クロノーラ・クロニクル

第4章 古の時代との邂逅譚

第59節 運命に導かれし者

 以前の旅から戻ってきてあれから4年が経った。 レイ28歳、だが見た目年齢は22歳と精霊族の補正が生きているにしてもわずかに若い見た目の彼女。
 だが、その貫禄は流石に28年も生きているだけあって確かなものだった。 例によって彼女の家で――
「ほっ……本当にレイなの!?」
 ウサギは完全に狼狽えていた。
「だからそうだって言ってるでしょ、このボロ雑巾!」
 レイはボロ雑巾を罵っていた。
「ったく、レイはしっかりしてるのにあんたはいつまで経ってもボロ雑巾のままねぇ。 本当に聖獣ディヴァイアスになる気があるのかしら?」
 レミシアは呆れていた――まだ聖獣として認められていない……ボロ雑巾は涙を浮かべていた。

「ところでレイ、燐光について何か見つけた?」
 クラナはそう訊くとレイは頷いた。
「そうそう! レミシア姉様! 何か聞いていませんか!?」
 何か聞いていませんかって……クラナは呆れていた。
「だから! それはあんたが見つける役割だろ! ったく! あんたはもう!」
 しかし、レミシアは――
「ええ、ばっちりと伝わっているわよ。 それでそのブツもこの通り、用意しといたわよ。」
 と、そう言いながら何かを差し出した、それは――
「これは私の先祖代々伝わる”燐光の軌跡”という代物らしいのよ。 本当かどうかはわからないけど、”エルフレイア=フラノエル”という大昔の精霊様の力を授かった代物なんだそうよ。」
 それはただの何の変哲もないエンチャント鉱石だが、確かに何かしらのパワーが含まれている気がする……一同恐れおののいていた。
「フラノエル……ヴァナスティアにも祀られている精霊か……」
 マグアスは考えていた。
「そんなものがあったのか!? どうして今になって!?」
 ディアはそう訊くとレミシアは首を振った。
「んなこと言われたって仕方ないでしょ、最近になって思い出したんだから。 それに、これの不思議なところはどういうわけかレイ=オンティーニって女の子に渡すようにって指定があるのよ。」
 まさか――クラナは驚いていた。
「あんたまさか――試練の祠で”運命の標”と邂逅したっていうの!?」
 そのとーり! レイは得意げだった。
「追いかけたら伝説のプリズム・ロード様に会うことになって話をつけてきたんだよ!」
 マジか……クラナは圧倒されていた。
「はぁ!? 伝説のプリズム・ロード様が私みたいな女だったって!?  んなワケないでしょ!? こんな女が私みたいな子孫……そもそも男なんかできるわけないでしょ!?」
 レミシアは話を聞いて驚いていた、これはマジでそっくりだ――生き写しと言ってもいい。

 試練の祠で”運命の標”と邂逅することができる者は相応の実力者なんだそうだ。 それについてはナイザーとクラナが一緒に話をしていてずっと悩んでいた。 ちなみにクロノリアの長であるナイザーにもクラナがクロノーラであることは伝えられていないが、 クラナはクロノリア屈指の実力者であり、レイの旅仲間でもあるなどはクロノーラから仰せつかっていた。 なお、オンティーニ家の者であることも内緒である。
「そ、そうか……”運命の標”を見たというのか……。 これまでずっとただの跳ねっ返りと思っていたのだが、これは本格的にレイに長の座を明け渡すことになりそうだな――」
 ナイザーは息をのんでいた。
「私も見たことはないね。あんたは?」
「儂も見たことはないな――」
 そこへスクライティスが入ってきた。
「お邪魔するよ。 そもそも今のクロノリアには”運命に導かれし者”はいないだろうね、レイ以外にはね――」
 ナイザーは悩んでいた。
「昔はいたんだがな――」
 スクライティスは首を振った。
「運命に導かれるのはごく少数さ。 だからたとえ見えたとて、レイのように真に”運命の標”が向かう先に辿り着けた者はまずいない。 そう……彼女はまさに選ばれし者だったんだ、かつてのオンティーニ家の者と同様にね。 歴史は繰り返すんだよ」
 まさか――クラナは驚いていた。
「まさか……先代のクロノーラだというのかい!?」
 なんでクロノーラ? ナイザーは悩んでいると、スクライティスはため息をつきながら――
「<ハザード・クロック>……迂闊だったね、外部者がいるところで話す内容じゃあなかったんじゃないかな?」
 ナイザーに流れている時間がピタリと止まってしまった……。そう言われてクラナは悩んでいた。
「あんたが変なこと言うからだろ――」
 スクライティスは笑っていた。
「それは悪かったね。 ちなみに先代のクロノーラのことではなくて、大昔のクロノーラのことだね。 だが、そんな彼女もレイほど”運命の標”に導かれたわけでなく、 何故か運命に途中で置いてけぼりを喰らってしまった――少なくともそこまでは行きついているのは確からしいね」
 そうなのか――クラナは考えるとスクライティスは考えた。
「おおっ、なるほどなるほど、10億年前の話とはずいぶんと縁のある出来事ばかりだけど、 何を隠そうそのクロノーラも10億年前に生まれたクロノーラだったようだ。 名前はクレア=オンティーニ……」
 と、その名前を口にした途端、スクライティスは急に立ち上がった。
「まさか! クラナ、今回の件はどうやら鍵は彼女が握っているようだ!」
 なんだって!? クラナは訊いた。
「封じられた邪悪は単にクロノーラが封じただけじゃない、 彼女が”運命の標”によって途中まで導かれた先にみつけた方法によって封じられていたんだ!」
 と、2人は話をしながらその場を去ると、ナイザーは気が付いた。
「クロノーラ様がどうかしt……って、なんだ!? クラナ!? スクライティス!? どこに行った!?」
 彼は完全に置いてけぼりを喰らっていた。 運命どころか2人にも見放されるなんて……ってそういうことじゃねえか。