翌朝、レイはそのまま優雅な朝を迎えることができた。
というか、女性部屋で一番最後に起きたのはレイである。
「おはようございます♪ ラーシュリナお姉様♪」
「おはようございます♪ レイお嬢様♪ って……どうしたんですか?」
「えへへへへ、なんとなく。それより、クラナはどうしたか知ってる?」
クラナの姿が見当たらず、既にベッドにはいなかった。
「マグアスさんたちと話をしてくるって言ってましたよ?」
聖獣同士で話か、そう思ってベランダに出たレイだが――
「おはよ、レイ――ふわあぁ……」
ディア……聖獣同士――こいつは何者だったっけ……レイは悩んでいた。
「ん? ああ、マグアスもスクライティスも一緒にどっか行ったよ、なんかクラナと一緒に話をしてくるって言ってた」
なるほど、ディアはハブられただけか。
「え? 聖獣同士の話?
ああ――そういうもんかもね、俺なんか全然複雑な話にはついていけねーから、
わかるやつだけで話し合えばいいんじゃないの?」
「アンタ、それでいいんかい」
「レイだって一緒だろ。
つっても、話に加われなければ仕方がないんでないの?
話ができなきゃいたって仕方がないしさ」
た、確かに――レイは悩んでいた、こいつの言う通りだ。
「そんなことよりさあ! レイ! 俺とデートしない?」
ウサギはまたキラッキラとさせながら彼女にそう訊ねた。
しかし、レイは当然ながら即答で――
「だが断る」
「じゃ、じゃあ、ラーシュリ――」
「浮気性のウサギ相手じゃあお姉様もイヤっていうに決まってんでしょ」
と、そんなやり取りのコンボでウサギはしょぼくれていた。いい気味だ。
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
レイはラーシュリナの問いにすぐさま答えた。
一同は合流し、朝食をとったのちに宿場町を早々に出た。
霧の濃い森の中の街道へと歩を進めたのである。
すると、突然集団が……6人ぐらいの者がレイたちの前に立ちはだかった。
「ん? よく見ると、さっきの町で、夜中に集まっていた連中がいるぞ?」
ディアがそう言った、そうなの?
「貴様ら……何者だ!」
そいつらはそう訊いてきた、何者って言われても――
「私らはクレンディス跡地に行きたいだけなんですけど――」
ウェイドはそう言った。すると――
「クレンディスならここから左へ行くと、傾斜が少々急だが坂を上っていけばいいだろう」
そう答えてきた、ウェイドの言ったことは試しというものである、本命は右のルートだからだ。
クレンディスへは信者というわけではないが、時折神頼み程度にやってくるものはいるのだ、
それならヴァナスティアへっていう考えになりそうなものだが、
時勢的には近場に頼る者のほうが多く、そこへの道を塞いでいるのか……という懸念がある、
だから念のために効いたのだが、まさか右の道に行こうとするとダメとかそういうことだったりするのか?
「何!? ここを通りたいだと!? それはならん! 断じてならん!」
やっぱりそう言うパターンか……何故連中は断固拒否するのか――レイは訊いた。
「答える云われなどない、どうしても通るというのであれば――貴様らをここで排除する!」
これは本気でやるしかなさそうだ。
これまで魔物や盗賊を相手にしてきたのだが、
それに比べたら久しぶりの本格的な戦いだった、
腕がなるじゃん――レイはやる気満々だった。
「食らえオラァ!」
ディアが強烈な突進から繰り出される槍の突き出しで正面の盾役のガードを貫いた!
「からのっ! これでもくらえ!」
さらにそのまま立て続けに槍で滅多刺しにしようとしていた。
「あのウサギ!」
敵の魔法使いの魔法! 盾役に防御魔法が! マズイ、せっかくのウサギのガード・ブレイクが――
「ウサギさん、そのままフルボッコしてやんなよー」
スクライティスは強化魔法でウサギの攻撃力を強化!
「うおおおおおおっ!」
ウサギの連打は続いた! そのまま押し切る気だ!
「飛べっ! <スタニング・ブロウ!>」
今度はレイが激しい爆発魔法!
いわゆるスタン系の魔法にはいくつかあるのだが、そのほとんどが威力が低いのばかりと悩みどころ。
それもそのはず、スタンはそもそも相手を傷つけるのではなく、ショックを与えるのがメインの魔法だからだ、
言ってしまえばスキを作るのが仕事ということである。
例えば”スタン・インパクト”という土属性タイプのスタン魔法があるが、
その効果は激震……瞬間的に地面を揺らして広い範囲の敵をビビらせたり転倒を狙ったりというのが基本的な効果であり、
そのとおり、攻撃用途としては一切向かない。
だが、この”スタニング・ブロウ”、火属性タイプのスタン魔法であり、スタン系魔法の中では珍しく――
「ぐはぁっ!」
戦士のような敵を相手に炸裂! スタニング・ブロウは攻撃魔法としての用途でも実用に耐えるのが最大の特徴なのだ。
「レイも魔法が上達したもんだねえ」
クラナは感心していた。
「甘いわ!」
もう一人、別のガード役の戦士が現れ、ブロウを食らった戦士の前に立ちはだかった!
「だったらこれでも食らえ!」
レイはさらにもう一撃スタニング・ブロウをぶちかましつつ、
そのまま一気に距離を詰めていった!
「ぐはっ! なんの!」
が、そいつはすぐに体勢を立て直した! が、しかし――
「アイシクル・スプラッシャー!」
そのまま吹雪を帯びた剣をそいつの盾越しにたたきつけた!
激しい吹雪の刃が無数に襲い掛かり、そいつの盾を何度も激しく切り裂いた!
「なっ、なんだと――」
なんと、盾に亀裂が!
「うおりゃあ!」
シメはブラスト・キック、お馴染みの風をまとった蹴りの一撃で盾が割れると、
そいつの背後に守っている戦士ごと勢いよく吹っ飛んだ!
「もらったぞ!」
そこへ敵の射手の攻撃がレイを狙って――
「魔導士をナメるな!」
レイのミサイル・ガード!
弓矢の威力を減退させると、レイは飛んでくる矢を奪い取った!
「そんなことしている場合ですか! あなたの相手はこっちにいます!」
と、ウェイドは盾を正面に構え、レイに矢を飛ばした敵を狙って突撃!
「くっ、おのれ!」
ウェイドに対抗して盾をなんとか受け止めている! だが――
「やってくれたな……お前!」
レイは魔法で弓を形成すると、奪った矢を使ってそのまま打ち返した!
「いくよ……フレア・ブラスター!」
ものすごいスピードで矢がそいつに飛んでいくと、激しい爆炎が発生し、そいつはその場で思いっきり吹き飛んだ!
「危ない危ない……」
それに対してウェイドは必至に盾を構えていた。
「というか、敵には魔法使いはいないのか?」
マグアスはそう訊くとクラナが答えた。
「あいつだよ、魔封じの矢を仕込んでやったからマトモに使えない状態だね」
と、クラナは指をさすと――
「なら、お前も終わりだぁ!」
レイはさらに自前の矢を取り出すと――
「地獄に落ちろ! デッド・ブースト!」
即効で敵に矢が飛んでくると、そいつはその場で崩れ去った――
「いや、てか……レイって強っ――」
ディアは唖然としていた、なんとか頑張って1人斃したと思ったら、レイはそれをはるかに上回って行ったというか――
「クラナ、お前の弓使いよりも強くないか?」
マグアスも唖然として言っているが、クラナは――
「私も別にうまいほうじゃないからね。
でも――んなこと私に訊いたって仕方ないでしょ」
と言った。
「ま、まあ……レイさんが強いのはいつものことなので――」
ウェイドは冷や汗をかいていた。
「あははっ、相変わらずですねぇ、もはや何が何やら――」
スクライティスは笑ってごまかしていた、何が何やらとは彼に一票。