世界が滅びを迎えるときに燃え上がる灯……それというのはもしかして――
「200年前? いいや、この灯が燃え上がるのは世界が塵一つ残ろうとしなくなるほどの大破壊が起こる場合のみだ。
簡単に言えば”エターニスの理論”に抵触する場合――と言えばいいだろう。
その際にこの灯がもたらすのは世界のさらなる大破壊――二度とこの世界が原形をとどめないようにする役割があるのだそうだ」
マグアスはレイの疑問にそう説明した、
エターニスの理論……”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、
それでも世界が残っているのであれば再生は易しい”というやつか。
つまり、世界が何もなくなってしまう場合の兆しとして灯が発動するということだ……文字通り、
世界が塵一つ残ろうとしなくなるという現象そのものである。
だが――このアークデイルの地は御覧の通り、200年前に破滅が起きても”世界崩壊後”の姿として原形をとどめているのだ、
これは世界のサイクルとしてみれば、別になにも特別なことではないらしい――世界もまた循環し、生きていることの表れでもあるのだから。
そして――この灯の力を破壊ではなくフィールドの再生に使うことになるとはなんと皮肉なことなんだろうか。
「何か見える……」
レイはその石をじっと見ていた。
「その中に空間が開かれているようだ、内部は完全に封鎖されているようだが。
まさにこの世界の闇と言っていいものだろう、そのようなものが展開されているようだ。
で、そのエンチャント鉱石にはその当時の記憶も一緒に封じてある――
もしかしたらフィールド修理で要としているのは破壊の灯本体ではなく、その記憶のほうかもしれぬな――」
マグアスは続けた、その記憶には、当時の邪悪に立ち向かった英雄たちがいるのだ、と。
つまり、彼らの想いということか――
とにかく、レイたちはノース・エンドまで戻ってきた。
シャルアンが町に入ることに関してはこの際特に影響はなしと考えていいだろう。
そもそも彼女、誘惑魔法でなんやかんやしていたため、その影響下にある間は記憶などないも同然だろう。
それに、ノース・エンドではそんな話がないのでそもそも関係がないのだが。
その夜――
「どうしたのですか、レイさん?」
例によってレイはラーシュリナと一緒に寝ていた。
「ラーシュリナとシャルアンってさ、やっぱり里ではモテモテだったの?」
「それは――考えたこともないですね。
むしろ、里を出てから始めて私は人気があるんだなってことに気が付かされました。
だって、今こうして、レイさんと一緒に寝ているじゃないですか、
私は、レイさんに好かれちゃったんだなって思っていますね――」
とにかくこの美女の香りはたまらなかった、自分が男なら速攻で落ちているのはほぼ確実だろう、
しかもラーシュリナはそのすべてが……見た目も性格も立ち振る舞いも、
レイはとにかく大好きだった、こんな女性になってみたい――レイはそう思っていた。
いや、別にラーシュリナのようになれなくてもいいけど――
でも、彼女とは姉妹みたいにこうやって一緒にいられるのなら――
レイは最初に会った時から今でもずっとそう思っているのだ。
するとラーシュリナは――
「レイさんなら絶対に素敵な女性になれますよ!
だからレイさんはこのまま美女街道を突っ走ってください!
走り続ければ続けるほど、レイさんの魅力はもっと磨かれていきますから!」
うーん、ラーシュリナにそう言われるとなあ――レイはその気になっていた。
次の日、ノース・エンドを発つと、いよいよ雪景色が見えてきた。
そう、北東本面へとやってきたのである、だから既にレイたちはコートを着込むなど冬の備えをして発ったのである、
馬車馬もこの地方固有種、アリアと呼ばれる小ぶりなシカと牛を足して2で割ったような動物である。
「あれ、クロノーラの記憶だと、もう少し進まないと雪が見えないはずだけど――」
クラナは悩んでいた。
ちなみに、高地にあるクロノリアでは雪が降るのも珍しくはないため、レイにとってみればそこまで斬新な光景ではなかった。
「世界崩壊の影響で日の光が差す時間が短くなってな、その影響でこの世界全体の気温は明らかに下がっている。
無論、ここも例外ではなく、寒冷地域が広がった影響で白い世界を拝むのが少々早くなっているのだ。
季節によってはノース・エンドを超えて白い大地が伸びていることもある」
マグアスの説明にクラナは納得した。
雪原につくと風が強くなっており、一行は先を進むのも困難となっていた。
しかも、クロノリアにも降るような雪の質感とは全く異なっており、レイも悪戦苦闘していた。
「これ……ちょっとヤバイな――」
ディアも御者をやっている場合などではなく、馬車馬を引いていた。
「ねえシャルアン、アリアが辛そうだよ、頭なでてあげて――」
ディアは懇願するように言うが、クラナが先にくぎを刺した。
「あんたねえ……そうやって彼女のスカートの中を覗くつもりだろ!?」
ディアは全力で首を振った。
「ち、違うよ! こんな状況で流石にそんな余裕ないよ! ウェイドじゃあるまいし!」
そう言われたウェイドは冷や汗をかいていた。
「なっ!? 決してそのようなことは!」
いや、どうやらそのようだ……レイは冷静に見ていた。
両者ともにチラチラとレイの短めのスカートを気にしたりはするが、
あからさまなガッツリスケベなディアは自らの体高が比較的小さいこともあってか、その点では割と紳士である。
だが――その一方でウェイドはムッツリスケベ故か、普段は紳士である反面スキあらばこっそりと覗こうとする――この野郎め。
だがシャルアン、いきなりどういうわけか、ディアの頭をなでていた――
「は……え!?」
ディアは驚いていた。
「それよりも、ディアさんのほうが寒そうです!
こんなに凍えてしまって――大丈夫ですか!?」
それは――ディアは悩んでいた。
「ディア! あんたいいから、馬車の中に入ってなさい!
シャルアン、ディアの様子を見ていてあげて!
ウェイド、あんたが馬を引いて! わかった!?」
レイの采配だった。
「もう少しでアルティニアの港につく! そこまでの辛抱だ!」
マグアスはいつの間にか聖獣ラグナスの姿になっていた、
まさに鳥のような姿の聖獣……翼を広げると3メートルほどはあるのではなかろうか、それほどの大きさの鳥だった。
「辛抱ったって――前が見えないよ!」
クラナはぼやいていた、それもそうだ、猛吹雪で横殴りの雪、視界が遮られていてそれどころではない。
するとその時――
「ん? 何か来るな――」
マグアスは何かに気が付き、そいつに立ちはだかろうとしていた、だが、ラーシュリナが――
「待ってください! 敵ではありません!」
彼女はそう言って、そいつのところへと駆け寄ると、少し背をしゃがめて言った。
「エルド! 来てくれたのね!」
あ、エルドって確か、4年前にシャルアンを連れ去ったシルヴァンス・ウルフっていう狼だったっけ――レイは何となく思い出していた。
「お願い! 力を貸して!
みなさん! 馬車に乗ってください! ラグナス様も力を貸していただけますか!?」
そう言われ、ラグナスは馬車のそのまま軽く持ち上げた。
そしてシルヴァンス・ウルフのエルドは馬車の後ろに回り込むと、後ろから押し出していた。
その様子をみたラーシュリナはアリアの上に乗ると、2頭のアリアの頭を優しくなでていた。