運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第2章 オンナの星

第26節 ものづくりは一日にして成らず

 だが――
「けぇんな――」
 と、いきなり突き返されてしまった。 シルグランディアの家の女はプリズム族、 だが、今の代ではこの通り、男がやっているようだ。
「忙しいのはわかっている、だが――」
「だったらさっさとけぇればいいじゃねえか、悪いが今は忙しいんだ」
 カルディアスは落胆していた、職人は頑固一徹――止む無しか。すると――
「ちょっと! せっかく本土のお偉いさんが来てんのにそういう返しはよくないでしょうよ!」
 と、家の奥からなんとも肝が据わっている女性が。
「んなこた言ったって仕方ねえだろ! 手が離せねえもんは手が離せねえんだからよ!」
「あぁ!? んだとゴルァ! テメェ、もういっぺん言ってみろや!  あんたそれでも職人名乗ってるつもりか! そこで余裕見せるところが職人だろーがよ!  んなこともわかんねえでシルグランディア名乗ってんのか!? あぁん!?」
 と、男をしかりつけていた、なんて強い女性なんだ……確かに見た目はプリズム族かもしれないような何とも美しい女性……なのだが、 まさに、まさにである……あのフィレイアに会ったことで改めて”シルグランディアの女性”というのを確認したカルディアスだった。
「ごっ、ごめんよぉ……母ちゃんよぉ……」
 夫婦か……こんな女性と一緒になる選択をするとはいいのか悪いのか――カルディアスは悩んでいた。
「ごめんなさいね! ほら、あんたもちゃんと謝んなさいよ!」
「わっ、悪かった! この通りだ、すまねえ!」
 夫婦円満の秘訣なのだろうか、妻には逆らわないほうがいい…… それとも、本当にこの家の力関係はこれなのだろうか――カルディアスは腕を組みつつ悩んでいた。
「だっ、だが、手が離せねえのは本当なんだ! だから他をあたってくれれば助かる! この通りだ!」
 いや、そこまで下手に出なくたって――カルディアスは焦っていた。
「確かに、忙しいことには変わりないからねえ。 そうねえ……だったら”分家”の子とかどうかしら?」
 と、女性は話した、分家? カルディアスは訊くと男が言った。
「おお、確かにそいつは名案だな。 ただ、腕に関してはちぃっとばっかし不安だな――」
「いいじゃないのよ別に。これも修行、そう思えばあの子のためになるんじゃないかしら?」

 そして――カルディアスは紹介してもらった通り、”ヴェラール”へと向かった。
「えっと――”ディルナ=シュベスター”という者がここに所属していると訊いて来たのだが――」
 相手は頷いた。
「彼女がそうですね――」
 と、案内された女性が彼女だった。
「なるほど、メカニック部に所属しているのか、 血は争えんとは言うがまさにその通りだな――」
 だが、相手の男は悩んでいた。
「まさか、シルグランディアの一族だとは思ってもみなかったな――」
 言ってしまえば腕は平凡、だが光るものがあるという感じの存在だったということである。

 実際に話し合うことにしてみることにしたカルディアス。
「私のモットーは目の前のことに対してベストを尽くす、です!」
 そのセリフ、後にカルディアス自身がフローナルに訊いたことである。つまり、彼女のスカウトが先である。
「なるほどな。だが、できなかったらどうする?  できなかったことはあるのか?」
 ディルナは臆せず答えた。
「もちろん、ありますよ。だけど、それでも私は常に最高の仕事をしたいなって考えてますからね――」
 なんとも前向きなことだな――カルディアスは考えていた。
「時に……キミはシルグランディアの者だと聞いたのだが――」
「はい! 正確には分家の者です!」
「ああ、でも――その名前について、キミはどう思っているか――訊いてみてもいいかな?」
 ディルナは考えた。
「そうですね――確かに、分家と本家は違うとはいえ、 それでも私はシルグランディアの一族であることには変わりないですからね。 時々、その名を重く感じることもありますけど――でも、 だからこそ、私にしかできないこともあると思うんです!」
 自分にしかできないことがある?
「シルグランディアは職人の家です!  でも……その中でたとえ優劣があっても、私の仕事は私にしかできない仕事なんです!  それが職人というもの、だから私は――自分にしかできない仕事があると思ってひたすら頑張るだけです!」
 カルディアスは頷いた。
「それがシルグランディアの名を背負う、ということか?」
「はい! 世の中何が幸するかはわかりません!  だから――私の仕事、たとえそれがちっぽけな成果だとしても必要な人には必要なものなんです!  でなければシルグランディアの名を語ることなどできません!  ものづくりは一日にして成らずです……だから常に自分自身がライバルと思って頑張るだけです!」
 職人という存在ゆえに自分の仕事は自分にしかできない、 ゆえに他人ではなく、自分自身がライバル……カルディアスは改めて考えさせられた。 その結果、シルグランディアは本当に結果を出している、 例えばメテオ・ナイツをはじめとする多くの宇宙艦のエンジンのコアはシルグランディア製である―― これがフェルドゥーナにおいては標準の装備……すべてはまさに結果が物語っているのである。
「わかった、面白い話をありがとう、礼を言うよ――」
「いえいえ♪ 私のほうこそ、つまらない話を聞いてくださってありがとうございます!」