そして、城の頂上へと難なくたどり着くとガトーラに会った。
「おやまあ、こんなところまで来てくれるとはね」
それにしてもガトーラはこんなところで何をしているのだろうか。
「ここで祈るとなんだか落ち着くんだよ」
流石は宇宙人!
「あんた、”水鏡の欠片”ってどこにあるか知らない?」
クラナはいきなり本題をぶつけた。
「”水鏡の欠片”――それはかつて、この城にいた英雄たちの戦利品――
鏡のように磨かれた盾が意味するものは、まさに映した相手を切り刻むかの如き刃を跳ね返すもの――」
また始まった。
「はいはい、この城の宝物庫かなんかで盾を探せばいいんだね。
そうと決まったら探すよ」
クラナは呆れながら言うとガトーラが言った。
「そうそう、その宝物庫だけど土砂に埋もれてしまっているから掘り出すことから始めないといけないよ」
案外簡単に済む話ではなさそうだった。
「ああそうだ、クロノーラ、イーグル・ガンがここにやってきたよ。
健闘を祈っているぐらいだったらお前も手伝えって言われて怒られちゃったけどね!
あいにく知識を与えることはできても力を貸すなんてことは流石に難しいからねぇ――」
と、ガトーラは照れた様子で言った。
イーグル・ガンに一票。そいつとはどうやら気が合いそうだ、レイはそう思った。
「あんたは足手まといになるからあいつも本気で言ってないと思うよ。
だけど、あいつはレジアを置いてまた行っちまったのかい――
置いていくしかないんだけどしょうがないやつだねぇ……まあいいさ、そっちは私らに任せてくれよ。
ところで”セレスティアル・シール”って何?
書物を解明させたのはいいんだけどわからないやつだらけで困っているところだよ。
あんたのお得意な伝道師節を発揮しても何でもいいからいろいろと助けてもらえるかい?」
という割にはイラついているクラナ……気持ちはよくわかる――いや、怒らないとは言っていないか。
「”セレスティアル・シール”?
ごめん、流石にボクの知識にはないもののようだ。
語感からするとセレスティアル・シール……天と封印するものという感じだけど、
それ以上はわからないな――」
こいつにもわからないことがあるのか、まあ……伝道師だから所謂”言い伝え”以上のことはわからないってわけか。
ということで、なんとか頑張って――頑張らせて”水鏡の欠片”を発見するに至った。
その経緯はこうである――
「ディア! 流石聖獣様だね! 見直したよ!」
「ふん、俺の手にかかればこんなもんだぜ。いつでも見直してくれてもいいんだぜ、お嬢さん」
ウサギは超かっこよく、ものすごくかっこよく、とにかくレイに向かって格好つけていた。
レイはもちろんなのだが、本命は――
「ディアさん! 流石です! 素敵です! 素晴らしいです!」
「ふっ……そこの素敵なお嬢さん、困ったときはいつでも俺に言ってくれてもいいんだぜ――」
「まあ! 素敵です! しびれますー!」
そう、美人のラーシュリナおねー様である。
そんなディアとレイとラーシュリナのやり取りが続くと、
ディアは気分を良くしたまま背中で語るとでも言わんばかりにその場をかっこよく去って行った。
「えっと、レイさん――ディアさん1人で探してくださったというのに、あんな感じにほめてあげるだけでよかったのですか?」
ククッ、ウサギに媚を売ればざっとこんなもんよ! レイは腹黒かった、女は怖い。
「いいんだよ、あの色ボケクソウサギは美女には目がないんだから、
女の人に煽てられればあいつはなんでもするんだよ♪」
「それ――言ったら失礼ですが単純ってことですか?」
ラーシュリナははっきり訊いてきた。
「そうだよ、単純なんだよあのウサギ、聖獣のクセに」
クラナが呆れ気味に言うとラーシュリナは苦笑いしていた。
ふっ、所詮は色ボケクソウサギ、単純よのう――レイは腹黒く笑っていた。
「ま、まあ――私は力仕事はニガテですし服も汚れてしまいますから、代わりに全部やってくださって助かりました!」
流石はラーシュリナはいい人だ。
そして、ガトーラはレイたちのもとへとやってきた。
「やあ、無事に”水鏡の欠片”を見つけたようだね。
それと、その書物で要としている材料で”燐光の軌跡”と”セレスティアル・シール”について気になったことがあるんだ」
”燐光の軌跡”?
「”燐光の軌跡”っていうぐらいだから、聖獣レジアに関するものだろうよ、目星はついているよ。
だからこれからレジアに会いに行こうと思ったんだ」
と、クラナが言った、しかし――
「確かにそれはそうなんだけど、”燐光”というのは聖獣レジア――すなわち”ミラージュ・フライヤ”と呼ばれる体をなしている彼女を指すものではない。
彼女は”燐光”と呼ばれるような体をしてはいるけれども、多分それじゃないと思うんだ。
言ってしまうと、この場合の”燐光”というのは聖獣レジアをルーツとするもの……直接的なルーツというわけではないけど、
”祖が聖獣レジアに近しい者”というのが正しい解釈だろうね」
ど、どういうこと?
「つまり――”燐光”というのはレジアとは別のものを示しているってこと? だったら一体何を示しているんだ?」
クラナはそう訊くとガトーラは頷いた。
「そう――それは”運命の精霊”様のことを示しているんだ。
実際、聖獣レジアと運命の精霊様との直接のつながりは一切ないんだけれども、
運命の精霊様というのはその聖獣レジアの発祥となる地に所縁がある場所なんだそうだ。
そう言ったこともあってか、”燐光”=”運命の精霊”様とされることが多いんだ。
これについては他の精霊界の高級精霊様たちも同じような……所謂隠語みたいな名称で使われることがあるから恐らく間違いないね」
聖獣様の次は、精霊界の高級精霊様たちの存在――あな恐ろしや、私の旅ってどーなるんだろう……レイは少々ビビっていた。
「運命の精霊様……まさかここへきて”フェリンダ=フローナル”の話が出てくることになるとはね。
言われてみれば確かに彼女はプリズム族由来の精霊、リミュールの里に所縁がある存在であることが濃厚――
なるほど、クロノーラの記憶では、運命の精霊様は”燐光神”とも呼ばれることがあるって言っているようだね」
なんと! 意外と身近なところにヒントがあったのか……クラナはそう言いながら頭を押さえていた。
「それと、”セレスティアル・シール”は恐らくなんの変哲もない物体のはずだ」
いきなり出し抜けにガトーラはそう言った、なんの変哲もない物体って――
「これ以上は特に言えることはないよ、単に風の噂で流れてくることを伝えたまでだからね。
ヒントは方角で言えば……ここから北にある島かな?」
ますます変人ぶりに拍車がかかってきたな、
ここから北にある島? どれだ? いや、待てよ――レイは考えた、そういえばここから北の海にはアトローナシア島があったか。
「それと、これは注意だ。
これから”破壊の灯”を探るために東に向かうのならキミらが危惧している魔女と衝突する可能性が高いってことだ。
だから十分用心したほうがいいと思うね」
情報はいい情報なんだがやはり変なやつである。