例のティンダロス邸で一晩明かすこととなったレイたち、だが、レイがいる部屋の隣でなにやら大きな音が。
何事かと思って慌てて飛び出したレイは話を聞いた。
「脅かして悪いな、瓦礫を除去していただけだ。
もう終わったから安心していい」
そこにいたのはリアントス、回廊を塞いでいる瓦礫の山を力づくで除去していたようだ。
「人騒がせだね、どうせなら空いている部屋に行けばいいじゃないか」
クラナはそう愚痴るとリアントスは言った。
「ティンダロス邸での俺の部屋は決まっているんでな」
そうか、彼もまた、当時の栄光の時代の勇士の一人だったというわけか。
「もっとも、そもそも何勝手に人の家で寝泊まりしているんだって話なんだが、
家主はその辺何も言わないやつだったな」
えっ、そうなの? それには何人かが驚いていた。どういうことだよ。
「あれっ!? そうだったんですか!? ということは私も!? 私てっきり――」
クレアは驚いていた……って、あんた把握していないのかよ、10億年前だぞ。
そして次の日……
「あれ? レイは?」
レミシアは寝泊りしていた部屋へとコーヒーを片手に戻ってきた。
レイはまだ寝ていたはずである、例によってラーシュリナに抱かれて。
「レイさんでしたら屋上じゃないですか?」
屋上? レミシアは訊いた。
「部屋から出てくるところを見ていないんだけど?」
クラナは指をさしながら言った。
「窓から屋上に飛び乗っていったよ。
前はこの部屋から出るときに軽く飛び降りたり飛び乗ったりもしていたよ」
そういわれてレミシアは考えた。
「なるほど……。ねえ、レイって昔からそんな?」
クラナは答えた。
「私が知る限りだと、昔からそうだよ。
あまりにお転婆で、一度行方不明になったって話を聞いたこともあった。
そしていざ見つかったら屋根の上で寝ていたってこともあったぐらいさ、かくれんぼをしていたってね。
それこそクロノーラの元にきて祈りにくるっていう行事があるんだけど、
あの子はいち早く到着するんだ、身が軽くて山道をショートカットしてくるんだろうね」
なるほど、それは……レミシアは閃いた。
「レイ! おはよ♪」
レミシアはレイと同じく窓から屋上へと飛んできた。
「あっ、お姉様! おはよ♪ お姉様もそんなことできるんですね!」
レミシアは頷いた。
「まあね、こんなんだから周りをめっちゃ心配させるほどのお転婆娘だったわよ。
でも、残念ながらスカイ・アタッカーとしての能力は身につかないまま子供も生まれちゃったしね。」
そう、レミシアは子供まで生んでいるのである、サプライズが過ぎるっての。
「子供生んだら身につかないの?」
「そういうわけじゃないけどね、でも、もういいかなって。
だから知識だけ持っている私としてはこの力をレイの役に立ってもらえればと思ってさ。」
えっ、それというのはまさか――レイは予感した。
「レイ! ランゲイルの魔を振りほどくために協力して!」
そう、まさかのレイに白羽の矢が立つことになったのである。
リアントスはレイの修行具合を見て悩んでいた。
「なるほどな、センスがあるのは理解した。
だが……それにはちっとばかし飛距離が足りてねえんじゃねえか?」
レミシアは首を振った。
「私も知識ぐらいしかないから教えられるのはせいぜいここまでよ。
これ以上は当人のセンスに委ねるしかないのよ。」
そこへガトーラが現れた。
「なるほどなるほど、彼女が力になるということか。
なんとも軽やかな身のこなしで高低差を飛び回る使い手だね!」
ガトーラは嬉しそうだった。
ガトーラやリアントスの言う通り、レイの飛距離はそこまででもないが、
それでも宙をアクロバティックに動き回りつつ地上へと襲撃するような軽やかな動きに何人かが圧倒されていた。
「レイさん……本当にどこまで強くなるんでしょうか……」
ウェイドは唖然としていた。
「空中戦まで制したら完全にずっとレイのターンじゃんか……」
ディアも唖然としていた。
「まあそれならそれでずっと楽ができそうですね」
スクライティスはそういうと、
「あんた、そればっか」
クラナは呆れていた。
「古の時代ではかの使い手を”フェザー・ブレイド”と呼んでいたんだ、
宙をも無尽に動き回りつつ敵を翻弄し、大打撃を与えるクラスだってね。
だが、いつしか人は宙を動くことをやめたんだ……
それが”ウィング・ソード”や”ウィング・マスター”クラスの始まりだったんだ」
と、ガトーラは説明した、フェザー・ブレイド……かつてはそう呼ばれる者がいたのか。