クロノーラ・クロニクル

第3章 旅は道連れ世は情け、人はデコボコ道中記

第33節 シン・レイ=オンティーニ

 雷光の石がもたらしたのはクロノリアの生活だけではない。 これを使うことで、あの”グレート・フィールド”の修理について書かれている書物の内容も解明できるのだった。 石に秘められた強大なパワーが書物に書かれているはずの内容を解明していく―― 次はどこだろう? 東だろうか、それとも西だろうか――
 クロノリアの山頂にある試練の祠――レイはここで修行をしつつ、書物の内容を解明していた。 雷光の石をそのまま持っていても書物を解く鍵とはならない――使用する側の能力も伴っていないといけないのである。 ゆえにレイは修行をしつつ、その傍らで書物の謎を解明していくのである。 ただ――記載の内容はその時の情勢により変わることがあるとクラナから聞かされていたレイ、果たして――

 祠の中では修行はレイが体験した年数では12年間も経過してた。 しかし、それは特殊な空間である試練の祠の中での出来事、 実際には3年しかたっていないハズである……それでも3年も経ったんだな――レイは遠い目をしていた。
 女性と言えばだいたい不用意に年を取る行為などとは避けたいはずであり、なるたけ若くて綺麗を保ちたいものである。 だが、このクロノリアの試練の祠というのはそんなニーズにももちろん対応して―― いや、そうじゃなくて、実際の見た目年齢は当時のままであり、精神年齢だけが12年経過しているのである。 但し、精神年齢だけ歳をとっているとはいえ、世俗には一切触れていない12年間であるため、 世俗耐性だけはついていても精神が年老いたというわけではない。
 それにしても3年……3年前といえば雷光の石を持ち帰った翌年の事だった。 私とウェイドさんと2人の聖獣と、ウサギが……ウサギも聖獣だったっけ――レイはいろんなことを思い返していた。

 レイは家に戻ると何やらおいしそうなニオイがしてきた、ご飯だー!
「いただきます!」
 目の前に並んでいたお皿に手を出したレイだったが、当たり前のようにクラナに怒られた。
「こら! 帰ってきていきなりいただきますじゃあないでしょ!」
「はーい、ごめんなさーい♪」
「でもまあ、普通になんでもなく帰ってこれてよかったわ」
 確かに、修行から帰ってくるといえばたいていの人が心身ともにボロボロになり、 もはや再起不能といってもいいぐらいに満身創痍の状態で帰ってくる人が後を絶たないという。 それこそ、祠の前で身体が崩れ、その場から身動きが取れないというのが通例である。 しかし、それに対してレイは――
「何作っているの? おなかすいたー! 早く食べたいから私も手伝うね♪」
 余裕じゃないか。
「まったく、今日はあんたが帰ってくるっていうから準備していたのに、手伝わせるハメになるなんてね――」
 クラナは嬉しそうだった。

 そしてレイの家にて、あの旅のメンバーが集まり、お昼を共にすることとなった。 そこへ――
「私もご一緒させていただいてもよろしいかな?」
 スクライティスが来た。しかし――
「あれ? みなさん、どうかしたのですか?」
 彼の言うことを聞いている場合ではなかった、それ以上のことが――
「ねえねえキミキミィ♪ どこの娘かなぁ~? キミってすんごくキレイだねえ~♪」
 ウサギは席を共にしている女性を見つけてはすぐに尻尾を振り回していた。相変わらずの色ボケクソウサギである。
「えっと……失礼ですが、どちらさまでしたっけ?」
 ウェイドもその女性を見て悩んでいた。
「もっ、もしや――これが、試練の与えた刻みの成果だというのか!?」
 マグアスは驚いていた。
「何をぼさっとしているのよ、まったく――ほら、さっさと食べるよ!」
 クラナはみんなの様子を見ながらイライラしていた。
 そう――そのみんなの様子というのは何を隠そう、レイに対するリアクションに他ならなかった。
「あれ……? うんと……まさか! まさか、キミ、レイなの!?」
 さっきまで尻尾を全開に振り回していた色ボケクソウサギは尻尾を振るのをやめ、 今度は背筋をピンと立てながらものすごく驚いていた。
「えっ、レイさんって、あのレイさんですか!?」
「お、恐るべし、試練の祠――」
 ウェイドとマグアスも冷や汗をかいていた。
 そう、レイ=オンティーニは試練の与えた刻みの成果により、完全に見違えていたのである。 試練の祠がもたらす効果はもう一つあり、 実際に試練を受けた年数から、祠の内部で試練を受けたみなし年数のいくらか分のうち、 選んだ年数分の実年齢を加算することができるのである。 但し、これはあくまで表面上の効果であり、実際のその実年齢だけ年数経過すると効果は収束する。 しかし、修行年数が多いと実際のその収束具合は大変長いスパンのものになるらしく、意外と時間をかけるものらしい。 というのも、そもそもクロノリアではそこまで長くここで修行するものはまずおらず、 許しがあってもせいぜい実修行期間では長くて1年、祠の内部では3年が限界だが、 この場合は年齢補正は微々たるもので恩恵は非常に薄いものである。 しかし、今回は3年の12年……この先私はどーなるんだぁ?  もしかして不具合かぁ!? ってことは案外このまま美魔女コースまったなしかぁ!?  ……いや、案外それもいいかもしれない、レイはそう思っていた。 見惚れている男がいたら片っ端からぶん殴ってやるのも一興だろうか……恐ろしいことを考えるな。
 とにかく、レイとしてはやはり、あのラーシュリナのような大人の素敵な女性に憧れていたので、 その分修行を頑張ったのである。まさに女の執念ということか。
 しかし、その効果はてきめんであることが立証されたようだ、 なんたってディアが尻尾をぶん回し、そしてムッツリなウェイドが自分のことをジロジロとみている―― これは効果あり!? 私っていい感じの大人の女性?
 しかし、それで一番ビビっているのは他でもない、レイ自身である。