クロノーラ・クロニクル

第5章 時の生み出せし申し子

第90節 またしても安定のシルグランディア様

 リアントスは訊いた。
「相手がクロノーラの手のものってことならそれでいいか」
 ガトーラは呆れ気味に訊いた。
「おいおい、私の時とはずいぶんと扱いが違うじゃないか?  それはさすがにえこひいきじゃないか?」
 リアントスはなにそれとなく言った。
「お前、口だけでなんもしないからな。 クロノーラ……というかクレアを見習えよ、顔をぶつけながらこの世界のために身を削ったんだぞ?」
 そう言われたらぐうの音も出なかったガトーラだった。いや、顔って……削りすぎだろ。
「で、シュリウスはどうなっているんだって? どっちに訊けばいいんだ?」
 リアントスはレイとガトーラにそう訊くと、もちろんレイが答えた。
「ここに”禁じられた災悪”がいるってことだよ、その結果がこうなっているってこと。 類は友を呼ぶっていうのはまさにこのことで、悪いのがいるってことは悪い気が集まりやすくなっているんでしょ、 ここが栄えないのはまさにそういうことなんじゃない?」
 確かに……リアントスは納得した。
「お前らもレイを見習ったらどうだ? 今の説明すっごいはっきりしているだろ?」
 そう言われたマグアスとガトーラはぐうの音も出なかった。
「てことで、そいつがいる空間をこじ開けるための大きな力をぶつけるためにこうして砲台兵器をセットしているってワケ。 大きなパワーをぶつけて世界崩壊の”テラ・フレア”のうち漏らし…… あんたのお友達のエイドなんとかっていうやつの悲願を達成するべくこうしてアトローナシアの技術者一同が集ったってワケね。」
 と、レミシアは緩い調子でそう言うと、マグアスはうろたえていた。
「なっ、なぜそれを!?」
 レイは得意げに答えた。
「クロノーラの力を侮らないように!」
 もはや手も足も出ません。

「まっ、見てなさいよ。」
 レミシアは早速砲台兵器を……
「待った! 別空間の存在を攻撃するには”鍵の魔術”の力が!」
 と、マグアスは言った。さらにクラナが――
「それもそうだけど、言っても対象は別空間なんだ、こっちと同じ空間としてのそれとは限らないよ!  つまり、力をぶつけたところで姿は現すかもしれないが、それ以上のことができるとは……」
 すると、レイはあの剣を抱え上げた、”フェイタル・クロニクル”である。
「その剣……まさか! そういうこと!?」
 それにはディアが驚いていた。
「ええそう、ネシェラ=ヴァーティクスが一代で作り上げた渾身の一振りよ。 彼女の時代はまさに封じられた邪悪によって亜空間が現れた時代、 その剣の力を使って直接こじ開けられたことを確認しているそうよ。 もっとも、当時のそれは既に開かれていた空間なんだけど、 封じられた邪悪ですら意図していない場所から無理やりこじ開けてられていることを確認できているそうだから、 その時は既に開かれていただけあって大きなパワーは必要とせずとも、それでもこじ開けられること自体は実証済みらしいわね。」
 実証済みって……時代をまたいでヤバイなネシェラ=ヴァーティクス……。
「はい! 早くやって!」
 と、レミシアは訊くと、ディアはすかさず答えた。
「お、おう! 拡散波動砲エネルギー充填!  電影クロスゲージ明度20! セーフティロック解除!  薬室内圧力上昇中! 対ショック、対閃光防御! エネルギー充填128%!」
「いよっしゃあ! 行くわよ……波動砲、発射!」
 そして……今度はシュリウスの遺跡すべてを破壊しつくす……
「いっくよー! 打ち砕け! フェイタル・クロニクル!」
 さらにレイの魔力が……運命を決する刻の標を介したそれが合わさり――

 遺跡には、まるで魔王の居城とでもいうべき異様な建物が出現した。 だが、ものすごい力を受けた結果か、ほとんど廃屋のようなありさまとなっていた。
「もはや何が何だか――」
 スクライティスもお手上げだった、もちろんクラナも――
「そう思っているのはあんただけじゃないよ。 まったく、これだけのためにはるか昔から準備を進めている者がいたんだ、 これ自身は私らにとっては必要なことだけど、とにかく、職人魂を感じるわね……」
 そして、シュタルとクレアは無茶苦茶嬉しそうに言った。
「やっぱりネシェラお姉様もレミシアお姉様もすごーい! 私なんかもう全然足元にも及ばないよ!」
「すごいすごい! 本当にすごいです!」
 リアントスは呆れていた。
「だな、やっぱり時代を超えても安定のネシェラは安定のネシェラであり、 そして、安定のシルグランディア様だったってわけだな」
 と、レミシアを見ながら言った。 但し、彼女としては一切スタンスを変えず……
「んなこといいから、さっさと災悪をうち滅ぼすわよ!」
 これは単なる通過点と言わんばかりに事を進めようとしていた。
「頭が上がりませんね……」
「ホント、やってることはすごいことのはずなんだけどなー」
「こういう時にもっと得意げになってもいいんだけど――」
「これがレミシアさんということですね……」
 ウェイド、ミュラナ、シャルアンとラーシュリナは唖然としていた。
「どうしたの!? 早く行くわよ!」
 レミシアは早々に奥へと突き進んでいった。
「……ふぅ、叶わんな。それなら、職人様のお言葉に甘えるとしようか。さあ、行くぞ!」
 マグアスは彼女に続いた。