った。
「ふふっ、単純な召使いよのう……機嫌を取るのも簡単なもんじゃわい♪」
 まさかのただのリップサービス――この人怖い……フローナルは悩んでいた。
「じゃが、お主は本当に最高よのう。 またいつかいろんな話を聞いてみたいもんじゃ。 では、またな!」
 彼女はそう言い残して去って行った。
「まさか……彼女もプリズム族とかそう言うんじゃあないだろうな――」
 フローナルは悩んでいた。