クラナは訊いた。
「概念が材料?」
レミシアは頷いた。
「かつて”破壊”の力によって消失してしまったフィールドは、
クロノリアの”雷光”を源に、”水鏡”の如く外からの干渉を跳ね返し、
数多の陽の光と”月の光”に照らされる”永遠”の時をも堪えうる力を以て”燐光”の導くままに、
”天に封ずる”かの如き都にて”復活”の時を待つ――ま、ざっとこんな感じでしょうね。
特徴的なのは”天”と”封ずる”の2要素をどこかで含めたいがためにわざと横文字にして無理やりひとまとめにしているところと、
長らく維持し続けるタイプの創造物なら陽の光か月の光のどっちかが大体フレーズとして入っていることと、
あとはもちろん”永遠”などのフレーズが使われること……
つまりこれは古典的な魔法系の創造物で、よくあるやつってことよ。」
これがアトローナシアの職人の力……よく知っていらっしゃるというわけか。
「つまり、概念さえ満たしてしまえば材料は別になんでもいいということでもあるわね。
例えば”月光の破片”だけど、月の光を集めたエンチャント鉱石とか、
後は”復活の欠片”ならリザレクト・ハーブあたりの気付け薬の類でもいいんじゃないかしら?」
マジかよ! もはや近場とかいう問題じゃないぞ! これはむしろ身近だ!
「ちなみに、概念を満たしつつ、
さらに概念を付け足したうえで物理的な材料もきちんとしたものをしっかりとそろえればより強力なものができることもわかっているわね、
ま、やりたいかどうかだけどさ。」
ほう……それはそれでなんだか面白そうだな――レイは考えた、レミシアお姉様は何をするんだろうか、ワクワクしていた。
「あんたねぇ――改めて言うことになるけどさ、フィールドの修理はあんたが果たすべき使命なんだよ?
そんな他人任せでいいと思っているのかい?
そもそもフィールド修理……いや、フィールドを作ること自体があんたの修行の一つなんだ、
それを全うしてこそクロノリアを引っ張る者として相応しい存在になるんだ、そのことをきちんとよーくお考えよ」
クラナはレイを見て呆れていた。するとレミシアは……
「えっと、確かに、それはその通りだと思うけどね。
でも――それってどうなのかしらね。」
えっ……そう言われてクラナは固まった。さらにレミシアは続けた。
「クラナとレイがなんか前々からフィールド修理についての温度感が妙に違う理由がよくわかった、
つまりこういうこと?」
クラナの言い分にはこのような背景があった。
”グレート・フィールド”はクロノリアの民によって築き上げられてきた。
しかし、それは最初は不完全なもので、使い手の力量によってどれほどのフィールドができるのか、
都はおろか、永遠の時をも堪え切れる代物なのか……
もともとはそういった要件をまず満たさないようなちっぽけなものが”グレート・フィールド”の成り立ちである、
試行錯誤を重ね、改良に改良を重ねていくことで真の”グレート・フィールド”が出来上がっていったのである。
「私はそんなことはしたくない!
確かに、昔の人はフィールドがなかったから”グレート・プチ・フィールド”から作ったのかもしんないけど、
今はもう先人の知恵とか、そもそも作り方をきちんと知っている人とかもいるんだもん!
このフィールド作成書が残っているっていうのもそう言うことだと思ってる!
だから――これに倣って昔のやり方でやっていくのは私は好きじゃない!」
レイはそう訴えた、改良に改良を重ねていった結果にとても強力な”グレート・フィールド”ができてしまったからである。
最初から完全なものがあるために、試行錯誤を重ねたり改良に改良を重ねたりする必要もなくなり、
それによって習慣すらもなくなってしまった。
しかもそのフィールドは長らく存続し続ける――
昨今のクロノリアは最初から”グレート・フィールド”ありきがデフォルトとなってしまっているのである。
だがしかし、此度は”グレート・フィールド”がなくなったことで、”プチ・フィールド”作成で賄うことになったのである。
いや、むしろその”プチ・フィールド”作成は元々”グレート・フィールド”の作成行程じゃないのか!?
かつて存在していたハズの”グレート・フィールド”というものが再生するまでの一時凌ぎとしてしか見られていない。
「”グレート・フィールド”を作るために”グレート・プチ・フィールド”を試行錯誤作っている……
悪いけど、俺の目から見てもそれはナンセンスだな――」
ディアは申し訳なさそうに言うとクラナは悩みながら言った。
「ナンセンスって言われてもね――それがクロノリアの伝統なんだよ。
だけど――そんな伝統があることをみんな忘れているんだ。
だから今回の旅を通じてクロノリアの民たちや、
そしてレイに”グレート・プチ・フィールド”から作ってもらおうと考えていたんだ――」
それについてレミシアは言った。
「確かに、それはそれで大事な要素かもしれないけどね。でもどうかしら?
それっていうのは別に”グレート・フィールド”を題材にしなければならないようなことではないと思うわね。
なんていうか、当時は”グレート・フィールド”はあくまでshould……
つまり無くても仕方がないけれどもできればあったほうが良いぐらいのものでしかなかったから努力型で作っていったのだと思うのよ。
でも、今はどうかしら? ”グレート・フィールド”ありきの状態ということはつまりmust……
どうしても必要だから作成が急がれている状態ってことよ。
即ち、早く作らなければならないということでもある、
だから伝統にのっとって努力型でチビチビ作っていたのではいつ完成するかわからない、
そうなると、何のための町を守るための防御壁なのかそもそもその存在意義から問われることになりかねない。
で、厳しい言い方をするけどそれでナンセンスって言われても仕方がないんじゃないかしら?」
そう言われてクラナはぐうの音も出なかった、彼女の言い分は圧倒的に正しかった――
「クラナ……私は別にやらないなんか言ってないよ?
ただ――私一人で作るなんてちょっと荷が重すぎるかなって――。
だって、”グレート・フィールド”だよ!? 世界崩壊でも都を守ったようなものだよ!?
それを私の手で作れなんて――」
と、レイは言った、そう――今の時代の生活様式には伝統的な作り方が合わないということである。
「そうよ、先人は先人、今は今、どうせ作るのなら昔ながらの方法で作った旧式の壊れやすいものでなく、
世界崩壊をも退けるほどの、名前の通りの”グレート・フィールド”――
いえ、”キング・グレート・フィールド”を作りましょう。
ちなみに、私らは作れって言われたら作るのが仕事だから頼まれる分には全然構わないわよ。
そうでないと職人としての力を生かすきっかけがないからね。」
レミシアが言うとレイは嬉しそうにしていた。
「やった! お姉様の力を頼れるんだね! 嬉しい!」
「でも、強度を強くするってことはそれだけ大変ってことだからね。」
「それでもいいもん! どうせ大変なら新しいものを作るために力を注ぎたいもん!」
新しいものを作るために……まさにその通りだった、クラナは反省していた。
そう、これがまさしく時代の変化というものだ、彼女はすっかりと忘れていた。
「クロノーラの記憶をあてにしてばかりの私が悪かったよ、うまく記憶を引っ張り出せないクセにね。
確かに、そういう時代じゃないからね、レイの言う通りだ。
それに、町を守るものなんだからより強固なもののほうがいいのは当たり前のことだからね、
だからレイ、今回のフィールドの方針はあんたが全部決めなさいよ」
現クロノーラが次クロノーラ候補の意見に対して折れたのだった。