運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第1章 滅亡までのカウントダウン

第5節 フローナルの考え方

 それから数か月、 まずはメテオ・ナイツのクルーを選ぶという特命を受けたカルディアスは何名かをスカウトすることになっていた。
 そんなある日のこと、彼は”アルディーニア”と呼ばれる都の組織に顔を出していた。
「相変わらず寒いところだが――でも、各地方の者をまんべんなく選ばなくてはいかんだろう、差別はよくないな――」
 カルディアスは考えた。ん、そういえば――
「そういえば、アルディーニアといえばエターニスに近いところだったか…… だからと言ってエターニスの者がこの中にまぎれているとは考えにくいが……」
 と考えた、そう――ヴァナスティアのご所望の人材はエターニスの者なのだそうだ。 エターニスと言えばディルナも言っていたように浮世離れした存在だらけということもあり、 実際には誰しもがヴァナスティアのその提案には消極的だった。 無論、浮世離れした存在ゆえに宇宙深探査などということさえも関心がなく、 彼らが参加すること自体がありえないというのが一般論、そもそもが無茶苦茶な話である。
「まあいい、ヴァナスティアさんには申し訳ないが、無理なら無理と返答するしかあるまいな――」
 そもそも何故ヴァナスティアがそのようなことを言ってきたのかも疑問である。 エターニスへの認識は彼らも同じはずである、だから彼らがあんな提案をすること自体があり得ないと言ってもいい。 それでもあえて提案してきたのは”信託”が降ったからだという、まさに神さびた力…… それ自身も他の者にとっては疑問でしかないのだが、ヴァナスティアといえばフェルドゥーナにおける最大の宗教であり、 その影響力は計り知れない……ゆえに無下にもできないのである。

 話を戻そう。 とある訓練施設にて、その風景を見ているとなんとなく見たことがあるような青年が現れた。
「ん? あれは――」
「ん? 何か気になりましたか?」
 カルディアスを案内している男がそう訊いた。 すると、その青年は背中の大きな剣を取り出し――
「悪いが誰か相手してくんねえか?」
 と言うと、3人程度で彼を相手を――
「はぁっ! でやぁっ! おらあああ!」
 と、3人をあっさりとK.O.してしまった!
「ふう……悪いな、なーんか身体がなまった感じがするもんでな、待ってろ……」
 というと、なんと回復魔法を――
「うへぇー、やっぱりすごいっすね!」
「あんたには全然敵わねえもんな!」
「本当にすげぇよ! これで宇宙に出られたらもっと活躍するだろうに!」
 しかし、青年は首を振った。
「俺じゃダメだな、生まれがすべてを物語っている、だから俺にできるのはせいぜいお前らをしごいて鍛え上げる程度のことだ」
 そんなこと言うなよー! 3人は口をそろえて言った。
「一体何者だ?」
 カルディアスはその光景をさして訊いた。
「ああ、彼はフローナル=ヴィーラスト、エターニスのライトエルフですよ」
 えっ!? カルディアスは耳を疑った。
「エターニスだって!?」
「ええ、そのようですよ。 どうやら記憶のほうに欠陥があるらしく、はっきりと覚えていないようなんです。 それにエターニスの流れを汲んでいることは確かなようですので、 ”新プロジェクト”のための人材としては……あんまりオススメしませんがねぇ――」
 現段階では特命ミッションゆえに”新プロジェクト”が何かは伏せられている。 カルディアスはそう言われ、フローナルを眺めながら悩んでいた。

 それから数時間後、 フローナルは汗を流すためにシャワールームに入り、 そして服を着て出てくると……
「やあ、いい汗をかいていたね」
 カルディアスが待ち受けていた。
「ん? なんだあんた? さっきもあっちにいたな……俺に何の用だ?」
「キミと話がしたいと思ってね。どうかな、一緒に昼食でもしないか?」

 そして、そのまま一緒に歩いていると1人の女性が合流した。
「ど、どなたです?」
 女性は困惑しているとフローナルは言った。 その女性、どこかのいいとこのお嬢様のような……ってことはつまり――
「俺にもわかんねえ。でも、なんか話があるそうだ。 だからとりあえず聞いてやるだけ聞いてやるかなって――」
 女性は頷いた。
「わ、わかりました、フローナルさんがおっしゃるのなら――」

 ということで食堂にて、3人はそれぞれのものを頼んで食べていた。
「キミは……エターニスから来たって?」
 カルディアスが言うとフローナルは――
「ああ。 あんた見たところお偉方のようだが、そんなんがエターニスの精霊であるこの俺に何の用だ?」
 彼はカルディアスのほうを向いて訊いた。 だが、その時の彼の眼差し――これはとてもではないが浮世離れしたような存在の成せる顔ではない―― そんな迫力にカルディアスは圧倒されていた。
「ま、まあそうなんだが――宇宙には興味あるかなと思って。 キミは戦闘部門所属だろう? 未知の敵はどうかなって……」
 フローナルは首を振った。
「そんなものには興味ねえな。 だいたい既知だろうと未知だろうと同じこと、相手が敵とあらば倒すだけだ。 確かに未知の敵ならまた変わった戦い方が強いられるのは当然のことだが、 だからといって――生と死の駆け引きの中で既知だの未知だのこだわっていたら死ぬ未来しか見えない。 あんただってそうだろう? だから今の地位まで上り詰めることができたんだろ?」
 確かにその通りだ、カルディアスは考えさせられた。 いや、これはエターニスの者だからという先入観は捨て去ったほうがいいな……カルディアスは考え直した。
「純粋に、目の前に与えられた問題に対してベストを尽くすだけということだな」
「そういうことだな、例えどんな難問をぶつけられてもな。 ちなみに宇宙には興味はあるけどな、”無限に広がる大宇宙”ってやつにはまさに無限の可能性が秘められているらしい。 それがなんなのかは正直どうでもいいが……でも、その過程で得られた経験ってのは確実に自分のものになるんだろうな」
 そういうもんか? カルディアスは訊いた。
「キミは目的のお宝よりもそれまでの過程を大事にするタイプなのか」
 フローナルは頷いた。
「宝は探したらそれでおしまいだからな。 だから俺は探している宝が何なのかワクワクしているときのほうが面白いと思っているな。 もっとも、生きているってことはそいつの連続に過ぎない――宝は探したらまた次の宝を探すだけ……その繰り返しだな。 ま、その分ワクワクしているときの時間のほうが長いことになるけどな」
 なるほど、カルディアスは考えた。