運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第43節 エーテル

「そうか、わかった――それなら止むをえまいな……」
 ディルナはコミュニケータでカルディアスと話をしていた、 エーテルの濃度が少々濃いめであるがゆえに通信障害が発生する可能性があることを伝えたのである。
「もちろん! ガイドラインの件についてはちゃんと報告しますので!」
「焦らなくてもいいぞ、できるときに報告を上げてくれればそれでいいからな――」
 さらにフィレイナも――
「ごめんね、こういう星だと考えてなかったから――」
「いいのよ別に、そもそも未開惑星なんだから把握してなくたって仕方がないじゃない――」
 テレイズと話をしていた。
「本来ならエーテル層があったとて、通信するのに問題はないんだけど、 それでもちょっとここのエーテルの層は特殊なのよね――」
 テレイズは気が付いた。
「それってさ、むしろその星が何かしらの特殊性を帯びているってことじゃないの?」
 そう言われてフィレイナも気が付いた。
「言われてみればそのとおりね、これはこれで調べてみる価値がありそうね!」
「そうそう! その意気よ! フィレイナなんだからそうでなくっちゃ!」
「ふふっ、私も歳をとりすぎたもんね、そんなことに気が付かなかったなんて。 まあいいわ、そういうことなら久しぶりに腕が鳴るじゃないのよ。」
 くれぐれも無茶しないように。

 ということで、その山を降りた。 確かに魔力の層は濃密だが、これならそんなに苦しくはない――
「そういえば”魔法”という言い方と”エーテル”という言い方があるんだけど何が違うんだ?  ”マナ”ってのもあるみたいだがそれはどういうことだ?  ”エンチャント用品”ていうのもあるけどそれは?」
 アルドラスは素朴な疑問をぶつけてきた――が……
「お前な……いくら初等エーテル学サボってたからってそれはあまりに酷すぎないか?」
 えっ、そんなに重大!? アルドラスは訊くと――
「”重大”というより”重症”でしょ?  あんたねぇ、銀河連邦に加盟しているんなら魔法の基本ぐらい抑えときなさいよ、 いきなり魔法使うやつに襲われたりたらどーすんのよ!?」
 と、フィレイナに苦言を呈された。 確かに宇宙は広い……もしものことがあったらどうする気だったんだろうか……。
「まあいい、今更どうにかしろって言っても手遅れだからな。 基本中の基本でしかないが、特別に教えてやる――」
 と、フローナルは説明をし始めた。
 銀河連邦での定義においては基本的には”魔法を使う”というよりは”エーテルを行使する”という言い方のほうが正式であり、 一般的にはそれを”魔法を使う”という言い方でもあっているというものである、 つまり”魔法”は所謂俗称に当たるものである。 これはフェルドゥーナでは古来より精霊たちの間でも”魔法”を”エーテル”と表現したことが由来とされているためである。
「なるほどな、つまりは”魔法”と”エーテル”ってのは同じものを差しているんだな」
 アルドラスが言うとフローナルは頷いた。
「つってもそこはニュアンス次第だけどな。 惑星だけでなく、種族・民族・地方によっても呼び方は変わってくるからな。 たとえば”呪紋”や”紋章術”、はては”魔導”や”術”、 ”神気”なんていう呼び方をする文化もある――ここは方言みたいなもんだな」
 なるほど、ということは――
「エルクザートは未開惑星でこれまで干渉したことがねえってことは、 ここでは何て呼ばれているかわかんねえってことか?」
 なんでこういうところでは頭が回るんだこいつ――何人かは悩んでいた。 まあ、それはそうと――
「で、”マナ”っていうのは平たく言えば自然の力のことよ。 これはまさに”エーテル”を作り出す源になるもの―― つまり、魔法を使うのなら”マナ”の存在は必要不可欠ってワケね。」
 なるほど、そういうことか――フィレイナの話を聞いて納得したアルドラス。 さらに質問をぶつけた。
「ん、でも”エンチャント用品”はどう絡むんだ?  フローナルとかはそういうのを一切使わねえだろ?  それを使えば俺でも魔法が使えるって言うのは?」
「”エンチャント用品”ってのは魔法による加工物全般のことを言うだけど―― ”エンチャント”というのはその魔法による加工を示す用語ね。 単に魔法で加工するのではなく、言ってしまえば魔法を含ませることを言うわけね。 だからつまり――」
 なるほど、フィレイナの説明にアルドラスは納得した。
「魔法を含んでいるから魔法が使えるってわけだな!」
 だが――フローナルはさらに説明した。
「言っても、”エンチャント用品”はあくまで魔法を使うための導線…… そうだな、”呼び水”でしかないから、実際の魔法の強さはあくまで使い手の能力次第ってことになる」
「そっか……そりゃあ道具に頼るようなアマが道具を使わないプロにかなうハズないもんな――」
 と、アルドラスは言うが――
「いや、実はそこが魔法の面白いところで、 道具に頼るようなアマがプロ顔負けの魔力を発揮する事例は意外と少なくはない。 要は使い手自身の使い方次第ってことになるわけだな」
 と、フローナル……そうなのか! アルドラスは希望を見出した。
「じゃあ、俺は道具を使う派のプロになるぜ!」
 頑張ってくれ――フローナルとフィレイナはそう思うと同時にこいつには無理だなと直感していた。 そう言いたそうな2人を察したシェリアとディルナは苦笑いしていた。

 町に入る際――
「そうか、”魔法使い”か、入れ――」
 番兵が町の入り口でチェックをしているようだった、 ここでは”魔法”という呼び方でよさそうだ。 なお、会話内容はコミュニケーターを所持しているだけで自動翻訳されるため、 言葉の壁については基本的に無視してよい……世の中便利になったものだな。
 だが――
「お前、剣士だな?」
 フローナルは番兵に止められた、なんだよ、見た目から魔法使いっぽくなきゃいけないのかよ……悩んでいた。
「違います! この人は魔法剣士です!」
 と、シェリアはムキになって言うと――
「なっ!? なんだと!? 魔法剣士!?」
 番兵は驚いていた、今のはマズかったか!?
「そっ、それは確かなのか!?」
 うーん、どうしようか――フローナルは悩んだ末に――
「これで問題ないか?」
 自らの剣に大量の氷をまとわせた吹雪の剣を見せることにした。
「なっ……ななな、なんと! これは大変失礼いたしました!  さあどうぞ、お通りください!」
 こっ、これはいきなりヤバイことをしてしまったようだ――一行は悩んでいた。
「ごっ、ごめんなさい、つい……」
「いや、俺もノーマークだった、まさかこうなるとは――」
 2人は反省していた。