クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第31節 魔女の真意

 つまり、既に術中にはまっていたウェイド、 あの時ディアたちが目撃していた光が見えないと言っていたのはウソであり、 そもそも最初から光がある方向へと目指して進んできたのが真相だった。
 そしてその光というのはプリズム族らしく癒しの光そのものであり、 暖かなそれはプリズム族らしく魔性をしっかりと忍ばせている誘惑の香そのものであり、 光として見えるのはまさに誘惑の香の魔性の部分そのものだったためらしい。 ゆえに女には光は見えず、異性である男にしか見えないというのが真相だったようだ。
 色ボケクソウサギについては言うに及ばずだが、マグアスも流石に魔女を前にしては無力だったようだ。

 しかし、彼女は邪悪な行動を起こしたり、 魔女と言われたり謳っている割にはそこまで言われるほどの人ではないような気がするとウェイドは言う。
「いや、その――私が未だに彼女の術にかかったままと思われても仕方がないのですが、彼女、悪い人ではありません。 ご存じのとおり、このあたりの治安を安定させることを目的としている点でも、彼女は”善行”をしようとしているようです。 そもそも彼女は魔女というイメージは程遠い、普通の女の子って感じです。 レイさんとはちょうど似たような印象を受けます――いえ、どちらかというとレイさんのほうが元気だと思いますが――」
「そんな元気だなんて濁して言わなくたっていいよ、 彼女は大飯喰らいのお転婆のじゃじゃ馬じゃないってことでしょ」
 クラナ! ゴルァ! お転婆はともかく、誰が大飯喰らいのじゃじゃ馬だ! レイはそう訴えた。
「それから――なんていうか、強い意志みたいなものを感じます―― 強い使命感というか、支配するというより頑張るんだって感じがして、 なんだか憎めない印象なのですよ」
 クラナは頷いた。
「いくらあんたがムッツリでも私は信じるよ。 あの子はプリズム族、いたずらに魔女を語ってどうこうするというのは彼女らの掟には反することだからね。 だから何かしらの要因があってあんなことをしているのは確実だね」
 ムッツリ――そう言われてウェイドは悩んでいた、いよいよバレてしまったかと――。
 だが、ムッツリを刺しおいてもウェイドはいい人であることには間違いない。 だからこそ、レイもウェイドの言うことは信じることにした。ムッツリだけど。

 とにかく4人はそのまま城を脱出した。 4人……そのまま不法投棄していくのはダメか……仕方がないのでもう1匹回収することにした。
「あれ、あんなところに引っかかっているよ」
 聖獣ディヴァイアスなんていう欠片は微塵もなく、 ただのウサギが木のだいぶ上のほうの枝に引っかかったまま気絶していた。 この木のおかげで下まで落ちなくてよかったということか、木に感謝するんだな。
「どうします? あそこまで届きそうにありませんが――」
 ウェイドはそう訊いた。
「やれやれ、仕方がない――」
 と、マグアスは前に出て力を解放しようとするが、
「そんな無駄な労力を使うんじゃないよ。レイ、あいつのこと、任せていい?」
 クラナはそう彼女に振ると、レイは腕を鳴らしながら木の前に――嫌な予感しかしない。

 レイはその木を勢いよく良くど突いた。
「この……色ボケクソウサギ!」
 さらに木をど突いた。すると、上から白い物体が地面の上に落っこちてきた。
「痛っ! くっ、オノレェェェェェっ! 麗しの女神シャルアン様に不用意に触れようなどとは言語道断! この俺が許さん!」
「許さんってどう許さんのよ?」
「許さん――」
「どうしても許さん?」
「そう――許さ――」
 色ボケクソウサギはあたりを見渡すと、その状況に気が付いた――
「……はっ! お、俺は一体今まで何をっ!?」
 今更遅いわ! レイはそう言いながらウサギの腹に強烈な蹴りの一撃を与え、再び空高く吹っ飛ばした。
「ウボァー!」
 ったく、こんの色ボケクソウサギめが。

 確かに、あの魔女はそんなに悪いやつではないのはレイも考えていたことだった。 だって、あの時もそうだ、レイとクラナはあの屋敷に軟禁されていたのである。 軟禁だから完全に拘束していたとかそういうのではないし、 同士討ちのときだってもう少しキツイ展開を予感していたのが割とあっさりと、なんだか腑に落ちない所がある。 だから実際には――ヘタな支配者が国を支配するよりは案外マシなんじゃ? レイはなんとなくそう思った。
「あの家のあの部屋に置くようにと指示したのは魔女シャルアンです。 レイさんが運ばれた部屋はどうやら彼女が寝室として使用していた部屋のようですね」
 ウェイドはそう言った――ってことは何か!?  レイは少し気になっていた、あのベッドの布団からした甘くていい香りというのは、あの魔女の誘惑の香りだということなのかっ!?
「そうなのかっ!? なんて羨ましいんだっ!」
 ディアは恨めしそうな目でレイを眺めていた。 ふふん、羨ましいだろこの色ボケクソウサギめ――レイは得意げだった。
「ほら! 言ってないでさっさと帰るよ!」
 クラナは呆れていた。ディアはうなだれながらしぶしぶと後をついていった。

 それからクロノリアへと戻ると住民たちは歓喜していた。 なんたって、クロノリアでは長らく失われていた雷光の石がまさに今ここにあるからなのだ。
 そして、この雷光の石をもとに、フィールド修理だけでなくさまざまな魔法技術のために使われることとなった、 クロノリアの昔ながらのやり方というものが復活した瞬間でもあった――流石に完全とまではいかないが。 そうなると、アーケディスにまた赴いて残りも回収しといたほうがいいかもしれないな。