運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第1章 滅亡までのカウントダウン

第2節 謎が謎を呼ぶ

 ”本艦”に到着した2人は早速救護センターでしかるべき処置を行ってもらっていた。
「”惑星TRC001984”はどうだったか?」
 なんとも偉そうな見た目をしている男が2人の前に現れてそう訊いた。 それに対してフローナルはあっけに取られていた。
「は? ”惑星TRC001984”だって?」
 偉そうな男は悩んでいた。
「ん? あれ? 聞いてない?」
 すると、別のクルーがそっと言った。
「艦長、その話は先ほど判明したばかりなので全クルーには伝わっておりません……」
 そう言われ、艦長は左手の掌を右手のこぶしで叩いていた。 艦長か……それなら偉くたって仕方がない。
「そうだ、そう言えばそうだった、すっかり忘れていたな。 フローナル、”コミュニケータ”を見てくれ……」
 そう言われたのでフローナルは先ほど使っていた機械を取り出し、その端末を操作すると……
「惑星TRC001984……TRCってことは”トラジアータ共和国星”所属ってことか!?」
 と、フローナルは驚きながら言った。
「そうなんだよ。それで……何か問題でもあったのか?」
 艦長はそう訊くと、フローナルは話をした。
「なるほど、我々の組織の救難信号にノイズを入れこむほどの妨害電波か……確かに気になるねぇ。 それから、キミが激闘した魔物だけど、どうやら我々の母星であるフェルドゥーナにいる種類だということが分かったんだ」
 なんだって!? フローナルは驚いていた。
「どういうことですか!?」
 ディルナは驚きながら訊いた、それはそうだ、 どうしてフェルドゥーナの生物が異国の星にいるんだ!? それはそれで大いに問題があるとしか言えない。
「だが、そのおかげで我々にとっては既知の生物、 血清など作らずとも最初からあるからキミらの回復も早く済みそうだ。 無論、既知の生物だとわかったのもひとえにキミが魔物の毒サンプルを手に入れてくれたおかげだけどね。 流石はフローナル戦闘隊長だね!」
 そう言われるが、フローナルは心中複雑だった。 すると艦長は別のクルーに指示を出していた。
「早速今回のことをトラジアータ共和国星に話してくれないだろうか?」
 だが……フローナルはなんだか腑に落ちないでいた。
「どうしたの?」
 ディルナが心配そうに訊くと、そこへ艦長が言った。
「そう、惑星TRC001984というのが気がかりということだよね、だから私もそれが判明するまでに時間をかけたんだ――」
 そう言われてディルナは気が付いた。
「あれ? ということは”トラジアータ宙域”ですか?  変ですね、確か私たちって――」
 するとそこへ別のクルーが現れて言った。
「ええ、私たちがいるのは間違いなく”フェレストレイア宙域”ですね、 座標も進路も間違っていないようです、ということはつまり――」
 と言う、見た目もいいところのお嬢様風の服装の神秘的な美女な彼女…… まさに”プリズム族”と呼ばれる種族の特徴である。
「つまり俺らでなくて星のほうからフェレストレイアに突っ込んできたってことか?」
 いや、それは――
「どうやらそれが現実のようだ。 だが、問題はどうしてトラジアータ共和国星の衛星である惑星TRC001984がフェレストレイアに突っ込んできたかだ。 トラジアータ共和国星は――」
 艦長はそう言うとプリズム族の女性が答えた。
「トラジアータ宙域の直径はおよそ10兆km、我々太陽系で大体30兆kmですから――」
「てことは3分の1……」
 ディルナがそう言うと艦長が釘を刺した。
「直線的な長さで言えばね。広さで言えば3分の1で9分の1となる」
 しかし、それに釘を刺したのがフローナル。
「だが現実で言えば体積で捉える必要がある、つまりはさらに3分の1で27分の1の大きさになるということだな」
 あっ、そういえば……艦長は頷いた。
「それもそうだ。それで――トラジアータ共和国星の衛星である惑星TRC001984の軌道でフェレストレイアに近づくルートは?」
 だが、プリズム族の女性は首を振った。
「ないですね、トラジアータ共和国星はトラジアータ宙域のほぼ中心部に位置しておりますが、 半径約7000kmの共和国星から約8万4000kmの距離に周回している衛星である惑星TRC001984がトラジアータ宙域の外出ること自体が不可能ですね……」
 それじゃあ、なんで!?

 ブリッジ……艦橋というもので、言ってしまえば艦の大掛かりな操縦室である。 非常に大きな艦であることもあり、その内部は何かしらのセンターである。 確かに、センターはセンターなのだが。
 艦長は中央で悩みながら座っていた。
「トラジアータの返答は?」
「依然として沈黙を守っています、このまま無視し続けるつもりでしょうか?」
 艦長は腕を組んだ。
「連中は頭が固いが話し合いには応じてくれる……そういう連中だったハズだ。 ということは無視しているのではなく、こちらの返答に応じることができない事情があると考えるべきが妥当だろう。 そうだな……」
 そう言いつつ、艦長はおもむろに端末を操作し始めた。
「こうなったら頼るべきは我が友のみだ……」
 すると、艦長の目の前のモニタには誰かの顔が。
「誰かと思えばカルディアスか。 どうした、何か問題でもあったか?」
 カルディアス、艦長の名前である。
「ウィドラス……聞いてくれ、トラジアータに掛け合ったが応答がない――」
 ウィドラスは相手のことである。カルディアスはことの一部始終を話した。
「それは確かに妙だな、トラジアータ側で何かあったに違いない。 わかった、それならこっちに任せてくれ。 それより、今はフェレストレイアにいるのか?」
 カルディアスは答えた。
「ええ、美女の多い地域ですね」
 ウィドラスは羨ましそうにしていた。
「まあまあ。 いくら美女だからと言ってスキを見せてはいけませんよ、彼女らはしたたかですからね――」
 ウィドラスは頷いた。
「最初の頃にまさに美女の洗礼を浴びさせられたよ、 飲みの席で鼻の下を伸ばしている間にとんでもない額になっていてな、 私に任せろと言った手前で引き下がるに下がれなくて仕方なしに全額支払わされたよ……」
 それなんてキャバクラですか。
「とっ、ともかく! 言いたかったのはそれではない!  実はトラジアータのその件なんだが、今こちらでも問題になっているのだ」
 どういうことだ? カルディアスは訊いた。
「というのも、少し前に”フェデネール”から頼み事があってな――」
 ”フェデネール”といえば――カルディアスは考えた。
「”フェデネール”といえば……トラジアータ宙域の惑星ですね」
 ウィドラスは頷いた。
「そう、それで最初に同じ宙域内のトラジアータ共和国星に掛け合ったというのだが、 応答がないということでうちのほうに相談されたのだよ」
 そうだったのか、カルディアスは考えていた。
「それで……”フェデネール”は何の相談を?」
 ウィドラスは頷いた。
「それでまさに今、フェレストレイア宙域にいるそちらにやってもらいたいことがあってな――」