レイは試練の祠にいた。
「あった! あれだ!」
レイは何かを見つけたようだ、それは何処からともなく”運命の標”と呼ばれるものだと聞いた。
しかし――
「あっ! 逃げるんじゃない! 待てこのっ!」
”運命の標”は彼女が追うと遠ざかっていく――それをずっと繰り返していた。
そして、気が付けばレイは見知らぬ土地へとやってきていた。
あたりは荒廃した土地――外に出たようにも思えるがあくまで試練の祠の内部、
この世界の精神の世界を投影している場所という都合、その様相もあり得る光景である。
そもそも試練の祠が見せる光景は入っている人の深層心理であるため、
途中で出くわした妄言なども多々あったがそれも自分の一部なんだろうと思いつつも”運命の標”を追っていた。
”運命の標”も自分の深層心理の一部か……魂は巡るとはよく言うが、
精神の世界は広く、自分すらをも知りえない何者かの記憶が眠っているんだなぁと思うとなんとも感慨深いものがある……良く捉えればだが。
悪く捉えると、知らない他所の人の記憶があるとか気味が悪いというのが実際のところである。
っつっても、それは精神世界上に生きている者の宿命なので止む無しというところではあるが。
それに、自分すらをも知りえない何者かの記憶とか言われても普通はそんなこと気にして生きている者はまずいないのである。
「ここはどこだー!? 次はどこだー!?」
それはそうと、レイは”運命の標”を追っていた。
レイはそのうちヘトヘトになっていた。
「うあっ、疲れた……ったく、いい加減にしろよもう――」
するとそのうち宿屋が見えてきた、
それはアークデイルがかつて経験してきた世界の記憶、言ってしまえばこれは過去の世界のようなもの、
レイはとにかくその宿屋に入ると、早速――
「うわぁい! ごちそうだぁっ! いっただっきまーす♪」
……精神修行中でもそれをやるのね、食堂で安定のレイ=オンティーニが発動していた。
そして――
「ん? 雨?」
宿屋に無数の何かが打ち付ける音がしてきた、
窓から外を眺めると確かに雨降りだったようだ。
するとそこに何やら女性の姿が。
「ったくもう、ヤバイヤバイ。
いきなり雨が降ってくるだなんてマジsyレにならんしょコレ。」
地味に何言ってるんだろうというのはさておき(ちなみにtypoではない)、
女性はブツブツ言いながら髪と服をぬぐっていた……見た目は背の高い美人さん、
モデルさんか何かだろうかといった感じである。
その女性はレイの近くまでやって来た、
安定のレイ=オンティーニが発動中ゆえにテーブルの上の様子は推して知るべしだが、
その女性は――
「あら! なんだかとってもおいしそうね! 私も食べよっかな!」
逆に食いついていた、クラナをはじめ唖然とする人が多いのに、
この女性からは逆に共感が得られたことでレイはなんだか嬉しかった。
彼女が座っている席はレイの隣の席、しかしその席のテーブルの上もとんでもないことになっていた……
まさかのレイと同じ大量の大皿が占拠する形になっていた。
「うわぁい! ごちそうだぁっ! いっただっきまーす♪」
まさかの自分と同じリアクション、本当に食べるのソレ――レイは驚いt……いや、お前が言うな。
レイとしてはこういう女性はラーシュリナやシャルアンみたく遠慮するものなんだなと思っていたが、
この女性はその期待を裏切り、レイとしてはむしろ好感をいだいていた。
いや、むしろ自分の中ではこの量を平らげる女性は自分の他にももう1人いたことを思い出した、レミシアである。
いや、そういえばこの女性……どことなくレミシアに似ているような気が……
「あら? どうしたの?」
レイは彼女の顔に見入っていたが、それに気がついた彼女に訊き返されてしまった。
「へっ!? あっ、ううん! なんでもない! ごめんなさい!」
すると女性は気さくに話してきた。
「ああ……私みたいに大量に食べる女が珍しいのね、確かにそうかもね――
って、あなたもずいぶんな量を食べるようだけど。
私はね、その土地の文化をボリュームと共にいただくことにしているのよ。
せっかくいろんなものがあるんだからさ、きっちりと味わって食べないと失礼だからね。」
あっ、ソレ……レミシアも同じこと言ってたことをレイは思い出した、
もしかしてこの人はレミシアのご先祖様か何かだろうか。
けど――なんとも至極真っ当な言い分だな、レイは今度からそう言うことにしようと思った……いやいや、あのねぇ――
あの後2人は意気投合し、同じ部屋の宿を取って仲良く話をしていた。
「そうなんだ! あなたは修行の旅に出ているのね!」
「うん! そういうあなたは――」
「私も修行の旅みたいなもんね。
言ってしまうと、この世界を均すために旅をしているんだ。
そのためには毎日自分の力を高めていかないとね――」
世界を均す――つまりは魔物対峙ということだろうけど、
そういえば世界を均すと言えばヴァナスティアの教えのことを思い出したレイ、
ということはまさか、ここは世界創世時の記憶の中ってこと!?
「あ、そういえば名前をまだ聞いてなかったわね。
私の名前は――多分知っているかもしれないけど”イセリア=シェール”っていうのよ。」
これは……!