運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第2章 オンナの星

第29節 フィレイナの告白

 翌朝――
「あらおはよう♪ あんたたちって仲がいいのね♪」
 リフレッシュルーム、フローナルとシェリアは一緒に朝食をとっていた……要はそう言うことである。 そこへフィレイナが楽しそうに話しかけてきたのである――
「まあな、それなりに長いからな」
「はい、そうですね!」
 だが、シェリアの顔は――
「シェリィ♪ 夕べは一緒にありがとうね♪」
「いえいえ! 私でよければ!」
 いや、態度を改め、彼女はにっこりとした笑顔で答えた。
「せっかくだから、仲良しさんとご一緒させていただいてもよろしいかしら?」
 ……元気だな。

 さて、次の惑星に降下するか――フローナルは考えていると、フィレイナが現れた。
「なんだ? わざわざ見送りとはな――」
 フィレイナは首を振った。
「いいえ! 今回は私と一緒に降りてくんないかしら?」
 ……なんだって!?
「申し訳ないが、そうしてもらえるか?」
 コミュニケータ越しにカルディアスに訊いたらそう言われた、言うとおりにするしかないか――
「えへへ♪ さあ、早く行きましょ♪」
 なんか、楽しそうだ、とても”長老”と呼ばれる存在には見えない、 何処からどう見てみ適齢期の元気なお姉さんである……やっぱり魔女だな。

 降り立ったのは例の”惑星エリュカリス”である、この星には大気があった。
「温暖に感じるが太陽に該当する星が近くにないのが違和感だらけだな――」
 フローナルが言うとフィレイナは言った。
「ええ、ここは魔法によってあらゆる自然体系が再現されているからね、 多分フェルドゥーナの再現だと思うわね――」
 ということは、ランドグリス同様に人工の惑星ということだな、フローナルは考えた。
「まあ、この惑星はだいぶ調べつくしているからね。 とりあえず、散歩がてらに歩き回ってみましょうよ♪」
 なんだか妙に可愛げにふるまっているが……どうしたんだろうか。 それより、フローナルとしては――
「それはいいんだが、目的のブツを先に取ったほうがいいんじゃないか?」
 というが、彼女は――
「ん? 何のこと?」
 と言っ……え?
「あっ、ごめんごめん、実はそんなものないのよ。 ここは既に全部調べつくしている星、私が生まれるよりも随分と前にね。」
 なんだって!?
「ごめんね、実は……あんたに話したいことがあってさ、 それでこの場を設けさせてもらったのよ――」
 そんなこと言われてもなあ……フローナルは悩んでいた。

 2人はまるでデートのような感じで一緒に歩いていた。
「なあ、ちょっと近すぎなんじゃないか?」
 フローナルはぴったりと右手に収まっているかの如く引っ付いてくる彼女に対し、遠慮がちに言った。
「えぇっ? そうかしら?」
 どう考えてもくっつきすぎだ……フローナルは呆れていた。
「うふふっ、まったく、照れているのね、”お兄様”ったら♪」
 お、”お兄様”!? フローナルは焦っていた。するとフィレイナは――
「なんか不思議な感じなのよね……」
 と、その場に倒れこむと、そのまま思いっきり大の字になって寝っ転がっていた。 その場はちょうど原っぱのど真ん中、寝っ転がるにはちょうどよさそうな場所だった。
「何が不思議なんだ……」
 フローナルもその場でどっしりと腰を据えつつ彼女の話を聞いていた。
「うん、それがよくわかんないんだけどさ、 フローナルによく似た男の人にすっごく懐いていてね―― いえ、懐いていたというか一緒に仲良く住んでいてさ、 その人をむっちゃ困らせている夢……最近になってよく見るのよね――」
 そうか……フローナルはとりあえず聞いていることにした。
「あくまで他人の空似、しかも私の夢に出てくる人物のことだから鵜呑みにしなくていいんだけどさ、 私、その人のことをさ、”お兄様”って呼んでいたのよね――」
 そうなのか……だが、フローナルは――
「いいのよ別に、聞き流してくれたって――」
 フィレイナはそう言うが、フローナルは首を振った。
「俺は全然構わねえぞ、あんたにそう言われるとなんだか本当にそんな気がしてな…… 自分でも不思議なんだがそういう気がするんだ――」
 フローナルの違和感はそこにあったようだ。
「あら♪ じゃあ、今度から”お兄様”って呼んでもいいかしら?」
 フローナルは頷いた。
「ああ、あんたの好きなように呼んでもらっても構わねえぞ。 でも――そしたら俺は何て呼べばいいんだ?」
 フィレイナは考えると――
「ふふっ、自分の”妹”なんだから、別に名前で呼んだっていいじゃん♪」
 それもそうか、フローナルは考えた。
「お兄様♪」
「ん? どうしたんだフィレイナ?」
 すると……お互いになんだか楽しそうに笑っていた。

 そして、フィレイナは――
「あのさ、お兄様――」
 態度を改め、体育座りで話し始めた。
「このことはみんなには黙っててほしいんだけどさ、 私……本当はもう……死ぬのよ――」
 えっ……? フローナルは驚いたように反応した。
「ええ、こう見えても……私、これでももう700年以上は生きているのよね――」
 ちょっと待った――思いのほか歳食っているなとかそんなレベルの話じゃねえ…… フローナルは悩んでいた、いくらなんでも精霊族ってそこまで寿命長かったっけ―― それともフェレストレイア星で生まれたが故に手に入れることになった寿命なのだろうか……。
「もちろん、自分でもバケモノだとわかっているわよ、フェレストレイア人の平均寿命は大体500年程度、 それに比べれば明らかに逸脱しているからね――」
 確かにそれはそうなんだがフェレストレイア人の寿命500年というのもちょっと長すぎやしないだろうか―― フローナルは悩んでいた。
「ホント、不思議なのよ……自分はどうしてこんなに長く生きられることができるんだって―― アグメイアとかは言うんだけど、きっとそれは私が特別だからって――そう言ってくれるのよ。 でも――正直、それももうじき限界みたいなのよ、それこそあと3年なんて…… それすらをも怪しくなっているのよ、だから――」
 すると、フローナルは立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。
「フィレイナ! お前は生きろ! 生きて、生き抜くんだ!  俺たちはお前の生き様を見届けてやる! お前はお前の思う通りに生涯を全うすればいい!  それこそがお前だ! 俺の妹なんだ!」
 すると……フィレイナは涙をぬぐいつつ、そのままフローナルの身体をしっかりと抱きしめた。
「ありがとう、お兄様――そうね、お兄様の言う通りよね……」
 ったく、手のかかる妹だな……フローナルは頭を掻きつつ悩んでいた。