クロノーラ・クロニクル

第4章 古の時代との邂逅譚

第63節 封じられた邪悪

 ということで、そんなこんなでクレアを連れてガトーラのもとへとやってきたレイたち。 レイは長特権をフル活用してこっそりと外出していた、見送られるのも面倒なのであくまでこっそりである。
 ガトーラは相変わらずアーケディスのあの塔の屋上で天と交信していた……違うか。
「宇宙人は呼べた?」
 レイはそう言うとレミシアは得意げに言った。
「呼ばなくたって当人が宇宙人だけどね。」
 ガトーラは参っていた。
「あはは……相変わらず手ごわいね――。 でも、いよいよだね――」
 何がいよいよなんだろうか、すると――
「えっ、朝日?」
 レイは驚いていた、まばゆいばかりの日の光がその場を差し込んできた。 しかし、朝日にしては時間が既に9時を回っている、既に日が昇っている状況なのだ、どういうことだろう?
「いよいよ200年前の破壊の刻がもたらした粉塵が晴れてくるころだ。 この200年間はまさに文字通りの闇の世界――それが今、何故か解消されようとしているんだ……」
 クレアが前に出て答えた。
「私の影響ですね――」
 えっ、そうなの!? だが、ここまで粗方話を聞いていたレイたち、 いろいろと考えさせられるところはあったが、それが彼女の影響によるものだとは思ってもみなかった。 しかし、それ自身はかなり深刻な内容だった。

 邪悪というのはいつの時代にもいるものだった。 現れたのはまさにクレアがクロノーラになった頃のこと、アーカネリアスの刻みの間にやってきた。
 そして当時は人間だったイーグル・ガンこと、リアントスはそのことを聞きつけて急遽ランゲイル島へとやってきた、 彼はその際に精霊界にて聖獣としての啓示を受けてきたのだった。 そう、邪悪はランゲイル島で目覚めたのである。
「どうしてランゲイル島?」
 レイは訊くとガトーラが答えた。
「あの島はもともと”邪悪の眠る島”って呼ばれている場所でね、よくはわからないんだけど邪悪な者が潜んでいるらしいんだ。 ローアの刻ではあの場所に”月の祭壇”というものを作って邪悪を沈めるということをしていたんだけど――」
 ”月の祭壇”……フィールド修理の材料のことを思い出した、それでクラナやマグアスはランゲイル島って言っていたんだな。
「だけどランゲイル島は世界崩壊以前から先進的な島ということもあってか祭壇の文化や伝統を重んじる者が少ない島だった、 開発が進んでいろんな人が流入していく島だったからね」
 ウェイドは考えた。
「そういえばもともとハンターズ・ギルドの本部もランゲイル島にあったそうですね。 今は世界崩壊のあおりを受けて本部の機能をドミナントに移設しているという話を聞いていますが――」
 ガトーラは頷いた。
「そう、ランゲイルはハンター文化と言ってもいいだろう、人の流れが激しいんだ。 だから邪悪を封じているということもとうに忘れ去られてしまった結果、やつは蘇ったんだ。 それで当時の聖獣たちは立ち向かったんだ。 しかし、そいつはまだ邪悪なる者の先兵に過ぎないことが分かったんだ、 だからクレアが考えた封印の方法でなんとかすることにしたんだけど――」
 ガトーラは考えながら言った。
「しかし、その方法は当時、皆が反対したそうなんだ。 だけどクレアは既に決心していた――既に邪悪の根源たる元を断った後だったんだ」
 クレアは頷いた。
「はい、そうなんです。 その封印についてはいたって簡単で、外からだけでなく中からも厳重封印してしまうことです。 つまり……自分の精神と共に封じることになります――」
 なんだって!? それにはみんなが驚いていた。
「……そんなことをしてしまったクレアのことを何とかしてやりたかった…… 当時は聖獣ではなく、精霊界に昇ることを決心してたリアントスとセレイナ…… だけどそれをせずに聖獣として当時からこの地にとどまり続けているのは全部クレアのためだったんだ、 イーグル・ガン――いや、リアントスが全部教えてくれたよ」
 と、ガトーラは悩んだ様子で言った。
「だけど――試練の祠に現れた?」
 レイはそう訊くとクレアは答えた。
「どんなことをしても封印は破られてしまいますからね。 だから私は一種の呪いともいうべき術印を施したんです。 封印が解かれる日が近くなれば私の精神は試練の祠へと自動的に飛ばされるような仕組みを作ったんです。 そして、精神体の状態で疲弊している私を誰かの呼びかけで呼び起こしてくれるようにプログラムしたのです――」
 なるほど、それでレイが潜ったときにクレアと邂逅したというわけか…… 疲弊していたというよりは顔をぶつけて泣きじゃくっていたというのが正式だが。
「邪悪を封印していた力は強大です、ただし……それは内側からの封印のみです。 外からの封印は邪悪なる者の邪悪の気配によってそそのかされた闇の眷属たちの仕業で次第に弱まってしまっていました。 それにより、封印のフィールドが全世界を包み込むほどにまで膨張してしまったのです」
 ってことは何か!? つまり、アークデイルはこれまでクロノーラの封印の中に包まれた世界だったってこと!? レイはそう言うとクレアは頷いた。
「世界崩壊……私は内側の封印を解き放つことにしました。 ですが、封印はあまりに強力なため、解き放たれるまでには約200年はかかります。 そしてまさに今、その封印が解かれる時が来ました。 それにより、邪悪なる者たちはこの世界を闇に染めるべく、あの日の光を闇に閉ざすべく動き出すことでしょう。 封印をする前もそのようなことをしようと目論んでいました。 そして……アーカネリアスの刻で封じられた”封じられた邪悪”を呼び起こし、この世界に復讐を成し遂げるハズです――」
 ”封じられた邪悪”? クラナは訊いた。
「精霊界の伝承のあいつかい? 精霊共が管理しているんじゃないのかい?」
 クレアは考えた。
「あれは精霊たちの手に負えるものではありません。 だからアーカネリアスの世では時の英雄たちによって斃されました。 ただ……斃されたとは言ってもあれはまだ生きています、 まだ10億年しか経っていませんので当時の傷が癒えるまでには相当の時間がかかりますが、 封印を解かれたら確実にことを成し遂げようとすることでしょう。 ですが、私はそれを阻止するためにこうして現世へと舞い戻ってきました!」
 なんとも複雑な話である。 とにかく、そいつの復活をとめればいいんだないいんだな。