クロノーラ・クロニクル

第3章 旅は道連れ世は情け、人はデコボコ道中記

第43節 シン・超絶魔女

 一方で、ラーシュリナは別の存在の相手をしていた、それは――
「女――なかなかやるな、この俺の剣を受けて平然としていられるとは」
「それを言うのならあなたこそ。だけど、その程度で私にはかないません!」
 そうだそうだ! 女神ラーシュリナ様の美貌を前にして敵うやつなんているわけないだろ!  ……えっ、美貌は関係ない? いやそんなはずはない! byレイ

 だが――その戦いは長くは続かず、最後まで立っていたのはラーシュリナだった。
「ラーリュシナ!」
 レイたちはその場所へとやってくると、剣士らしき男は斃されていた。
「この人……行動が変でした。 やはり、あの時に感じ取った空気は間違いなく、 プリズム族の何者かが何かをしている――それは間違いないのでしょう」
 と、ラーシュリナは不安そうにしていた。彼女は話を続けた。
「スキを突いて誘惑魔法を放ってみたのです。 そしたら――彼は急にうずくまり、頭を抱えだしたのです。 そしてその後――剣を持って再び襲い掛かってきたのですが、 今度は手練れの剣士らしからぬスキの多さ、そして御覧の通りです――」
 レイは訊いた。
「この剣士ってまさか――」
 クラナは頷いた。
「4年前に剣士がどうのって訊いたね、ということはつまりは――」
 ウェイドはため息をついていた。
「この人ということですか、つまりは魔女の騎士――」
 マグアスは悩んでいた。
「魔女の騎士がいるということは、やはりこの奥には魔女がいるということか――」
 すると、ラーシュリナは剣士の傍らにしゃがみ込んだ。
「何を?」
 クラナは訊いた。
「すべては私の同族が招いた出来事――確実だということです。 この人はまだ生きていますので治してあげようと思います。 みなさんは先に進んでください、すぐに後を追いますから――」
 と、彼女はなんだか覚悟したかのように言った。 それなら――レイたちは先に山道方面へと進むことにした。
「ラーシュリナ……思い詰めてたなあ……」
 レイは心配そうだった。

 そして、さらに霧が深くなってくる森の中を進むと、さらに集団に出くわした。 その場所はなんだか見晴らしのいい場所で、山道のまさに入り口付近―― 横道にそれたところに集団がいたのである。
 そして、その集団の中にはひと際輝きを放つ存在が――そう、”七色の魔女”だ。
「またあなたたち!? どうし、あなたたちは私の邪魔をするの!?」
 七色の魔女は訴えかけてきた。 なんだか少々色っぽさを感じる……レイよろしく大人の女性ってことか?
「また邪魔をするというのなら容赦はしません! あなたたち、この人たちを全員片づけて!」
「ふぁい! 美しいシャルアン様っ!」
 と、何故か魔女の言ったことに対して真っ先に反応したのは、 何を隠そうあの色ボケクソウサギだった……こいつの場合、 誘惑にかけられたのか、それとも自主的にかかりに行ったのか――
 ってか、やっぱり覚えていたのかこの色ボケクソウサギ――レイは呆れていた、 そうそう、シャルアンって名前だった、そう言われてレイは思い出した。
「えっ、シャルアン!?」
 すると、後ろからラーシュリナがそう訊いた。 彼女はそのままゆっくりと七色の魔女を近づいていった――
「え、ラーシュリナ……どうしてここに――」
「どうしてって、私はこの人たちと一緒に……って、まさか、シャルアンが魔女だって言うの!? どういうことなの!?」
「ら、ラーシュリナ、私はただ――」
 えっ、お知り合いですか?  でも、ラーリュシナは里の番人、知り合いであってもおかしくはないのだが、一体どういう間柄なのだろうか。

 プリズム族の誘惑魔法は霧が濃い森の中で特に効力を発揮するらしいが、 それ以上に効き目が強いのには理由があった、それは―― この場はラーシュリナにすべてを預け、レイたちは彼女らを待つことにしたのだった。 その間、シャルアンが下僕として従えていた男たちは散り散りになってそれぞれの場所へ帰って行った。
「シャルアン――」
 ラーシュリナはそう呟きつつ、彼女からあのスカーフを受け取っていた。
「ラーシュリナ、掟のことはわかっているの!  でも、でも私、どうしてもいてもたってもいられなくて――」
「もちろん、あなたの考えていることはわかっています。 私だって、あなたのような魔女となって、世の中の安定に務めるべき――この世の中を見るなり、常に考えていることです。 もちろん、里長や他の番人だって……それはみんなで見て悩んでいることでもあります。 しかし、だからと言ってそれを本当にやってしまうのは違います、だからこそ、私たちは掟のうちに暮らしているのです。 そうではありませんか?」
「そ、それは――」
「昔から正義感と使命感だけは人一倍……それ自体は今も昔も変わりないようですけどね――」
「そ、それはラーシュリナのことでしょ?  あなたが、”ここはメシアの生まれた地だから、その名に恥じないように私だって精進するんだ”っていうから、 私も一緒に頑張るって決めたんじゃない?」
「それは……確かにそうですけど…… でも、今回のあなたのやり方については絶対に間違っていると思います。 現に、大昔に似たようなことをした同族、最期はどうなったか――お分かりですよね?」
「それは――! ……そう、そうよね、そうなるわよね――」
「ごめんなさい、あなたの件については長に報告しなくてはいけません。 プリズム族の魔女と聞いたからには見過ごすわけにはいかないと思っていたのに、まさかそれがあなただったなんて――」
「ご、ごめんなさい、ラーシュリナ……。 私は罰を受けます、その結果、私はどうなろうと構わない。 だけど! ……やり方は間違っていたと思うけど、私の志はラーシュリナと変わらないつもりでいるから!  それだけは――忘れないで……」
 どうやら難しい話のようだ。