船は”デルフィノ・ダルジェント”というらしい、どういう意味だろう。
「はいよー、シルバー!」
「ぃよー! はいよー、シルバー!」
なんだなんだ、レミシアとディアはそんな掛け声と共に船を発進させていた、馬?
「西に進めている? ここからランゲイルに行くのなら大陸伝いに東に行って南に進めたほうが早いぞ?」
マグアスはそう言うとレミシアは答えた。
「東は氷河だからこの船で進むには適さない海域ね。
さらにランゲイルの東の海は荒れているから、ここは一旦南のグレアレンドまで進めてそれからランゲイルに行くことにしたほうがいいわね。」
「なんだ、なんとかデバイスとかいうのがあるから大丈夫だと思ったのだが」
「流石に勘弁しなさいよ、デバイスはせいぜいバリア除去装置的なものは持っているけど、
流石に氷河地帯やアトローナシアの岩礁地帯を無傷で渡れるほどの効果は持っていないわね。」
なんだって!? マグアスは耳を疑っていた。
「アトローナシアの”悪夢の岩礁地帯”を……まさか、自らの操作だけで渡り切ったとでもいうのか……!?」
「それぐらい出来ないとシルグランディアは勤まらんのよ。」
流石はレミシア、”悪夢”と呼ばれる場所を乗り越えるほどの技術があるというわけか――
「船賃は高いわよ。」
でしょうね。分かる気がする。
西のドミナント大陸と東のアルゴーナス大陸、
その間の大陸間海峡へと差し掛かった。すると――
「どうした? 何故ここで止める?」
レミシアは船を止めていた。マグアスに何故を訊かれると、
「これからフィロード島行きの船が通るはずだからそれまで待つのよ。」
フィロード島……つまり、ヴァナスティアのある島行きの定期便が通るので待つという事だそうだ。
「船などかわしていけばよかろう?」
マグアスはそういうとレミシアは呆れていた。
「ったく……これだからズブのど素人は困るのよ。
あのねぇ、船を走らすのならそれなりにルールがあんのよ。
例えば今回……2隻が互いに進路を横切り、衝突のおそれがあるときは、
相手船を右舷側に見る方の船が相手船を避けなければならないわけよ。
となると、それはフィロード島行きの定期便が待たなければいけないわけだけど――」
するとクラナが反応した。
「ん、そいつはちょっとまずいんじゃないのかい?
ヴァナスティアの巡礼者なんて多いんだからそいつは避けたほうがいいんじゃないかい?」
「それだけじゃねーぞ。
船を走らせるためのルールなんて今のアークデイルじゃあほとんどあってないようなもの、
崩壊前にはあったらしいライセンス制度っていうのも崩壊しているしな。
だから最低限のルールだけ作って走らせているのが現状で、
ここで別の船がやってきて横から入り込もうものなら相手は確実にパニックになるぞ……」
と、ディアも追随。そしてレミシアがまとめた。
「そういうこと。
つまり、ルール作りは今後の課題だけど、
現状は船を動かすまでが精いっぱいの情勢だから私らが譲らなければいけないのよ。
だからアトローナシアで取り決めているルール:定期便との接近の可能性がある場合、
可能な限り技師が道を譲らなければならない――が適用されるわけよ。」
開発元であるアトローナシアのエンジニアの特殊ルールらしい。
そもそもエンジニアは作って使ってもらうことが目的であって運用が目的ではないため、
定期便を優先するのが一般なんだそうだ、なるほど。
その際、定期便の舵手がパニックになることを防ぐため、最大限に道を開けるのが必須になるんだそうだ。
「運用が目的ではない? 船のテストはパスしたのではないのか?」
さらにマグアスは訊いた。
「ええ、見てのとおりちゃんと動くわね。
だけど、どこまでの船旅に耐えられるかのチェックは一切してこなかったからね、
遠くたってせいぜいフィロード島行き程度でしかないしね。
だからせっかくのこの機会にやってみようというのがアトローナシアで決まったコトなワケよ。」
この女に何をどう言ってもどう考えても真っ当にしか聞こえない理由で返される……
「で? 他にご質問は? 無ければおとなしく引っ込んでなさいよね?」
レミシアは得意げに言い返すとマグアスは諦め、言われた通りおとなしく引き下がることにした。
それにはウェイドも唖然としていた。
「すごい……聖獣様さえも唸らせてしまうのか――」
それは違うと思います。