運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第41節 未開惑星の保護のために

 カルディアスは訊いた。
「惑星エルクザートについて何か情報は持っていないか?」
 テレイズは考えた。
「そうね、情報は少ないけど、知る限りの情報を伝えるわね」
 少ない? シェリアは訊いた。
「あれ? 調査されているのではないのでしょうか?」
 テレイズは首を振った。
「調査したいのは山々だけど、不用意にできないのよ。 というのも、あの星で調査を行う場合は”未開惑星保護条約”を気にしないといけないからね――」
 まさか――カルディアスは驚いていた。
「有人の惑星なのか!?」
 テレイズは頷いた。
「発見当時の私たちは、 今のあなたたちのような銀河連邦に相当する組織に加盟していなかったから条約云々の話はなかったけど、 それでもやっぱり未開惑星相当の惑星の文明を破壊することを避けるために本格的な調査が行えなかったのよ。 それに惑星エルクザートも含め、そう言いった星についてはいずれも定期的にチェックしているけど、 惑星エルクザートの文明レベルは宇宙進出をするに至らない状態が続いている…… だからあの星には不用意に立ち入りができないでいるのよね――」
 なるほど……カルディアスは考えた。
「だが、今回はどうしても……」
 と、カルディアスは言うと――
「一応文明レベルはわかっているわね。 フェルドゥーナで言えばちょうど中世後期の文明ぐらいにはなるんじゃないかしら?」
 ほう、なるほど、中世後期――カルディアスは言いつつフローナルを見ると――
「わかったよ、俺の出番ってわけだな」
 見るからに中世後期レベルの身なりと武器を携えているフローナル、まさにうってつけの人材である。
「くれぐれも行動には気をつけろよ」
「大丈夫だ、むやみやたらにコミュニケータを振りかざしたりはしない」
 そうだ、通信なんていうのも御法度なのかもしれないということか。

 メテオ・ナイツは出発した。 次の目的地は広域宙域にあるエルクザート、早速ワープ航行で向かうことにした。
 ところで、”未開惑星保護条約”とは何ぞやということだが――
「入っていい?」
 と、フィレイナがフローナルの部屋へと……入ってから言うなよ。
「何してんの?」
 フィレイナは訊いた、フローナルは端末を操作しながら言った。
「一応規則なんでな、”未開惑星”に降り立つ場合には”未開惑星保護条約”のガイドラインを一通り読まなければいけないんだ」
 そういえばそうだったっけ、フィレイナは考えた。
「フェルドゥーナの人たちはマジメなのね、うちらなんかそんな決まりないよ」
 フローナルは頷いた。
「お宅らは見た目だけなら文明レベルがそこまで高そうに見えないもんな。でも――」
 でも――フィレイナは訊いた。
「ん? 見てきた?」
 フローナルは頷いた。
「フェレストレイアの集落を見てきたんだが、裏側は随分とハイテクな世界だったな。 それも最悪フェルドゥーナ星をも凌ぐほどの文明だった……全部お前の手がけた仕事か? すごいよな――」
 フィレイナは頷いた。
「まあね、シルグランディア一家が代々総出で手がけた仕事よ。 つまり、フェルドゥーナはあからさまに未来都市みたいな生活しているからちゃんと条約を意識しとけよっていう戒めなのね?」
 フローナルは頷いた。
「そういうことだ。 それに抵触する事例が何度かあってな、そのたびに軍法会議にかけられて大目玉を食らった先人たちがいるが―― 終身刑まで課されたやつが現れ始めたことで、いよいよこの戒めを守らないといけなくなったのさ」
 なるほど、フィレイナは考えた。
「あったあった、このファイルだな。さてと、早速始めるか――」

 フローナルは改まった。
「”未開惑星保護条約ガイドライン”。 ”未開惑星保護条約”とは”未開惑星”の文明の保護を目的とするために制定された条約であり、 銀河連邦法第1条……ここはいいか。 ここで言う”未開惑星”とは、宇宙進出の要件に達しないなど”テクノロジーが一定に達しない惑星”のことを差す。 この一定の”テクノロジーが一定に達しない惑星”の要件については”宇宙進出の要件について”を確認すること――これも今回は要らないな」
 つまり、未開惑星にオーバーテクノロジーを持ち込んだことにより、 その惑星の文明が崩壊する可能性を防ぐための法律なのである。
 実際に抵触したことで起こった事例として、 一番わかりやすいもので言うと、飛来した宇宙人が現地人の目の前に突然現れる…… 天から現れればもはや”神”と崇められるのも必至である、 それによってその文明が本来あるべき形で進化することはなく、 ”神”の存在を前提にゆがんだ形で文明が成り立っていったというような事が起こりえるのである。
 はたまた、戦いをやめさせるためとはいえ、異星人の用いるような武器…… 現地の人にしてみればオーバーテクノロジーと言わしめるほどのそれを使用したことで敵対国が一瞬にして滅び去るなどの恐るべき自体も起こりかねない。 しかも戦争というからには兵器の流用・盗用・悪用も考えられる、 オーバーテクノロジーを扱うにしては文明レベルが足りぬ者同士のオーバーテクノロジーによる激しい争いが勃発して惑星が死ぬ――容易に考えられることである。
 無論、そういった行為については意図せず起こったとしても修復は不可能……文明が破壊されたということである。 それを未然に防ぐために制定されたのが”未開惑星保護条約”であり、 対象となる惑星に降り立つ場合、銀河連邦に加盟しているフェルドゥーナ星では”未開惑星保護条約ガイドライン”を読まなければならない規則がある。 そして、銀河連邦に加盟している者は”未開惑星”に降り立つ場合はそのガイドラインを遵守しなければならないのである。 それはオーバーテクノロジー云々の話については当然だが、基本原則としてそもそも異星人であるということを悟られてはならないという事である。 異星人ということで姿かたちが大きく異なるケースこそあれど、 幸いにもこの世界ではヒューマノイド型の生物の住まう惑星が多いため、その点では気が楽と言えば楽である。
「俺も3回は軍法会議にかけられているんだけどな――」
 えっ、そうなの!? フィレイナは訊いた。
「原因はいずれも魔法という存在が一般的でない惑星で思いっきりぶっぱしたことだな。 1回は無人惑星だが有人惑星の衛星だったから一応対象になった。 2回目は有人惑星だが現地人が見ていなかったから厳重注意でとどまったが3回目は現地人の前だった……」
 それは確かにヤバそうだな――と思ったフィレイナだが、
「現地人の前って、その人を助けるために止む無くじゃないの?」
 フローナルは頷いた。
「もちろん現地人はおろか自らの身も危険だった、 ガイドラインの条項にもある通り”自らの身が危険に差し迫った時はこの限りではない”に該当する部分ではあるが、 軍法会議では必ずしも使わなければいけなかったわけではないと判断されて謹慎処分、 その後は”やっぱり宇宙探査にエターニスの精霊を利用すべきではない”と判断され、 宇宙から遠ざかっていったっていうわけだな」
 そんなことがあったのか――フィレイナは悩んでいた。すると――
「でも、今回は安心して。 エルクザートは魔法をじゃんじゃん使っていい惑星なのよ。」
 そいつはいい話だ、エターニスの精霊は頷いていた。
「ついクセでぶっぱしちまうからありがたい話だ」