クロノーラ・クロニクル

第3章 旅は道連れ世は情け、人はデコボコ道中記

第49節 プリズム族らしからぬプリズム女

 レミシア=シルグランディア…… 見るからにラーシュリナと同じような服装ということもあって落ち着いたような美人様―― と言いたいところだったが――
「おい、そこの魔族! 何見てんのよ!?」
 と、ウェイドに対して喧嘩腰で訊いてきた。
「え!? いえ、別に私はそんな――」
「はぁ!? 何よ!? なんかもんくあるわけ!? 言いたいことあんならさっさと言いなさいよ! ほら!」
 怖い……ウェイドは全力で謝っていた、ムッツリゆえにチラチラと見ていた彼だが、 彼女はどうやら喧嘩を売っているものと捉えたらしい――えぇ……
 とまあこんなふうに、見た目にそぐわない性格の持ち主ということがすぐにわかった。
「でもアンタ可愛いわね! 周り聖獣だらけで大変でしょ?」
 レイはそう聞かれると、照れた様子で答えた。
「え!? え……うん、まあね! 特にこいつ! 聖獣ラグナスなんだけどとにかく面倒臭いんだよ!」
 なっ!? マグアスは狼狽えていた。
「聖獣ラグナス? ああ、でしょうね。 だって、500年も生きているオッサンだもん、そりゃあ当然と言えば当然よ。」
 またはっきりという! なんて女だよ! しかし、レイとクラナのツボには見事にはまっていた。
「って! おい! なんでお前までここにいるんだよ! どう考えてもおかしいだろ!?」
 と、彼女はそいつを指さして言った……スクライティスである。
「えっ……!? なっ、何のことかなぁ……? だいたい、初対面だろう?」
 彼女はため息をついていた。
「初対面だけど、何故か私のDNAがこう言っているのよ、目の前にいる身長156cmの男には気をつけろって。 あんたあれでしょ、ティルフレイジアってやつでしょ?」
 するとスクライティスは得意げに答えた。
「あははっ! 私もとうとう高名になったもんだ! よもやシルグランディア様とあろう者にまで名が知れ渡るとはね!」
 が――レミシアはスクライティスをヘッドロックした!
「そうだよ! 知れ渡ってんだよテメェの世界の面汚しっぷりがよ!  それが分かってんならさっさと死ね! こんの獄潰しがっ!」
 スクライティスは既に泡を吹いていた。そしてそのまま彼の遺体は放置された。
「ったく、ティルフレイジアだなんてアタマに来るわね――」
 その気持ちはわかります! レイとクラナは大いに納得していた、どうやら彼女とはウマが合いそうだ。 だがしかし、男性陣は敬遠していた――そういえばどこかで見たような。そもそもシルグランディアって。しかもこのやり取りな。

 話は続いた。
「そういえばもう一人聖獣っていなかったっけ?」
 レミシアはそう訊いた。
「レミシアさんが蹴り飛ばしたのがそれだけど――」
 レイはそう言うとレミシアは頭を抱えて言った。
「ああ、そうだったわ、訂正:聖獣は2名だったってことね。 ボロ雑巾はどうでもいいわ。」
 ぼ、ボロ雑巾――聖獣ディヴァイアスも形無しだな――それもそのハズ、
「アトローナシアは実力社会、技術の力を持つ者こそが上に立つことが許される世界なのよ。」
 いや、それだと――クラナは訊いた。
「でも、技術力だと聖獣が上なんじゃないの?  確か、アトローナシアの技術者の頂点に立つ者が聖獣ディヴァイアスとなる資格を得るって――」
 レミシアは頷いた。
「それは間違っちゃいないけどね。 シルグランディアはもともとアトローナシアを興した血筋だったけど、その後エターニスに入ったって言われているわね。 で、その後に再びアトローナシアに戻った――戻ったのは10億年前と言われているわね。」
 やたらと10億年前に縁のある冒険だな――レイは改めてそう思った。
「だから――シルグランディアが興したうえでの他所のルールだし、 それだったら別にシルグランディアまで乗っからなくたっていいかなって――。 中にはそのルールに従うご先祖様もいたようだけど、私は興味がないから私の次にウサギの権利を譲ったのよ―― あれはウサギというよりボロ雑巾だったけど。」
 ってことはやっぱりこの人がアトローナシアの頂点の人なのか! でも、プリズム族って――
「私は里じゃなくてアトローナシアで生まれたプリズム族なのよ。 言ったように私の血筋はエターニスに入り、その後にアトローナシアに戻った――だから実は里の掟には一切縛られていないのよね。 でも――お母様が、あんたの血のルーツはこの里にあるんだから忘れないでって言うもんだから、こうしてちょくちょく遊びに来てんのよね。」
 つまり、特殊なお人だということらしい。すると彼女は――
「よし! これはあんたにあげるわね!」
 レミシアはあのスカーフをレイに巻いてあげた……
「えっ、このスカーフ……なんかすごい……」
 レミシアは答えた。
「そうよ、それは私の特別製。 もともとプリズム族の誘惑魔法のパワーを増幅してこの里の空間みたいなものを作り出すために作ったものなんだけど、 みんなオイタが過ぎるから没収ね。 でも、なんかレイに使ってほしいような気がしたからあげることにしたのよ。 名目上は誘惑魔法増幅ツールなんだけど、単に魔力を強化するための代物なだけだから、レイの旅に役立つと嬉しいわね!」
 マジか! なるほど、それでシャルアンの誘惑魔法は――多くの男を取り込んでいたのか、クラナは納得した。 確かに、里の外の世界にでると誘惑魔法の力も空間が広がる分だけ分散してしまうのだが、 このスカーフの力のせいでそれを可能とするのか。 以前、シャルアンが取り返したかったのもそういった理由……悪用されるとそれはそれでまた大変だし。
「そっか、2人は現クロノーラと未来のクロノーラってわけなのね! ……クロノーラって美人がやるってしきたりでもあるの?」
 それは――2人は照れていた。