イセリア=シェール、知らないわけがなかった。
だって彼女はプリズム族の間では伝説になっている”プリズム・ロード”と呼ばれるお人だ。
まさかつい最近聞いたその伝説の御仁とこうして相まみえることになるなんて、本当にやっべーぞ試練の祠……。
「レイ=オンティーニっていうのね! 可愛い名前ね!」
いやぁ、そんなぁ……イセリアにそう言われてレイは照れていた。
しかし、それにしてもあのレミシアによく似ている人だな……レイは考えていた、
もしかしたらレミシアの直系のご先祖様が彼女であり、
つまりはレミシアの直系のご先祖様が伝説のプリズム・ロードだってことに――
しかし、彼女の人となりは伝説の人であり偉大なる大英雄様だという感じは全くなく、
むしろ自分にとっては等身大の存在にしか思えなかった。
それこそはっきり言ってしまうと頼りになる感じのお姉さんというものでしかなく、
仰々しい感じが全くしなかった――時の英雄というものはこんな感じなのか……?
いや、そうか、時の英雄か……ヴァナスティアの教えもそんな風なものだったハズだ、レイは思い出していた。
つまり、時の英雄といってもあくまで普通の一個人、
だからわざわざ仰々しく主張している必要はないんだなとレイは考えた。
でも――プリズム族には彼女の名が伝えられているな……レイはそう考えて思い切って訊いた。
「あなたよく知っているわね、そう、私はプリズム族、この見た目でよく私がそうだって判別できる――
って、絶対に只者じゃないでしょ。まさか、これはクエストか何か? まあいいわ、それなら話を聞いてあげようじゃないのよ。
訊いても驚かないからレイの目的を教えてよ。」
えっ……なんだか何もかも見透かされているような気がしたレイ、
彼女にあってからというもののずっと驚かされっぱなしである……なるほど、これが伝説のイセリア=シェール……
彼女に言われた通り、本当に包み隠さずに話したレイ、
自分の目的やレミシアのことなど全部話してしまった。
「えっ……そんな奇跡が起きているって言うの!?」
それには流石に彼女は驚いていた、そりゃあそうだ、言ってしまえば未来人との邂逅である、それは流石に驚いて――
「マジか……こんな私に男ができて、しかもそれが90億年も続いていくなんて――」
と、彼女は悩んで……いーや驚くところ絶対違ーう! レイは突っ込んだ。
「未来から来たのは信じるよ、それぐらいのことは別にあってもおかしくはないと思うし、
そもそも論としてあなたの服装だけど、この世界じゃああんまり見ない格好ね、ローブの中はオシャレだし。
だけど――そもそも私の身に起きていること自体が不思議なことだらけだから、
未来から来たってだけじゃああんまり驚かないかも……期待を裏切ってごめんね。」
あ、そうなんだ……レイは茫然としていた。
だが、自分に男ができることが奇跡ということについてはレミシアにも通づるものがあった、
彼女もだいたい同じことを言っている、これは間違いなくご先祖様だ。
「それで……運命を追っているということよね?」
レイは頷いた。
「なるほどなるほど、運命か――。
それにしても、運命を追ってこんな時代までくるなんて……
どうせだったらこの世界のもっと文明にあふれた時代に出てもっとオシャレを楽しんでもよかったんじゃない?」
言われてみればそれもそうだ。
それにしても、なんともオシャレにこだわりがあるのか、先ほどからなんともそのワードが気になったレイ。
「そりゃあこれでも一応女子だからね、当然っちゃ当然よ。」
彼女は得意げに答えた、こんなところもレミシアにそっくりだった。
その夜は彼女に甘えて寝ることにしたレイ、
彼女はレイを抱えながら得意げに「もう、しょうがない子ねぇ。」などと言いながらレイの頭をなでてくれていた。
そのあたりのセリフはラーシュリナからも聞いたことがある……プリズム女、たまんねぇ……レイは幸せに包まれて寝ていた。
そして朝になり、2人は朝食を安定感抜群と言わんばかりに山のように平らげると――
「ん……? うわっ!?」
レイの身体が急に透過していた……
「あら? 時間切れってこと?」
イセリアは相変わらずの反応だった。
「そ、そんなぁ! まだ運命のヒントを得られていないのに!」
レイは悩んでいるが、イセリアは考えていた。
「……いや、多分私とこうして出会うことがまさに文字通りの”運命の邂逅”だったんじゃあないかな?
それならレイの意志は私が継いであげるから安心してよ。
じゃあねレイ! また会えることがあったらおいしいものをたくさん食べましょうね!」
”運命の邂逅”……なるほど。レイはその場から消滅しつつ、彼女に元気よく手を振っていた。