レイはクレアを背負って試練の祠を後にした、というのも――
背負っている理由については言うまでもないが、
「試練の祠を利用すると時空を超えることができるんだね……」
ということである、つまり、クレア本人が生命体として現れたということである。但し、
「言っても、私は実体ではなくて精神体なんですけどねー」
ん? どういうこと?
「私はあくまで当時のクレアの意思を持っただけの存在なんですよ。
つまり、クレア自身ではあるのですが当時の肉体は既に滅びていて、
精神体という存在でいるだけなんですよ」
精神体というものである、という説明しかできないものなのか……レイは考えた。
でも、そういう話は聞いたことがある、この世界はそもそも精神世界なのである。
精神世界というのは精神体が住まう世界であり、クレアは当然レイやクラナなど、
この世界に住まう者であれば誰だってそれに該当するのだ。
しかし、本来であれば精神だけの存在というのは目に見えないもの、
それでは不便なので物理的な器……つまり精神の容れ物である肉体と、
その肉体が生活可能な世界の”実体”が存在することでこの世界は成り立っているのだそうだ。
つまり、精神世界上にアークデイルという実体を成す世界があり、
そこにはレイなどのように肉体を持つ存在がいる……という理解である。
だが、クレアもそうだがクラナをはじめとする聖獣はそもそも精神体なのである。
聖獣が精神体というのはそもそも聖獣というだけあって特別な存在なので何となく受け入れることはできたのだが、
クレアもそうなのか――というのがなんだか違和感を覚える光景に見える、
どう見ても自分と等身大の女性にしか見えないからだ。
いや、でも――そういえばクレアも聖獣を経験しているのだから別にどこもおかしいことではないのか、レイは考え直した。
で、その精神体がこうして肉体を持っているように見えるのはアークデイルという実体を成す世界に存在する以上は不可欠なことなんだそうだ。
実体を成す世界では本来精神だけの存在である精神体は目視できず、それゆえに存在しないものとなってしまう。
簡単に言えば幽霊なんかがそうで、その怨念が物理的な体を求めた結果に中途半端な形で目視できるようになったのが幽霊の正体らしい。
一方で、クラナとクレアの場合は違い、レイのように試練の祠で精神修行を重ねた存在である。
そのため、簡単に言えば精神がしっかりしているため、クラナまたはクレアとしての意志がしっかりしているのである。
それにより、当時の自分の肉体を精神自身がしっかりと記憶しているため、肉体が記憶を頼りに”再現”した存在として成立することができるのだそうだ。
……と、クラナをだしにしてしまったのだが、そもそも彼女はまだ40~50年しか生きていないため物理的な体が滅びているわけではなく、
純粋にこれまでの聖獣クロノーラの精神を受け継いだ、クロノーラとクラナの精神の複合体というのが正しい言い方だろう、
この点はあの色ボケクソウサギも同じである。
つまり、500年も生きているマグアスを例にするのが適切といったところか。
つか、あいつは多分幽霊だろ……レイは勝手にそう思い込んでいた。
「そ、そうなんですか!? 今のクロノーラも顔面をぶつけないんですか!?」
クレアと話をしていたレイ、そんな顔面ぶつけグセがあるのはクレアだけだよ……レイは悩んでいた。
新たな長となったレイだが、家は自分の家から変えることなく。
そもそも自身の家もそれなりに大きいオンティーニ家、長の家としての貫禄もそれなりにあった。
ということで、クレアを背負ったまま自宅に戻ったレイ、
クレアをソファに置いた、すると――
「ヘイヘイそこのカノジョ~♪」
色ボケクソウサギが調子よさそうに話しかけてきた。
「シャルアンに言いつけよっかな~♪」
レイは楽しそうに言うとウサギはビビっていた。
「じょ、冗談だよ! ってか、誰!?」
レイは得意げに答えた。
「クレア=オンティーニだよ♪」
またオンティーニ! ウサギはさらにビビっていた。
「もうクロノーラだらけっ! どーなってんだよっ!」
このクソウサギはクロノーラ相手にあんまりいい思い出がないらしい、特にクラナ。
どうせだからもっとしシバかれろ。
クラナとクレアは互いをじっと観察していた。
「10億年前に生まれた存在……」
「この人も顔ぶつけないんだ……」
いやだからそれがどういうことだよ。
「でも、改めて見ると顔はレイにそっくりだよね」
シャルアンはそう言った、どうやらそのようだ。
「ということは……レイさんそのうち顔をぶつけ病を発症するかもしれないんで気を付けてください!」
えぇ……なんでそうなるのよ……レイは悩んでいた。
「10億年前でも顔の変遷は異なるんだ?」
ディアはそう訊いた。
「同じ血族でも顔パターンは必ずしも完全一致するわけじゃあないからね。
遺伝するってことは父方母方がいるわけだから10億年の時を経ればいくつかの系統が混じって全然違うふうになるもんさ。
ただ……先祖返りっていう現象もあって、レイの場合は多分それになるんじゃないかな?」
クラナはそう言った。
「そうです! だからくれぐれも足元にはお気を付けください!」
クレアが言うとスルーされてレイは考えていた。
「うーん……ひょっとするとだけどさ――」
ということで、レイとクレアはクロノリアの麓で戦い合っていた。
だが、その結果は――
「マジかよ!? レイってすっげ! 古のクロノーラを降しちまったぞ!?」
そう、立ちすくんでいるクレアを相手に剣を向けていた……
「ま、参りました――」
クレアはあっさりと降参していた。それに対してレイは言った。
「やっぱり思い違いなのかな、私の能力っててっきりクレア譲りだと思ったんだけど――」
一方のクラナはそれを見て頭を抱えていた。
「散々顔をぶつける言っといて戦いではマジメかい……」
あ、言われてみれば――すっ転んで顔面激突しているような光景はなかった、あくまで一発芸ですか。
クラナは話を続けた。
「でも、クレアの得物は剣だね、この時代で騎士剣を見れるなんてちょっと驚きだよ」
そう、クラナの言う通り、クレアが携えている剣はかつてのアーケディスの王宮騎士団なら持っていてもおかしくなさそうなとても立派な剣だった、
大剣というほどではないが、なんとも素晴らしい出来栄えの代物だ。
「10億年前のアーカネル王国時代ってやつの代物かしら?
しかもよく見るとデザインしたのはうちらみたいね。」
レミシアは腕を組みつつ剣のデザインを見て考えていた。
「アーケディスにはシルグランディアが出入りしていた痕跡があるから案外そう言うことじゃないの?」
ディアはそう言った。するとクレアは答えた。
「はい……私は当時、アーカネル王国に招待されて重要な役割を担っていました、協力者という形ですね――」
なんと、クロノリアが動いたというのか……クラナはそう訊き返すとクレアは答えた。
「当時はクロノリアのほうで魔法の力を制限していました、今のアークデイルでは考えられないことですね」
クラナは考えていた、確かにクロノーラの記憶の中でもそのようなことはあったようだ。
そしてクロノリアは重い腰を上げて当時の問題に立ち向かうべく世の英雄たちと共に活動することになったという。
そして、その先発者として白羽の矢が立ったのがクレアなのだそうだ。