宿場町に到着した。
聖堂は廃れたが、それでもかつては流石聖堂への道のりの途中というだけあってか、宿場町の規模はそこそこ大きめだった、
それに案外ノース・エンドで一旦宿を取らなくたって充分な距離でもあったような気がする……レイはそう思った。
そもそも一旦ノース・エンドを経由してからここに来ること自体が結構な遠回りだった、
これは今後このあたりを冒険するのなら課題だ、森の中にこんな宿場町がある事自体が盲点なのだが。
まだ日が落ちるというには少々早いが森の街道ゆえに車も小ぶりなのを利用する必要があり、馬も森用のにしないといけない。
だからここで今までの馬車とはおさらばし、明日の朝は新しい馬車に乗り換えることとなる。
その手続きや手間もあるし、何より森の中は暗くなるのも早いので、その日はいち早く休むこととなった。
「なんだか妙な感じですね……」
宿をとって部屋に到着するや否や、ラーシュリナがなんだか不安そうにしていた。
「えっ? え、ええ……なんていうか、こう……なんとも説明しづらいのですが――」
ラーシュリナは困っていた、説明が難しいということらしいが、なんとも奇妙な感覚に包まれていたようだ。
「そういえば聖女様? 魔女様? そういうのがいるって話だったか。
ここまでの道のり、人々の話、特別心配するようなことはなかったように思うが。
ガトーラも気を付けるよう言っていたが、あれはあくまで伝道師――
つまり、人伝というものに頼った能力者だからな」
マグアスはそう言った。そこへウェイドが話をした。
「それというのはつまり、噂で終わる可能性があるということですかね?
ですが、軽く訊いてみたところ、この町では聖女様の話があるようです、
どうなんでしょう?」
噂だけでは終わらないか……マグアスは悩んでいた。
「マグアスも楽して行ければいいなって思っているみたいだね」
「ああ、しっかりと顔に書いてあるからね、
今のセリフの通り、とうとうボロが出ちまったってことだよ」
その話を聞いたマグアスは冷や汗をかいていた。
「ことあるごとに人のサガ人のサガって無茶苦茶うるさいけどさ、
聖獣を含めた生きているもの共通のサガってことだね」
マグアスは悩んでいた、いよいよ言われてしまった。
「あのー? ところでずっと気になっているんですけど、魔女というのは……?」
そう言えば、ラーシュリナは知らないのか。
噂で聞いたことは……ないか――。
4年前にアーケディスなどで起きたことの一部始終をラーシュリナに話した。
「プリズム族が!? それで”魔女”……」
ラーシュリナは唖然としていた。
「いや、でも、その――彼女は悪い人ではないような感じなのです、ですから――」
ウェイドはそっとフォローしていた、するとラーシュリナ――
「ふふっ、ウェイドさんて本当に優しいのですね!」
そっ、それは……ウェイドは照れていた。
「ムッツリだからねぇ♪」
と、レイは言うとウェイドは焦っていた――辞めてくれと言わんばかりに……。
だが、ラーシュリナは優しかった。
「そうですよね! 外の世界の男の人はそういうもんですよね!
私たちの力が効果的に働くのもそういうことだからこそなんですよ!
つまり、ウェイドさんは健全さんってことですよ!」
なっ、なんと、この女神様は許容するのかっ!?
いや、これがむしろプリズム族なのか――レイは舌を巻いていた。
「だから、私は別にじろじろ見られても平気ですよ!
これがプリズム族のステータスなんだなって!
あ、念のために言いますと、6年前からのことですね!」
え、バレてるし……ウェイドは悩んでいた、その当時からバレてるのか……。
「でも、そうなると――その魔女も何とかしないといけないですね……」
えっ……なんだか話は意外な方向に――。
「ですよね! やっぱり、プリズム族は魔女ですよね! いいんですよ、慣れてますから!
私たちは魔女、だからこそ自分たちの存在を戒めて生きているんですよ。
私がこうしてここにいるのもそれが理由だったりします、
みなさまのために私の力がお役に立てればいいな……とか、
同族が何不自由なくこの世界で生きていくためにするにはどうすればいいのかな……とか、
いろいろと考えるためにこうしているんですよ!」
素晴らしい! 大きな十字架を背負ったような感じだけど、でもそれでも前向きに生きている彼女!
こんな素晴らしい女神様って他にいる!? レイは完全に彼女の言うことに聞き入っていた。
「だけど――その魔女の気持ちもわからなくもないですね。
自分の力で多くの人を支配し、そしてこの混沌とした世界に平和と秩序をもたらす、そのためだったら――
あ、いえ……別に本当にしようというわけでは!」
そうとも! こんな素晴らしい女神ラーシュリナ様の楽園ができる!
人々はみな女神ラーシュリナ様を崇拝し、女神様の発する甘い香りによって世界は平和になるのだ!
レイとディアはそれを期待していたが、言わずともがな、彼女にその気は一切ない。
夕食後、各々建物の4階にある部屋……男性と女性に分かれて部屋に入った。部屋自体は隣同士である。
「次はラーシュリナの番よーって、あれ? ラーシュリナは?」
クラナはシャワーから出ると彼女がいないことに気が付き、レイに訊いた。
「夜風にあたってくるって。でもベランダじゃなくて外に行ったんだよ」
「そう、レイは行かなかったのね?」
「そりゃあ――見ての通りだよ」
レイもシャワーの後だった、ということはつまりそういうことである、
今年の旅の冒頭でも説明した通りだが、レイは髪を伸ばしている、
つまり、髪を洗うと解かすのが大変なので毎回やるとそれは大変である。
だが、今回は久しぶりに髪を洗ったので、その際の手入れは確実に念入りに行っているのである。
レイは手入れを終えた後にベランダに出ると、隣の部屋のベランダにはウェイドとウサギがいた。
「やあレイ! 本当に見違えたよね! 今のレイ、すっごくいい! とってもいい!
その長い髪もすごくいいじゃんか! 俺、そういう感じがすごい好きだよ!」
この色ボケが言うんだから間違いない、そう思ったレイは素直に受け取っていた。
「確かにレイさんには驚かされましたねー。
それにしても、修行? 試練の祠ですか? 余程の修行を積まれたんでしょうね」
そう言われてレイはなんだか得意げだった。
「ところで、スクライティスとマグアスは?」
レイは訊くとウサギが答えた。
「マグアスはもう寝てるよ、なんだかんだ言ってて最初に寝るのはいっつもこいつからだからね。
休んでて大丈夫なのかってどの口が言ってるんだろうな、マジで。
スクライティスは座禅組んで微動だにしないよ」
マグアスめ……それにしてもスクライティスは相変わらずのようである、
クロノリアでもだいたいこんな感じらしい。
「そっちは?」
ウサギは訊いてきた。
クラナも髪が長いので今現在解かしているが、ラーシュリナは――
「おや、なんだか下界のほうが騒がしくありません?」
と、ウェイドは気が付いた、確かに、こんな夜中になんだか騒がしい。
暗いのでわかりづらいが、どうやら多くの人だかりがあるようだった。
「集会かな? でも、人の多さの割には賑やかさが足りない気がするな――そういう行事?」
ディアは考えていたがわからない。
しかし、そのうち人の集まりも絶え絶えに、いつの間にかいなくなっていた、何だったんだろう。
すると、そのうちラーシュリナも帰ってきた。
彼女はシャワーを浴び、髪を解かして出てくる時には既にクラナはふっかふかのベッドでぐっすりと眠っていた。
一方でレイはラーシュリナが来るのを今か今かと待ちわびており、
そのままラーシュリナお姉ちゃんの発する美女の香りに包まれてぐっすりと眠りこんだ――