運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第2章 オンナの星

第25節 破格スペックの女

 しかし、ワープしたからといって何があるわけではなく、 何が特別変わったわけでもないような移動が成されるだけだった。
 ただし――
「なっ、なんだ!?」
 艦の隣でいきなり爆発したような――何人かは驚いていた。それについてフィレイナが説明した。
「今のはわざとぶつかるようなルートを取ったからよ。 ぶつかったのは隕石……ルート上、 フェレストレイアに落ちるルートを取っていたことがわかっていたから未然にぶつかって破壊しておいたのよ。」
 なんだって!?
「でも、ぶつかったわけではなさそうだが!? 爆発したのは隣だったように思えるが!?」
 フィレイナは答えた。
「ええ、もちろん、物理的接触はなかったわね。 でも、この”ディメンジョン・ワープ”、ワープ開始時の計算完了時点で軌道上にあったものはこの艦とは当たり判定の対象となるのよ。 言い換えると、計算完了時点で艦の軌道上に無ければ、 ワープ開始時に万が一軌道上に流れ込んできても、計算完了時点で軌道上にさえなければ当たり判定は無視されるっていう仕組みなのよね。」
 それはますますヤバイな!
「んで、艦のほうはもちろん接触判定によって損傷が発生するんだけど、 計算完了時点ではそれを予測して適切な位置にシールドを発生するようにしているから艦体への損傷も軽微なものになるのよ。 となると、シールド出力のほうに負担がかかるようになってしまうけど、 シールドのほうもまさにフェルドゥーナのクロノリアを覆っている”フィールド”を応用し――」
 もう止まらない……この人どんだけだよ、もはやそこにいた者すべてを圧倒していた。
「もういい、この艦のオペレーションはすべて彼女に任せよう―― どの機能も素晴らしいが……我々が追い付いていかない――」
 カルディアスは完全に匙を投げた。

 ということで、急遽オペレーター長へと就任することとなったフィレイナ。
「よっし、こんなもんでしょ……ったく、 これぐらいのこと、軽々とやれないもんかしら?」
 と、今度は何故か操縦桿を握っている彼女。 目的地となる星に到着したがそれでも少々遠いため艦載機で接近して直接着地することを考えたのだが――
「はっ、早い――」
「早いどころか、もはや操縦技術そのものが芸術の域だな――」
 と、クルーは感心していた、 大型艦を直接その惑星に接近させ、転送射程圏内に収めたのである。 それにはものすごい精密な操作を要求されることから不測の事態に備えて艦載機で接近することが普通なのだが、 彼女は簡単にやれるというと、あっさりとそれをこなしてしまった――。 その光景を見てカルディアスは頭を抱えていた。
「キミ……このクラスの船を動かしたことがあるのか」
 フィレイナは何食わぬ顔で答えた。
「私が今まで桿を握ったことがあるのはせいぜいこの船に乗せている艦載機程度ね。 だいたい、このクラスの艦に乗ること自体今回が初めてだしね。 ってか、せいぜい船が大きくなった程度、操作に関してはそんなに大きく変わらんでしょ?  もちろん、船が大きくなった分のことは勘定に入れるにしてもね。」
 初めて操縦してこの操縦テク! やっぱりこの女絶対にヤバイ…… 単に大きくなっただけ、大きくなった分を勘定にいれるだけ―― いやいや、その勘定がとても重い部分なのだが。 だが、結果がすべてを物語っている……彼女が言うのならその通りでしかないのだろう。
 その光景を見てフローナルは悩んでいた。
「不思議だ……俺はこの光景、何故か見たことがあるような気がする――」

 例の”ディメンジョン・ワープ”機能を応用し、転送機能のほうにもテコ入れが成されていた。 それによって転送射程範囲も約1.5倍まで長くなっており、 もちろんワープ機能同様に時間指定も可能――と、とにかく機能については説明し始めるときりがないので以下は略そう。
「何でもかんでも機能を追加したのか、しかもものの一晩で――」
 カルディアスは悩んでいるとフィレイナが言った。
「フィレイナが一晩でやってくれましたってこと?  思った機能を漏れなく追加した結果よ、要不要関係なくね。 やりすぎと言われるのは承知よ、でも――」
「何が幸いするかわからない、か――」
 カルディアスはそう言った。それに対し、フィレイナなんだか得意げな態度をとっていた。

 出航前のカルディアスの特命ミッション……
「どうせならメカニックを入れたほうがいいな、誰か候補はあるか?」
 カルディアスはとあるメカニックに相談していた。
「なんだ? 俺を連れていくつもりか?」
 カルディアスは頷いた。
「ダメだろうか?」
 相手の男は悩んでいた。
「気持ちはうれしいんだが、お宅んところの仕事がこれでもかって勢いで山になっているもんでな―― だからそいつさえなければいいんだけどな。 それに……どうせ連れて行くんだったら最高の技師を連れて行ったほうがいいぜ」
 最高の技師? カルディアスは訊くが、男は言った。
「あのな……この世界(ほし)で最高っつったら他にいるわけないだろ?」
 言われてみればそれもそうか、カルディアスは頷いた。
「”シルグランディア”だな、確かに――誰もが認める最高の技師だな」

 そして、カルディアスは”アトラティア”と呼ばれる町へと渡った。
「ふう……何とかついたな、この島は――」
 天気の都合でいつもいつも渡れるかどうかが心配な島、 毎度のことながらひやひやしていたカルディアスだった。
「とにかく、シルグランディアの総本山”アトラティア”、早速交渉しに行くか――」
 カルディアスはそう考えた。