プリズム族では聖獣となる快挙を成し遂げた存在はこれまで2名いたらしい。
無論、聖獣なので聖獣としての力を継承することで聖獣となる者はいたとしても、
自らの力で新たな聖獣となる者となると、それはプリズム族でなくても特別なものである。
つまり、プリズム族ではそれが2名いるということで、
彼女らの中ではその2名のことを”我らが聖女様”とも称される存在なのだそうだ。
単に”聖女”だと”ヴァナスティアの聖女”と呼ばれる者と混同してしまうため、
”我らが”の接頭辞をつけてそう呼んでいるのだそうだ。
もちろん伝統を重んじるプリズム族ゆえにその記録は残っており、
1人は10億年前から存在していた”レフィシア=フォーティア”で、
ヴァナスティアの聖獣ヴァリエスとなった人物らしい。
ただ、今のアークデイルには聖獣ヴァリエスなるものはおらず、この10億年の間に没したらしい。
それについてはヴァナスティアにも記録があるようで、
今のヴァナスティアの聖獣といえば”デュライア”と呼ばれる美しい鳥の聖獣がその座を担っているのである。
そして、もう一人は先ほども名前が出たセレイナ=レイティアで、彼女は聖獣レジアとなったのである。
それこそ彼女の存在と言えばイーグル・ガンの妻であり、いつもいつも彼を思い慕っている想い人の象徴としてアークデイルでは有名だ。
特に女性にしてみれば、彼女の聖獣の姿である七色蝶”ミラージュ・フライヤ”が時折落とすとされる燐光の粉は恋の成就アイテムとして重宝されているらしい。
そして……プリズム族の里と言えば、シャルアンも言っていたようにメシアの生まれた地という側面がある。
もちろん彼女もまたプリズム族であり、伝説の”プリズム・ロード”と言わしめた”イセリア=シェール”の名がこの時代の創世記から伝えられている。
そう……ゆえに、プリズム族の伝説と言えば、この3人のことを示すのである。
すると――クラナたちが話し合っていると、なんだか外が少々騒がしいことになっていた。
そして――
「ちょっと! 邪魔するわよ! 一体どういうことなのよ!?」
なっ、なんなんだ!? クラナたちは狼狽えていた。
「どうもこうもないでしょ!? セレイナは身重なのよ!?
それなのにどういう神経してんのかしら!?」
これまたプリズム族の女性が――どういうわけか殴りこんできた。
すると、それに反応したのが……
「ふぁ!? まさか……お姉様!?」
あのウサギだった、シャルアンと一緒に出てきた。
「あっ! レミシアお姉様!」
レミシアお姉様って……この人が噂のシルグランディア様!?
あまりの騒々しさにレイもすぐに反応し、飛び起きてきた。
「あ! シャルアン! あんたちょっと!」
レミシアはシャルアンの目の前にやってきた。
「あんた! あのスカーフを悪用したでしょ!」
えっ、それは――シャルアンはぐうの音も出なかった。
「やっぱり……ラーシュリナが黙っているところをみると、どうやら長にも内緒という感じね。」
そっ、それは――ラーシュリナは言葉を詰まらせていた。
「ったく、それはいいけど、あのスカーフは没収だからね!
さあ、出しなさい! ラーシュリナが持っているのね! ほら、出して!」
そう言われてラーシュリナはそっと出した、つまりスカーフは彼女が作ったもの……。
「まったく、仕方がない子たちよね。ったく……で? 次はあんたらね――」
えっ、いや、その――クラナとマグアスは困惑していた。
そこへディアが前に出て……
「お姉様! いや、この人たちは聖獣で――」
すると、レミシアはディアの耳を強引に引っ張ると、
ディアをあろうことかそのまま自分の足の下に置き、そのまま片足で踏みつけながら言った。
「聖獣様だか何様だか知らないけど、セレイナは命を宿してんの!
言ってる意味わかる!? もう一回言うわよ!? セレイナは2人分の命抱えてんの!
そんな身体の彼女をわざわざ歩かせるだなんて一体どういう神経しているのって聞いてんの!」
いや、でも、向こうから来たんだし……クラナはそう言おうとしたのだが、
彼女のあまりに怒りっぷりに反論するような余地はなかった。するとそこへセレイナが現れ――
「れ、レミシアさん! 私は大丈夫、大丈夫ですから!
それに歩くのも胎教にはいいんですよ!
しかも何人も生んでいるんで大丈夫、慣れていますから!」
そう……? レミシアは心配そうに聞いた。
「はい! 大丈夫ですから! 安心してください!」
セレイナはにっこりとしていた。
「そ、そう――まあ……セレイナがそうまで言うのなら、そう言うことにしておくわね。」
そして、セレイナはおつきの者2人の連れられて再び戻って行った。
話を改めて。
「ふう、やれやれ、どうやら私の早とちり……お騒がせしちゃったわね。」
レミシアは態度を改めて話をしようとした、
確かにこの人も結構な美人だ――プリズム族ってまさにザ・美人族だな――
彼女らはこの美貌で誘惑魔法を繰り出すのか……レイは納得した――が、しかし!
「あ!? 何よこのボロ雑巾! お客が来てんのにんなとこにボロ雑巾放り投げとくんじゃないわよっ!」
と言いつつ、足元にいるディアを思いっきり天高く蹴り飛ばした!
「ぎにゃぁぁぁぁ!」
さようならディア……キミのことは忘れるまで忘れない……
「ったく、あんなボロ雑巾のことは忘れて、とりあえずこれはどういう集まりなのか聞いておこうかしら?」
ウサギに対する扱い酷っ! なるほど……これは確かにボコボコにされているというのが正解か――クラナは狼狽えていた。
ってか、ビジュアルこそ最高だが、性格がすげー跳ね返りだな……レイは唖然としていた。