運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第2章 オンナの星

第17節 エターニスの理論

 フローナルは話した。
「ここでこんな話で論じるのも変な話だが、 エターニスではこういう話があるんだ――」
 それは”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、 それでも世界が残っているのであれば再生は易しい”というものである。 これは知る人の間では”エターニスの理論”とも呼ばれているもので、 まさに輪廻転生……つまり、世界は滅びても再生すれば再び復興する、 滅亡前提な話ゆえにこの話を持ち出すのも気が引けるが―― 要は世界が滅びても再び蘇るということである。
「なのに、それでわざわざ何故お前らが今回の件でしゃしゃり出てくるんだろうなってのがどうにも腑に落ちないんだよな。 これまでの歴史でもこの世界は何度も滅びては復活しているんだろ? そん時もいちいちしゃしゃってきたのか?  エターニスの精霊ってのがいるだろ? つまり、自然の摂理ってやつに任せておけばいいんじゃないのか?」
 と、フローナルは言うが、ノディラスは――
「ああ、それが自然の摂理でどうにかなる話だったらわざわざしゃしゃって来たりはしないよ、これまでだってもちろんそうさ。 だが……今回は違う、キミはしっかりと話を聞いていたのかな?  我が祖スクライトはこう言ったんだ、この世界は虚無となる……つまりは何もなくなってしまうのさ。 それに、今言ったろう? ”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、 それでも世界が残っているのであれば再生は易しい”って…… そう、つまりは今回、”エターニスの理論”の前者である”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極める”のほうに該当するということだね。 これというのはまさに再生する元となる基礎がなくなってしまったために世界の再生は困難…… いや、実際には難しいという表現はマイルドに言っているにすぎず、実際には”不可能”だと言うことが言いたいんだよ」
 なんだって!? そんな……
「つまり、この世界は二度と復興しないってことか!?」
 ノディラスは頷いた。
「その通りさ」
「でも、エターニスの精霊がいるだろう!?」
「彼らが滅亡に堪えられればの話だけどね」
 えっ、まさか――
「まさか、精霊界ごと消滅すると言ってるのか!?」
 ノディラスは考えた。
「まさにそういうことになるね、この世界が虚無の空間となってしまったということは精霊も消えてしまってることは間違いない。 だからスクライトはその事実を知ると同時に行動を起こすことにした、 ティルフレイジア家総出でこの世界が消滅することに対していろいろと策を練ってきたというわけだ」
 それはなんとものっぴきならないことに……。
「おっ、おい……世界が滅びる……避けようがないと言っているのか……!?」
 と、話に僅かに連れてこれない人々は世界が滅びることについて絶望していた、 世界の再生とか輪廻転生とか関係ない……それが普通の人の感覚である。
 それに対し、フローナルは悩んでいた。
「俺もそうなるのはイヤだけどな、 だが――形あるものいつかは壊れる、それが世界だとて同じこと、 この世界に住まう者の宿命だからな……その分には腹をくくるしかないだろうな――」
 そんな……クルーたちは落胆する者、そしてそれが信じられないと言う者など様々だった。
「望みのない話ばかりだが、実際のところどうなんだ?  あなた方はそのために行動を起こしてきたのだろう?  これまで宇宙に飛ばしてきたことややってきた準備とは一体なんだったのか?」
 と、カルディアスは訊くとノディラスは言った。
「言ったように、私らの能力は”予測”に過ぎないということは―― やってきたものも備えというよりはただの希望のための一筋の光に過ぎない…… 世界の脅威に立ち向かうにはあまりにちっぽけな行為に過ぎないんだよ。 それに……私らの能力はあくまで”予測”……スクライト的には虚無は確定しているようなものだが、 場合によってはそれすらをも覆すこともあるかもしれない――それを考えての希望なんだよ」
 ノディラスは続けた。
「言ってしまえば世界崩壊が起ころうとしている状況だからね、つまりそれには原因があるのさ。 だからまずはそれを突き止めること、そして、それに対してどう立ち向かうか―― その2つを考えなければならないということさ」
 フローナルは考えた。
「世界崩壊……それだけのことが起きているということは……止めようがあるのか?」
 ノディラスは首を振った。
「望み薄……だね。 キミも大体把握しているかもしれないが、それを止めようと考えた者はいたが結局はかなわぬことだった―― 一度破滅の予兆が動き出したら歯止めは利かないんだよ、だからこれは本当に大きな賭けと言っていいだろう……」
 そんな……聞いていた者は再び落胆していた。
「ただ……破壊は止められないかもしれないが、それでも0を1に留めることはできるかもしれない――」
 0を1に!? どういう意味だ!? カルディアスは訊くとフローナルが答えた。
「”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、 それでも世界が残っているのであれば再生は易しい”―― 世界が辛うじて残りさえすれば再生の道をたどることができるということ、 何もなくなっちまったらそれまでだがとりあえず残ればなんとかなる、そういうことだろ――」
 ……結局世界が破壊することは止めようがないということか……カルディアスは悩んでいた。
「今の世の中は無になってしまうかもしれないが、 それでも再生した世の中で、俺達が再びこうして巡り合う世の中があるかもしれない、 少なくとも俺達が目指す世界はそこってことだな」
 カルディアスは首を振った。
「だが、少なくともということは、もしかしたら世界の滅亡そのものが止められるかもしれないということか!?」
 ノディラスは頷いた。
「最善はそうだね。 だが――それを実現するには果てしなく険しい道程だ――今からそれが間に合うかどうか……」
 すると、カルディアスは――
「そんなことはやってみなければわからないだろう!  よし、そうと決まったら早速行動を移すのみだ!  それで……あなた方はどのような準備をしたというのだ!?」
 ノディラスはニヤッとしながら言った。
「結構。ならば、早速行動に移ってもらうことにしようか。 それから、フェルドゥーナのほうについては私に任せてくれるといい、 そもそもキミらではどうしようもない状況だろうしね――」
 ということで、早速希望に向かっての作戦が実行されるに至った――。