クロノーラ・クロニクル

第3章 旅は道連れ世は情け、人はデコボコ道中記

第36節 シン・超絶美女

 たどり着いたのは波止場だった。 そこには憂いを帯びた1人の美女が、北東の海のほうを向いて佇んでいた……いい絵だ。
「ん? おや? あれはもしかして――」
「あれ? まさかあの人はめがm……いえ、まさかあの人では!?」
 クラナと、”女神”と言いかけたウェイドはその女の人にすぐさま気が付いた。
「うおおおおおーーーーーっ! なんて、なんて、なんて、なんて、なんて、美しいん――」
 と、ウサギは興奮しているが、途中でクラナがウサギの顔面を殴りつけ、すぐさま黙らせていた。 そしてレイは――
「お姉ちゃん!」
 レイはその女の人の背後からしっかりと抱きしめていた。 女性は当然驚くが、レイの方へとゆっくり振り返ると――
「えっ? ええっ!? あれ――まさかレイさん……ですか?」
「うん! そうだよ、ラーシュリナ!」
 そう、彼女ラーリュシナお姉ちゃんとの再会だったのである。 あまりに見違えたレイに対して彼女も驚きを隠せなかったようだ。
「痛てっ、痛てててて……そうっすか、お知り合いですか――」
 ディアはよろめきつつ、顔を抑えていた。
「ぷっ、プリズム族!? と、トラウマが――」
 マグアスは4年前の惨事を思い出してしまった。
「ほうほう、なるほどなるほど……」
 スクライティスは意地悪そうにそう言うと、
「見るな!」
 マグアスは焦ってスクライティスに怒鳴りつけていた……”見える”ということはつまりそう言うことである。 それについてはウェイドも当然――
「ちょ! ちょっと! もしかして私もですか!?」
「当たり前だろう? なるほど、キミのムッツリ症がはっきりと表れているね…… な、なんと! そっ……そんなことまで!?」
「辞めてください! お願いですから!」
 なんだなんだ……2人は完全に弱みを握られている――

 ラーシュリナと再会したのだった、なんだかとっても嬉しいな――レイはそのまま彼女に甘えていた。
「レイさん、なんだか見ない間に一段とキレイになりましたね!  前はあんなに可愛らしい感じだったのに、今はどちらかというと、 むしろ素敵な大人の女性って感じなので見違えてしまいました!」
「ううん、ラーシュリナに比べれば全然だよ!」
 久しぶりに会ったのだ、積もる話もたくさんあった。
「ところで、ラーシュリナはまたお遣い?」
「ええ、そうなんです。でも、今回は以前とは違い、外の世界を行き来することを許可されたのですよ――」
 ラーシュリナは話を続けた。
「ここだけの話ですが、”封じられた邪悪”というのが……レイさんなら聖獣様とご一緒ですから……」
 もちろん……だが、だったらどうしてラーシュリナが知っているのだろうか、レイは訊こうとするとクラナが言った。
「つまり、今回はレジアの差し金ってことだね?」
 あっ! レジア! レイはすぐ様反応した。
「そうなんだ! 聖獣レジア様のお遣いってことなんだね! リミュールの里にも聖獣様がいるんだよね!」
 ラーシュリナはニッコリと微笑んだ。
「はい! 今回は聖獣レジア様から直接話を伺い、ここに来たのです!」
 直接――クラナは考えた、あんまりそんなのは一般的なことではないことだ。 どういうことか――まさか、ラーシュリナは特別な存在かなにかか!? すると――
「レジア様はとっても素敵な方です!  とってもお綺麗な方ですし、それにいろんなことを知っていらっしゃる方で、 いつもいつも直接お話をいただけるので本当にためになるんです!」
 あっ、そうだった――あそこはプリズム族の里、そもそもが閉鎖空間であり、 それ故にレジアもまた同じ閉鎖空間にて場を共有するもの――だからこそ、他の聖獣とは比べるべくもないほど身近な存在であり、 それゆえに等身大の存在として成立している者―― ひっそりと聖獣クロノーラであることを隠して住んでいる私なんかとは違うんだな、クラナはそう思った。

「ところで――ラーシュリナの用は済んだの?」
 レイは訊いた。
「はい! クロノーラ様に会いに行くように言われたんです!  だから、こうしてレイさんと会うことをずっと楽しみにしていたんです!」
 なんと、レイたちに会うことが目的だったのか。 だが、それについてはクラナは織り込み済みだった。
「イーグル・ガンが大けがをして帰ってきたって言ってたね。 これからも毎回あんなだと心配だからって私に泣きついてきたんだよ。 私らだって何ができるわけでもないんだけど、 これからランゲイルについてどうするか考えるわけだからね、もののついでってやつさ。 だから一緒に面倒を見てやろうと思って、いろいろと探ろうと思ったんだよ」
 探る? クラナは話を続けた。
「”封じられた邪悪”の封印ってのは大昔のクロノーラが施したものらしい……そう言われているんだけど、 それがなんなのかは私にもさっぱりわかんないんだよ、クロノーラの記憶にもないみたいだからね。 とはいえ、それであえて大昔のクロノーラが施したものって言うぐらいだからね、 何か理由があるんだろうと思っていろいろと調べることにしたんだよ。 そしたら私にも手伝わせてって言うから――」
 それっていつの話だろうか、それにクロノーラが施した封印?  いろいろと訊きたいことがあったがクラナは答えた。
「なんでクロノーラがしたことになっているのか――そいつはさっぱりだよ。 確かに聖獣の間ではそう言われているらしいけど、私はマグアスとガトーラからそれを訊いただけに過ぎないんだ。 あいつらが言うんだからそれはそうなんだろうけど――それ以上のことはあいつらにもわからないらしい、 当時のクロノーラが墓場まで持っていったみたいなんだ」
 それはそれで返って気になるな――
「んで、この話はレイが修行をしている間に聞いた話だね。 大体修行から出てくる1か月ぐらい前のことだったわね、 私もあそこにはよく修行しに行くからね」
 試練の祠――そういうことか、 深層心理に働きかけて感覚を研ぎ澄ます空間だから、案外遠くの人との会話もできたりするわけか―― それはすごいな、試練の祠……レイは舌を巻いていた。
「それに……イーグル・ガンとは約束があるんだ、レジアにはあんまり無茶させたくないってね。 確かに16年前のあれは難産だった――12年前のあれも相当堪えたし、7年前も3年前のももう死ぬんじゃないかと思ったよ――」
 ん? 出産の話? あれ、レジアって確か――