運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第1章 滅亡までのカウントダウン

第7節 危機

 翌朝、フローナルとシェリアはカルディアスにブリッジへと呼び出された。
「どうしたんだ?」
「やあ、フローナル、疲れはとれたかな?」
 フローナルは軽く肩を回しつつ答えた。
「なーんか、俺のことを毎度コキ使っているような気がするんだが――」
 カルディアスは悪びれた様子で答えた。
「まあまあ、それだけキミを高く評価しているということだよ、どうかな?」
 フローナルは頷いた。
「いいだろう、そう言うことにしておいてやる。で、また出番か?」
 カルディアスは頷いた。
「昨日のトラジアータの沈黙の件なんだけど、実はうちの上層部でも問題としてあがっているようなんだ。 それが発覚したのはフェデネールのことでね――」
 シェリアは首をかしげていた。
「昨日言っていた件ですね。なにか進展がありましたか?」
 カルディアスは首を振った。
「それはなんとも。 ただ、そのフェデネールが調査してほしいことがあるらしく、うちの上層部を通じて依頼されたんだよ」
 そういうことか、フローナルは頷いた。
「なるほどな。で、詳細は?」
「ああ、それは”惑星TRC063810”の調査だ」
 またTRCか……

 TRCということは最初にも言ったようにトラジアータ宙域にある星系であるということである。 宙域の中央には太陽系で言うところの太陽に相当する星”トラファネル”があり、 まさにトラジアータ共和国星の太陽の役割をしていると言ってもいいほどである (と言っても実際には恒星でしかないのだが)。 そして、トラジアータ共和国星はその付近にある惑星である。 で、問題の惑星TRC063810は惑星TRC001984と違ってトラジアータ共和国星の衛星ではなく、 トラジアータ共和国星と同じ太陽に相当するトラファネルの衛星であるらしい。
 だが――
「見つからない?」
 カルディアスは分析しているクルーに訊いた。
「はい……そもそもなんだかおかしいです、 トラジアータ宙域にあったはずのいくつかの星がなくなっているんです、どういうことなんでしょう?」
 えっ、そんなことがあり得るのか……何人かは悩んでいた。
「トラジアータから返答がないことと関係があるのでしょうか?」
 シェリアは心配そうに訊くとカルディアスは腕を組んで言った。
「その可能性は大いにありそうだな。 まあいい、とにかく、引き続き惑星TRC063810を探し出してくれ。 もしかしたらフェレストレイア宙域に――」
 だが、そのまさかだった。
「艦長! 惑星TRC063810ですが、現在フェレストレイア宙域にあるようです!」
 カルディアスの予感は的中した。

 報告を聞いて一同注目した。それについてシェリアが言った。
「なるほどです、要はちょうどトラジアータの公転軌道的にフェレストレイア宙域に向かうような感じになっていたということではないでしょうか?」
 突拍子もなく頭のよさそうなことを言うのが彼女の持ち味である。 実際に頭がよく、所謂”リケジョ”と呼ばれる存在である。
「ということは遠心力が働いて、フェレストレイア宙域に放り出される形になったということか……でも、ということは?」
 カルディアスが言うとシェリアは――
「トラファネルの衛星ということはトラファネルの重力に引っ張られて公転しているということです。 それはトラジアータの衛星もしかりでトラジアータの重力に引っ張られているからこそです」
 というとフローナルが核心を突いた。
「つまり、トラファネルの重力が弱まったせいで惑星TRC063810も放り出されたということに……」
「そんなまさか! それに、惑星TRC001984はトラジアータの衛星だからこっちの重力が弱まらないと――」
 カルディアスはそう言うがフローナルが――
「トラファネルの重力が弱まっっていることはトラジアータも放り出されるということになる。 そのせいで衛星として動いているバランスが崩れちまったのかもな」
 というと、シェリアがすかさずフォロー。
「それはあり得ますね。 トラジアータ宙域の周辺には重力場の強い惑星がいくつかあります。 衛星がそちらに引っ張られて軌道を変えることはあり得なくもないことだと思います、ですから――」
 と、その時だった――
「艦長! 大変です! トラジアータ共和国星と思しき星が消滅しようとしているようです!」
 な、なんだって!?

 トラジアータは重力場の強い惑星に引っ張られ、衝突していたようだ。 それは惑星というより”ブラックホール”と呼ばれるもので、 まさに1つの星が死を迎えようとしている時に出くわしたクルーたちだった…… 距離が少々遠いので目視することはできないが、データ上ではとんでもないことになっていた。
「なんてことだ――」
 カルディアスを初め、何人かはその場で落胆していた。
「トラジアータが音信不通を決めたのは……」
 フローナルはそう言うとカルディアスは目を押さえながら言った。
「彼らは頑固だからな、プライドが許さないのだよ。 つまり……自分たちの危機を知らせようとしたくなかったことの表れかもしれん……」
 なんてこった……。
「じゃあ、フェデネール星は?」
 フローナルは訊くとシェリアが言った。
「フェデネールも飛ばされているかもしれません。 トラジアータと違って時期的にブラックホールにより近い星のハズですのですでに破壊されているハズですが――」
 すると、カルディアスに連絡が入った。
「なるほど、そう言うことでしたか……わかりました――」
 なんて?
「フェデネールの人も今回の事態については前もって把握していたようで、 トラジアータが消滅することを当人たちから聞いていたらしい。 ただ……自分たちの命運はもう決めたからと、今回のことは黙っていてほしいと言われたそうだ。 しかし、フェデネールは奇跡的にブラックホールを回避する軌道に入り込み、 今はフェレストレイア宙域の衛星として留まっているらしい」
 奇跡だな。
「そして、今回の惑星TRC063810の調査はフェデネールではなくトラジアータきっての希望だそうだ」
 弔い……