クロノーラ・クロニクル

第4章 古の時代との邂逅譚

第66節 奇跡とはこういうものをいうのだ

 ということで、1日でアルトーナへとたどり着いた一行は一旦下船して思い思いに過ごしていた。
「出力高ぇな、無茶苦茶早くないか? 定期連絡船として動かした場合にいろいろと大丈夫か?」
 ディアはそう訊くとレミシアは得意げに答えた。
「出力は”エナジー・クリエイション・デバイス”のせいだから問題なしよ。」
 ん? ディアは気が付いた。
「ついに完成したのか! やっぱり姉様すげーや!」
 レミシアは首を振った。
「ったり前でしょ、そんぐらい。 とにかく、デバイス搭載時の出力にも耐えられる船体ってことで耐久テストの評価点をかさまししとかないとね。」
 2人は船のメンテナンスであーだこーだ言っているようだった。
「これがそのデバイスかな?」
 ディアはそれを見つけてまじまじと見ていた。 何の変哲もない小型のはこのようなものだが――
「あれ? あんたってこいつの開発に携わっていないんだっけ?」
 ディアは首を振った。
「俺、ちょうど聖獣ディヴァイアスの啓示を受ける頃で前聖獣から試練を受けさせられていたころだったんだよ。 だからその段階でそいつの開発メンバーからは外されているんだ」
 そうだったのか、レミシアは納得した。
「じゃあさ、今度”ブースター”を作ってよ。 こいつにはアタッチメントとしてそれを追加することで様々な応用が利くように設計してあるからね。」
 ディアは頷いた。
「拡張ツールを付け足すことで機能を……やっぱりザーギスがザーギスならその娘も同じ発想でものづくりをするんだなぁ。 いよっし、そういうことならちょっと挑戦してみるか。ブースターの仕様は?」
 するとレミシアはその場においてあった紙の資料をどっさりと手渡した、ストーブと見間違いそうに積まれていた。
「これを熟読すればわかるはずよ。」
 ディアは項垂れていた。
「おいおいおい、マジかよ……これ、あれだろ?  姉様のお言葉を一言一句漏らさず書ける特殊能力持ちのラーディスがしたためた資料だろ――」
 なんだその特殊能力は。逆にすげえな。
「そうよ、ラーディス君の傑作なんだから心して読みなさいな。」
 ディアは悩んでいた。
「へいへい、そうさせてもらいますよ……」

 10分後、レイはその2人の元へと戻ると、何人かがとても驚いている状態に出くわしていた。
「ちょっと! マグアス! あんたまで何なのよそのリアクション! 別にいいじゃないの!」
「そ、そう言われてもだな……」
 レミシアが何やら暴れているようだ、どうしたのかその場にいたウェイドに訊いたレイ。
「どうかした?」
「あっ、レイさん! 驚かないでくださいよ! 実はレミシアさんって人妻なんだそうですよ!」
 な、なんだって!? そいつは――
「すごーい! やっぱりレミシアほどの美人のお姉様ぐらいなら既に男もいるんだね!」
 レイはむしろ絶賛していた――
「えっ? そ、そう……?」
 レミシアは戸惑っていた。
「相手はどんな人!?」
 レイの尋問に対し、その場へと戻ってきたラーシュリナが楽しそうに答えた。
「それはそれはもう昔からレミシアさんに思いを馳せていたおとなしいタイプの方なんですよ♪」
 えっ、知ってるの? レイは訊くとミュラナも楽しそうに答えた。
「私たちならほとんどが知っていることですけどね。 おとなしいけど人懐っこいような人で、僕はどうしてもレミシアさんじゃないとダメなんだって…… それで根負けして3年間付き合った末に結婚することになったんだよね♪」
 な、なんとプロポーズされたのか……レイはさらに絶賛していた、レミシア姉様やるな。
「そうよ、カワイイ系の童顔男児よ。 不覚にも告られちまってね――私としてはこういうことは全然想定できていないからパニックになっちゃったけど…… ま、でも女やってりゃそういうことがある可能性はゼロとは言い切れないからね、 私にしてみればまさに奇跡もいいところで、願ってもない申し出だから素直に受け入れることにしたってワケよ、 昔からの馴染みだし、なんつっても可愛いしね。」
 どうやら彼女の好みのタイプはイケメンとカワイイ男の子らしい。
「しかもお相手は速記術のエキスパート、 お姉様が言った専門的な話や言葉を含めて一言一句漏らさず書けるっていう、まさにザ・技術者だ。 おまけに48人が一度に話をしてもちゃんと話を聞き分けられたっていうすげえ伝説まで持っていてな……」
 まじかよそいつ。聖徳太子か何かか。 ともかく、妻が技術者なら夫も技術者とは流石はアトローナシアである。 ということは……? ディアが読もうとしている資料というのは、レミシアの旦那様が書いた資料ということか……。
「自分みたいな女に男なんかできるわけがないって風を装っていたクセにしっかりと男がいるのかい……」
「やっぱりシルグランディアは侮れませんな……」
 クラナとスクライティスは唖然としていた。