クロノーラ・クロニクル

第5章 時の生み出せし申し子

第82節 存在理由

 ガトーラはティンダロス邸の中で待っていた。
「ふむむ……”禁じられた災悪”か、そういうのがいるんだね――」
 なんだその言い回しは。つまりは知らないということか?
「いや、そういうわけじゃない。 ただ、”禁じられた災悪”という言い回しがね――」
 レミシアはもんくありげに訊いた。
「何よ、何か問題でもあるわけ?」
 ガトーラは首を振った。
「いや、そういうわけじゃない。 ただ――その”禁じられた災悪”も元来この世界に存在するものでね、 それも創造主自ら創造したもののハズなんだ、我々の祖とともにね――」
 なんだって!? それには全員が驚いていた。
「言ってしまえば”封じられた邪悪”はもちろんのこと、 ウロボロス自身も我々の祖とともに創造されたものなんだ。 だけど、その途中でそのジェラレンドとかいう者もヴィラネシアとかいう者も後で別の創造主が追加したものという理解なんだと思う。 そのうえでウロボロスはそのジェラレンドという者と連動されることになったという事なんだろうね、ウロボロスの制御のためにね」
 ウロボロスを制御って!?
「言ってしまえばローアの時代はまるでウロボロス祭りとも言うべき頻度でヤツが多発していたんだ。 それでは流石に世界がねじれてしまう、だから創造主自らそこに制限をかけたということだろうね」
 待った、それだと――リアントスは考えた。
「創造主はローアの刻に没したっていう前提が崩れるんじゃねえか?  もっとも、ジェラレンドもヴィラネシアもローアの刻に追加された者だってんなら話は別だが――」
 レミシアは言った。
「だから、以前にも言った通り”ローア創造プロジェクト”なのよ、きっと。 この世界はあくまで創造主ユリシアンの手によって作られたもの――それはこの世界の通例だけど、 創造主は死んだというよりも、なんらかの都合でプロジェクト・メンバーから外れたと考えるのが妥当ね。 例えば聖獣になるために忙しくなったから代わりに誰か責任者やってくれ的なね。」
 それ、俺じゃん……ディアは思った、責任者ではないけど。しかし、分かりやすいたとえではある。
「てことは……プロジェクトの責任者の名だけユリシアンのまま掲げていて、 ほかのプロジェクト・メンバーがせっせとこの世界を創造したってか?  ウロボロスがジェラレンドの管理下ってのもそういうことだってわけか?」
 リアントスはそう言うとレミシアは頷いた。
「ええそう。 で、そのメンバーは今はどうかは知らないけれども、 少なくともローア期の間ぐらいはこの世界を創造・管理をすることになったということよ、 この世界の高級精霊様というお立場でね。」
 なんと、まさか――しかし、なんとなく説明が付きそうな感じではある。 それで、今はどうかは知らないというのはやはりシュタルのような者が高級精霊をやっているからということだろう、 シュタルは10億年前まではこちらの世界の住人だったから、 その段階で創造・管理も創造主たちの手からはある程度離れていると考えるのが妥当ということか。
「ま、この辺りは推測に過ぎないんだけどね。 とにかく、そのうえで封じられた邪悪も禁じられた災悪も創造主にとっては当時は必要だったものであり、 今では単に世界を脅かす外でしかなくなっているというだけの事ってわけね。」
 レミシアは言うとシュタルは考えた。
「それで存在が禁じられるって――つまりは創造主の自業自得ってこと!?」
 残念だが、要はそういうことらしい。
「そして俺らにしてみれば単にはた迷惑な話でしかねぇってわけだ」
 なんてこった。残念だがリアントスの言う通りのようだ。

 残念ながらガトーラに訊いても禁じられた災悪の手がかりはなかった。 だが、そいつはそのうち必ず現れるハズ、ガトーラはそう言って話を締めていた。
「どいつもこいつも役に立たねえな、すごいんだかすごくねえんだかどっちかにしてもらいたいもんだ」
 リアントスは愚痴っぽくいうとスクライティスが言った。
「そうはいうけどねぇ、私とて万能ではないんだよ、 それに別に自分がすごいやつだとも思ってないしさ。 何度も言うけど、私の力はキミがよく知るご先祖様とは桁違いに貧弱なんだよ、だから――」
「だから、だったらなんで俺がクソライトのことをよく知っているって知ってんだよ!  確かに同じ時代を生きていたのはその通りだが知り合いみたいな付き合いをしていただなんて一言も話してねえだろ!  だいたい俺はあいつのことが嫌いなんだ! お前もあいつと同じ空気を感じるだけあってテメェのことも嫌いなんだ!  おら、そいつは流石によくわかってんだろ! ティルフレイジアだからな!」
「へっ? なんのことかな? というか、いきなり嫌われているだなんて、私はなんてつくづく運がないんだろうねぇ……」
「とぼけてんじゃねえ! このクソラティスが!」
 クソラティスとリアントスが言い合っているが、その一方でレミシアは何やらずっと黙って考えていた。
「あれ? レミシアさん、どうしたのです?」
 ラーシュリナは訊いた。
「いや、最後にガトーラが言い残していたことが妙に引っかかってね――」
 ガトーラは最後にこう言い残していたのである。
「そいつはそのうち必ず現れるハズ――それが何か?」
 シャルアンはそう言うとレミシアは首を振った。
「ううん、じゃなくてその次――”いよいよその状態たる原因が明るみになる時が来るんだ”よ。」
 確かに、そんなことを言っていたらしい。
「ジェラレンドみたいなのが現れることを示唆していっているんだろう? ほかに何が?」
 マグアスは言うとレミシアは悩んでいた。
「いえ、ただ……妙に引っかかるのよねぇ、何か忘れている気が……」
 リアントスは考えた。
「言われてみれば、なんかずっと引っかかっているものがあるといえばあるな――なんだったっけか?」
 シュタルも悩んでいた。
「うーん、なんだろ……なーんかずっと忘れている気がするんだけどなぁ……」