クロノーラ・クロニクル

第3章 旅は道連れ世は情け、人はデコボコ道中記

第34節 アークデイルの情勢

 ……そういえば年齢の話をしていなかったっのでここですることにしよう。 但し、今回のお話では聖獣ばかりということもあって、年齢不詳だらけが集っている。 そういう人たちについては実年齢不明で通すことにしてお話しすることとしよう。
 レイ18歳……最初にドミナント行きをクロノーラこと、クラナから言い渡された年齢である。 4年前の旅では彼女は20歳だった。 そして――今では24歳のハズなのだが彼女は精霊族、人間族と比べると明らかに長寿のため、 純粋に見た目24歳と言うわけではない。
 そう、ここで種族ごとの年齢補正というのがかかる。 生物が活動するうえではなるたけ若い方がいいというのはまさにその通りで、どの種族も大体その傾向にある。 人間は1年に1つ年を取る計算ではあるが、精霊族となると、 10代後半頃からこの年の取り方に対して人間族よりもたくさん時間を要するようになるという補正がかかるようになるのである。 つまり、18歳の頃となると人間族とはそこまで大きな差はないのだが、 24歳までとなると、既に見た目年齢差にして4つも若いという計算となるのである。
 無論、レイはここで試練の祠での年齢補正で、実年数経過分の3年を引いた6年を加えているため、 つまり実年齢にその6年の補正を加えたみなし実年齢30歳……精霊族の補正で見た目22歳のおねゐさんが爆誕したのである。 これ以上は修行していないからともかく、それにしてももし試練の祠の不具合でこの姿をしばらく維持するってんなら―― ちょっと犯罪すぎやしないか? ご利用は計画的に。
 とはいえ、それでも4年前の旅からはそんなに大きく年を取った姿というわけではなく、 実際には見た目年齢でも実年数同様に4年しか経っていないのでみんなが驚くわけでもない。 では、何が変わったのか? そう……それは彼女の体型である。
 それこそ、ラーシュリナに憧れているだけあって、まずは髪を伸ばした。 そもそも彼女は4年前までの身長は大体164程度だったが、 大人の女性を望んだ結果、なんと、身長が10センチ近く伸び、なんとも素敵なおねーさんに変貌していたのである。
 そして、伸ばした髪はツインテールにして三つ編みにし、それを最終的に一本にまとめると、 そこにデザインネットをかぶせてエレガントさと控えめさを演出――とはそうは問屋が卸さなかった。
「ん~♪ おいし~♪」
「……見違えても食べる量までは変わらないのね」
 おいしそうに食べるレイを眺めながらクラナは皮肉を言った、基本性質まで変わることはないということか……。 でも確かに、せっかくスレンダーないい感じの女性になったんだからその体形が台無しになるようなことをしないように…… 大丈夫だろうか、そればかりが心配である。

 続いてウェイド、彼は魔族だが、年齢基準は実は精霊族と同じぐらいである。 魔族は嫌う者が多いが、魔族はその実精霊族の派生種族なので、年齢の感覚は何気に同じである。 そして、年齢はレイの12個も上なので実年齢は36、みなしでは24歳という計算だ。
 レイのあまりの変貌ぶりに他が語ることが少なくなってしまったが以上である。 他は聖獣なので割愛しよう、特にウサギ――こいつだけは一番どうしていいかわからんやつなので説明を放棄するっ!

 そして、食事を済ませると――
「そうだ、クラナ、次の旅の行先はどうするの?」
 レイはクラナに相談した。フィールド修復には他に必要なものが5つあるようだけど、そのありかまではわからなかった。
「うーん、私もこの3つしかわからないよ。だけどそのうちの1つはちょっと待たせておいたほうがいいかもね」
 どういうこと? マグアスが答えた。
「”月光の破片”――あるとすれば恐らくランゲイル島だな」
 ランゲイル島ってまさか――
「覚えているよ。確か”封じられた邪悪”が目覚めようとしているんだっけ?」
 レイはそう訊いたが、他のものは表情を変えずにじっと黙っていた。
「どうしたの?」
 ウェイドが答えた。
「レイさんは修行していて話はまだ聞いていないと思いますが、 どうやらその邪悪というのが目覚めてしまったようなのです」
 あー、そういうことか――レイには思い当たる節があった。 いや、それはどういうことだ? クラナは訊いた。
「実はね、修行しているときにそんな感じの光景が見えたんだ――」
 試練の祠の中は祠に入っている人の深層心理に訴えかけるものがあり、 さらにそういう空間であることから、現実にはないハズの妄想や幻想といったものが映し出される場合もある。 そして、深層心理に訴えかけるが故に、その人の感覚を研ぎ澄ますことも可能にし、 見えないハズの未来を見させられることもあり得るのである。
 ということはつまりティルフレイジアよろしく、”見えてしまう”場合もあるのだ。
「漆黒の鳥が飛びあがっていたんだけど、それに対してまた別の鳥が応戦しているのが見えたんだよ。 もしかしてそれって――」
 別の鳥は緑色を帯びていて、 しかも羽根の中にたくさんの飛び道具を仕込んでいるという、なんとなく機械的で無機物的な鳥だった。
「そう、やつが”イーグル・ガン”だ。 聖獣の力は衰えている――ランゲイルの”封じられた邪悪”が目覚めてもやつに立ち向かえるやつは誰もいないだろう―― だからみんなで遠くからランゲイルを見張ることにしたんだがやつだけはそれを頑なに拒んでな…… だからやつだけあの地に残ったんだ、危ないというのに――」
 マグアスはそう説明した。
「確かに、聖獣も色々なのですね、無茶なことをする聖獣もいるということですか――」
 ウェイドは苦笑いしながら言った。
「そうだね、エッチな男もいれば女の子を見ると目の色を変える聖獣もいるぐらいだからね」
 レイは小さな声でぼそっと毒を吐いた。 それに対してディアとウェイドが「えっ?」と声をそろえて言うが、レイはさも何も言っていないかのようにふるまっていた。
「でもまあ――あいつの気持ちを考えるとわからないわけでもないけどね――」
 と、ディアが頭を掻きながらそう言った。
「そうか? 私にはわからんが――」
 マグアスは首をかしげていた。
「あんたにわかるわけないよ、そもそもイーグル・ガン”は元人間だからね。 あいつはあの島に情が残っているんだ、自分の生まれ故郷っていう情がね。 それを切り離さない限りはあいつもそう簡単に諦めたりはしないだろうさ」
 えっ、元人間だったイーグル・ガンの生まれ故郷がランゲイル島?